137.精霊からのお願い。
お待たせしました。
ではどうぞ!
『ふぅぅぅ……パコッ』
え、何コイツ“よっこいしょ”みたいに“パコッ”っとか言ってんの。
ってか、うっわ、良く見たら全然可愛くない!
ハートかもしくは桃っぽい、なんて思ったが、変な筋がそこかしこに浮いてるぞ。
脳味噌の皺かよ、え、これでどうやったら“愛の精霊”なんて大層な名称を名乗れんの!?
ここまでの道案内を務めてくれた実績がなかったら、真っ先にモンスターだと疑ってたレベルだわ……。
「おい、何だよ、まだ何かあんのか?」
レイネからまた、訝し気な声がかかる。
そうか……。
これも、まあ見えないか。
いや、むしろ見えない方が正解かもしれない。
こんなのが精霊だとか……これ、子供が知ったら泣くぞ。
サンタクロースなんて幻だとか言っちゃうレベルで残酷。
「えーっと……ちょっと休んでてくれ。俺はまだやることがあるっぽい」
「あん? ならあたしも……」
「良いから! いや、マジで! ってか多分俺がやらないといけないらしいんだよ」
付いてこようとするレイネを幾らか強引に座らせる。
肩を掴み、そのまま休んでいてもらうように言い含めた。
「……何だよ、わぁったよ……ったく」
ふぅぅ。
渋々ながらもレイネは承諾してくれる。
ただ俺が触れた肩を自分の手で触れ直していた。
……さっきと違って、何か、じっくり触ってるみたいな感じだけど……。
精霊を手振りで向こうへ追いやりながらも、その様子が少し気になった。
『……レイネ、いつも無意識的にやっちゃうパコ……。人肌が恋しいんだパコ』
俺と共に奥へと進んでくれた精霊が、悲し気な声音で教えてくれる。
それは有難いんだが……その語尾どうにかなんないの?
お前のその語尾と相俟って、何か卑猥なこと言ってるようにも聞こえてくんだよ……。
でもそうか、さっき突発的に触っちゃった手をズボンで拭かれた時はショックだったが。
あれ、レイネ自身も驚いちゃったんだな……いや、待て、そこじゃなくて。
「ってか、お前レイネのこと知ってんのか?」
片手で口を半分覆い、声を潜めながら確認する。
すると精霊は体の上下を半回転させ、とんがった部分を真上に持っていく。
『勿論だパコ!! というか、パコもレイネが買われた時についてきたんだパコ!!』
「え!?」
俺は驚きで、少し声が大きくなってしまう。
慌てて声を抑え、レイネがこちらを見ていないことを確かめる。
いや、“一人称もパコで行くの!?”ってことじゃなくて……。
『この世界は魔力が薄すぎるパコ! でもようやくここまで来てもらって、パコの力も全開、ハルトにも認識してもらえたパコ!』
「…………」
何で俺の名前を知ってるんだ、という疑問の前にだ。
何かこの精霊に俺の名前を呼ばれるのが恥ずかしくなってきた。
「……で? ダンジョン攻略を手伝ってくれたのには礼を言う。でも、単なる親切心ってだけじゃないんだろ?」
軽く咳払いしながらも、俺は精霊に尋ねた。
精霊は待ってましたと言わんばかりにその体を回転させる。
今度は二つに割れた丸みを帯びた部分が真上に来た。
……その動きもちょっと何とかならない?
『そうだったパコ! ハルト、助けてパコ! レイネが、またパコ達精霊を見ることができるように、協力して欲しいんだパコ!』
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
『パコはずっとレイネの側にいたんだパコ! レイネの苦しむ姿、頑張る姿、人助けする姿、全部見て来たんだパコ! 嘘じゃないパコ!!』
「……お前の言いたいことは分かった」
精霊は今まで自分が見てきたことを全て語ってくれた。
この精霊の言うことが本当なら、レイネは言葉じゃ言い尽くせない程の、大変な過去を経験して来たことになる。
いきなり故郷を襲われ。
家族も失い、唯一の希望の妹さんも今どこにいるか分からない。
それに、傭兵になって死に物狂いで今まで生きて来た。
そして今、幼い頃から共に近くで過ごしてきた精霊の存在を感じることができないでいる。
何を支えに、何を希望に生きているのかすら分からないような、そんな状況なんだろう。
『精霊の存在が濃かった天使の里から出ちゃって、レイネはそれ以来1体たりとも精霊と仲良くなってないパコ! だから精霊の魔力を感じ取れなくなっちゃったんだパコ!!』
「……何とかしてやりたいとは思うが……それ、俺に何とかできることなのか?」
それって要するに精霊を見るための視力というか、感覚器官みたいなものが衰えちゃった、ってことじゃないの?
だとすると、俺が直接出来ることは無いように思えちゃうんだが……。
「それに……精霊を認識できる奴なら、他にも心当たりがあるが……」
元はと言えば、精霊を認識できるって気づけたのも梓のおかげだしな。
だが精霊の返答は微妙なものだった。
『うーん……パコ達はこう見えても上位の精霊だパコ。単に精霊を認識できるって言っても、色々あるから、それが下位の精霊だけだったら困ってしまうパコ~』
「え、お前上位の精霊だったの? 色々と、その……大丈夫か?」
『それは大丈夫パコ! 付いて来て欲しいパコッ――』
「あ、おい……」
俺の話を最後まで聞かず、精霊は勢いよく飛んでいく。
ダンジョンの最奥にあるいつもの台座の裏だ。
見える位置とは言え、レイネに一言声をかけておく。
「レイネ、俺、ここにいるから!」
「お~う。ったく、一々言わなくても大丈夫だっての、子供じゃねえんだから……」
「…………」
小さな不満を口にしているようだが、それが少し嬉しい。
俺は胡坐をかいて休んでいるレイネを横目に、精霊のいる台座へと足を進めた。
『…………』
「――うぉっ!? な、なんだ!?」
台座の裏には、また別の黒い浮遊体がいた。
それはゴムボールくらいの大きさながら、黒という黒を詰め込んだ禍々しさの権化のような姿をしている。
そして小さな一つ目がついていた。
『紹介するパコ! “闇の上級精霊”だパコ。多分生まれたてほやほやだパコ』
「闇の精霊……」
確かに、これが“光の精霊”だパコ!!とか言われて紹介されても、即座に否定できるくらいには闇闇としている。
その闇の精霊はしかし、俺へと視線を合わせることも、会話をすることもせず。
目の前の“愛の精霊”と、そしてレイネを交互に見続けていた。
『前の世界でも精霊達は皆、レイネと契約……仲良くなりたかったパコ! でも、パコを含め、誰も、レイネに言葉を届けられなかったパコ……』
今までハイテンションだったこの精霊が、一際しょんぼりと落ち込むのが伝わって来た。
感情など無さそうな闇の精霊でさえも、心なしかそのテンションにつられるように低空へと沈んでいく。
『でも――』
精霊は自らの気持ちを震わせるかのように、体の上下回転を速めていく。
だが最後にピタッと静止して、熱し過ぎた興奮を抑えるように告げる。
『そこに、ハルトが現れてくれたんだパコ。こっちの世界にレイネも、パコも、来ることができて本当に良かったんだパコ! ハルト、力を貸して欲しいパコ!!』
そして、勢いよく闇の精霊の後ろに回り、背中をズイズイと押していく。
闇の精霊が、俺の目の前まで押し出されてきた。
『この子のお願いを――契約の条件を、ハルトがレイネに伝えてあげて欲しいパコ! それで、レイネがまた精霊を見ることができる切っ掛けを作って欲しいんだパコ!』
レイネの問題が後1話か2話くらいで何とかなりそう……。
なのでミニミニストーリーはそれに合わせて2話くらい後にまた再開します。
感想の返しもこの後キチンと行うので、しばしお待ちを!!




