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138.信じてみて、もう一度だけ……。

お待たせしました。

ちょっと体調的に休んだ方がよさそうだったのでお休みして、早めに寝ました。



本当はもっと上手く書いてあげられればいいんですけど。

ラティアの時も、リヴィルの時も、ルオの時も。


いつも同じように思うんですが、やはりこれが限界です。


ではどうぞ。



『精霊と仲良くなれば、その魔力の一部がもらえるパコ! 精霊の魔力がもらえれば、またレイネはパコ達を見ることができるようになるんだ、パコッ!!』


「要するに……」 


 

 イメージとしては強者の血を分け与えられて、力に覚醒するみたいなもんかな。

 それで強くなったからこそ、その相手との実力差をより実感できるようになる。


 レイネは元は精霊を見ることは出来ていたわけだから、鈍った体に活力を入れる、そんな感じだろうか。


 ……そうか、レイネが暮らしていたっていう天使の里はそもそも精霊が沢山いたんだっけ。


 じゃあその魔力を感じる能力も生まれた時から勝手に育まれていたはず。

 俺のジョブみたいなものなど無くても、天性のものとして、レイネ達は精霊を見ることができるようになっていたんだ。



 でも、それが場所を離れ。

 錆び付かざるを得ない環境に置かれて、精霊を認識できなくなってしまったと……。

  

 

 自分の理解を伝えると、精霊はそのお尻……桃っぽい体を前に倒して肯定を現した。


 

『そうだパコ! だから、ハルトには、そのための“試練・契約”に必要な物をレイネに伝えてあげて欲しいんだパコ!』


 

 ああ、なるほど。

 やっぱり精霊が気に入ったってだけではダメなんだな。

 その上で更に試験というか、資格を試される、と。



 言わば元々のレイネは生まれた時から泳ぎ方を知っていた状態だ。

 海の中で生まれ、水に親しんでいたと言ってもいい。


 でも今では陸に上がってしまい、泳ぎ方は覚えているものの体が付いていかない。


 今回は少々強引に水の中に入ってもらって、その鈍った体を再び活性化してもらおうってことなんだと思う。





「……よし、分かった」


 

 で、俺の役目は前段階、泳ぐ場所を用意してあげること。


 折角こっちの世界に来てもらったんだ。

 どうせなら少しでも、ちょっとでも幸せな人生を送って欲しい。



 そのように俺は協力する決意を固める。




『やったぁぁぁぁぁ!! パコッ!! パッコ、パッコ! 嬉しいパコ!!』




 分かった、喜んでくれるのは分かったから!

 その“パコパコ”と連呼するのやめてくれ!!


 何か俺の方が恥ずかしくなってくる!

   


 止めさせるために掴んだその精霊の体は、ムニッとしていて、凄く柔らかな手触りだった。


 

 ……く、悔しい。

 一時期ビーズクッションにハマった時のことを思い出す。

 ちょっと、いや、かなり病み付きになる感触だった……。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆




「はぁ? おま、何言ってんだ? 精霊が……見える?」

 


 だよなぁぁ。

 やっぱりそう言う反応になるか。



「信じられないかもしれないが、その、本当なんだ」



 協力すると決めて先ず、待っていてくれたレイネに打ち明けてみたはいいものの。

“実は私、あなたの前世が見えるんです!”とか言ってくる占い師くらい胡散臭そうに見られてしまう。



「えーっと……どう伝えればいいかな」


 

 言葉を探していると、付いてきた精霊がピョコピョコとレイネの周りを飛び跳ねだした。




『レイネ! パコだパコ! レイネとまた話したいんだパコ!』



 俺があれをやられたら蚊か蠅のように叩き落してるってくらい顔付近を飛んでいる。

 まあ、レイネは一切見えておらず視線も俺に固定されていたが。



「……その、レイネの周りを、今も、浮いてるよ。ピンク色の“愛の精霊”が」



 それを告げるや否や、レイネの様子が一変した。

 驚愕に染まった顔。

 雷に打たれたように数秒その動きが止まる。


 そして動き出したレイネは自分の周囲を振り返り続けた。



「――そ、そんな!? 嘘だ!! 愛想をつかして、皆いなくなって、だって、“パコピー”は……」



 えっ、コイツの名称“パコピー”って言うの?

 ネーミングセンス……。



 だがそんなことは勿論関係なく。

 話はグッと真剣さを増していった。



『パコはここにいるパコ!! レイネ、レイネッ!!』  


 

 精霊は必至にレイネに呼びかける。

 それはもう心の底からの叫びだった。

 

 未だ見えておらず、これから自分達の姿を見えるようにしようという話は関係なく。

 自分の声を届けたい、聴いてほしい、ただその一心で。



「……そうだ、冷静になってみればそんなことあるはずないぜ。ハハッ」


『レイネ……』



 自嘲気味に笑うレイネを見て。

 そして改めて自分の声が直接届かないことを知って。

 

 精霊は酷く辛そうに落ち込んでいた。


 

「…………」



 小説やゲームの話で、似たものを目にしたことがある。

 それは精霊ではなく、幽霊がいるという前提の話だった。 

 

 亡くなった後も、大切な人の側で見守り続けている幽霊。

 それを認識することができる能力を持った主人公や仲間達と出会う。

 彼らが何とか手を変え品を変え、その想いを生きている人間に伝えていくというものだ。


 それを見た時のように、何とも言えない切なさのような感情が、胸をスッと走る。

 


「あのさ、レイネ……」



 俺は既に自己完結しそうになっているレイネに、思い切って告げることにする。

 

 本来、彼女を買おうと思っていたのはダンジョン攻略の際、二つに分けたチームの意思疎通を図るため。

 つまり、元々はレイネに何か間を媒介するような役割を求めていたのだ。



 だが、俺達がそれを求める前に、レイネ自身がもう諦めてしまっている。

 何より、何かに手を伸ばそうとする意思を自ら封じ込めてしまっているのだ。



 最初に“必要以上に干渉するな”と言ったことも。

 俺と手を触れた後、反射的に反応してしまったことも。



 レイネが何かを手にするのを恐れていることの表れだったのだ。


 

 レイネに精霊とまた、共に歩める可能性があると信じてもらえなければ。

 もう一度手を伸ばしてみてみようかと思ってもらえなければ。


 これから彼女に少しでも幸せになってもらうなど、ただの絵空事になってしまう。


 だから先ず、何よりもそこから始めなければならない。


 


 

 なら先ずは俺達、いや、俺が。

 ――彼女の人生を預かった俺が、先に一歩踏み出すのが筋だろう。




□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆




「――俺は知っている。レイネが沢山苦しんできたことを」



 勿論それは俺の見て来たことではない。

 だが、それをちゃんと見ていた奴がいるのだ。


 

 真正面からレイネを捉えながらも、一度だけ視線を精霊へと移す。

 精霊は直ぐにその意図に気づいてくれた。


 自らが見たこと、聴いたこと。

 それを俺以上の熱意をもって言葉にした。



『そ、そうだパコ! レイネはずっと独りででも戦い続けてきたパコ! 誰かが見ていなくても、誰かが褒めてくれるわけでなくても! ずっと、ずっと!』



 レイネはしかし、しゃがみ込む。

 そして両手で耳を抑え、子供が駄々をこねるように嫌だ嫌だと首を振った。



 聴きたくない、聴いたらその先の闇に立ち向かわなければいけなくなる。

 そんな防衛本能のようなものから出た行動のように思えた。



 だがそれでも。

 そんなレイネだからこそ、立ち上がってもらいたいのだ。


 立って、前を向いて、その上で、幸せになってもらいたい。



 傷ついてきた、それでも頑張って来た、レイネだからこそ。




『人一倍最前線に立って! 他の傭兵たちの危険を少しでも少なくしようとしていたパコ!! だから、誰よりも生傷も増えて、誰もいない、見ていないところで自分で自分を手当てして!』



 その想い、必死な叫びの熱量はそのままに。

 だが、俺自身の想いもそこに乗せて。

 

 俺は精霊の言葉を同時的に翻訳していく。



「俺は知っている。レイネが頑張り屋で、周りのことを気遣う優しい子だって」


 

 耳を塞ぎながらも。 

 レイネは首を振る。

 

 言葉は一つ、また一つと確実に届いていながらも。

 そんなことは知らない、届いていないと主張するように。

 


「違う! あたしはそんな奴じゃない! 誰も守れなかった、弱くてダメな自分が大嫌いなんだ!!」



『パコも含めて、皆レイネが大好きなんだパコ! 優しくて、温かくて、皆が側にいたがったパコ! だからパコはレイネと一緒に来られた勝組なんだパコ!』


 

 誇らしげに、少し茶目っ気を加えるように。

 精霊が胸を張る仕草をして見せた。


 俺はあちらの世界にいるんだろう未だ見ぬ沢山の精霊のことをも思いながらも、また告げる。



「俺は知っている。今でも沢山の精霊がレイネを慕っているんだってことを。そんな皆に好かれるレイネを、また皆好きになる」



「違う……違うっ! あたしは、あたしはもう誰とも仲良くなんてならない! これからもずっと、ずっと独りで生きていく! だから、だから、誰からも好かれる理由なんて、ないんだっ!!」



 否定する声の力は弱まらない。


 だがそれは俺の言葉に対する拒否の姿勢なのか。

 それとも自分の中にある、自分を縛り付ける何かとの闘いなのか。


 分からないながらも、俺達の声が届いているということだけは、確かだと思った。




 後少し。

 もう一歩だ。


 自分に。

 そしてレイネに。


 その背中を後押しするような言葉を思い浮かべながら、言葉を紡いだ。  

 


『レイネの心はもうずっと悲鳴を上げてるって分かってるパコ! でももう一度だけ、もう一度だけ精霊を信じて欲しいパコ! また仲良くなって欲しいパコ!!』



「精霊を、俺を信じてみてくれないか? もう一度だけ、手を伸ばしてみてくれないか?」



「違う……違う……違う。あたしが、弱かったから、ダメだったから、何も守れなかったから、だから……」        

   


 レイネはうわ言のように繰り返す。



 首を振る力も。

 否定する言葉も。

 

 段々弱々しくなっていた。

 

 

 そのレイネに、そっと歩み寄る。

 同じようにしゃがんで、視線の高さを合わせた。



 それに気づいて、レイネも俯かせていた顔を少しだけ上げる。


 

 隠れていた真っ暗な部屋の扉が開き、そこから差し込む一条の光を恐る恐る見てみるように。

 視界の先を埋め尽くす闇、その中に見えた、小さな光を覗き込むように。

 

 

「レイネ」 



 彼女の肩に両手を置き。


 ハッキリと。

 そして力強く、その名前を呼ぶ。


 

 今までは精霊との合作の言葉だった。

 だがこれは、俺の、俺だけの言葉で伝えよう。


 

 その想いが一直線に届くように。

 俺は目を逸らさず、真っ直ぐレイネの目を覗き込み。


 そうして告げた。



「大切な物を失うのが怖いなら――レイネの大切な物は俺が守るよ」


「…………え?」


「もう二度と失わないように。大切な物の重みを感じられるよう、ずっと抱きしめていられるように。……俺が体張って、命賭けて守るから。な?」  



 レイネはしばらく沈黙する。

 最初は何を言われたのかよく分からないと言った感じで。

 

 ただ、次第に意味が頭の中に浸透していく。


 今まで言ってきた言葉達と共に。

 最後の俺の言葉が乗っかって、レイネの心へと届いてくれたんだと思う。

 

  


 そうして数秒か、それとも1分か、あるいはもっと長い時間か。

 静止してその顔を見つめ合っていると――




「――ぁぁぁ……ぁぁぁ……」



 じわっと、レイネの目に涙が溢れだしてきた。

 今までそれを押しとどめて来た心のダムが、とうとう決壊したかのように。

 それはもうとどまることなくその頬をどんどん伝い落ちていく。




 そして――




「あぁぁぁぁぁっ! うぁぁぁぁぁぁ!」




 俺の胸に顔を押し付け。

 レイネは大声を上げて泣き出した。


       

 

 ただそれは何かから逃れるための涙ではなく。

 前を向き、顔を上げたために溢れてしまった涙なのだろう。


 久しぶりに目に差し込んだ光が、ちょっと眩しかったから。

 そんな感じなんじゃないかな……。 





 俺は何も言わず、泣き止むまでしばらくの間、レイネの背中を撫で続けたのだった。

   

これでレイネのシリアスは一応終わりです。


次話はミニミニストーリーの方もレイネになると思います。


ふぅぅ……。


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― 新着の感想 ―
[一言] > 今回は少々強引に水の中に入ってもらって、その鈍った体を再び活性化してもらおうってことなんだと思う。  井戸の呼び水的な? >「大切な物を失うのが怖いなら――レイネの大切な物は俺が守るよ…
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