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136.精霊……え!?

お待たせしました。


主人公視点に戻ります。

ではどうぞ。

「…………」


『…………』




 ――やっべぇぇ。


 何か精霊的なものが見える。

 以前、梓に見せてもらった淡い光のようなもの。

 

 それがフワッと俺の周囲を煩く飛び回っているのだ。



「? 何だ、何かあったのか?」


「ああ、えっと、いや、何でもない……」

   

 

 どうやらレイネには見えていない様子。

 慌てて否定してしまったためか、ちょっと怪訝そうに睨まれてしまう。


 ここで俺が「実は……精霊が見えるんです」なんて言おうものなら頭と目の異常を疑われるに違いない。



 ……黙っとくか。 

 これから先、長い付き合いになるんだ、いきなり変な奴だという烙印を押されたくはないからな。



「とりあえず進むか」


 

 ここで立ち止まったままいても始まらない。

 そうして3つある道の内、一番入り口から近い場所を指さす。



「ここは……右の方から――」



 と、進もうとする俺の前を、精霊的存在が遮るように飛び回る。

 その動きはまるでこの道を行ってはいけないと主張するようなしつこさだった。



「? おい、何だ、やっぱりなんかあんのか?」


「ああ、いや、えっと……」

 

 

 歩き出そうとしたらいきなり立ち止まってしまう、そんな俺の動きはやはり不審に思われたらしい。

 どう説明したものかと考えを巡らせていると、その浮遊体が空中の一点で止まる。

 



『……ダメ……敵……沢山……』




 ブツ切りになった単語ながらも、確かに聞き取れた。

 レイネへと視線を向けると、やはりこれも俺しか聞こえていないらしい。




『……最奥……来てくれたら……力……全開』



 何となくこの精霊の言わんとすることが分かった。


 もっとちゃんとした意思疎通をするためには、ダンジョンの最奥まで到達してくれということか。

  

 

 とりあえず彼(彼女?)の言う通りに、右の道から外れ、左の道へと歩もうとすると……。。




『…………!!……槍……罠、沢山!』




 ……また遮られた。



「じぃぃぃ…………」



 ああ!!

 レイネが凄い胡散臭そうな目を向けてきている!!


 いや、ちゃうねん!

 この精霊がもっと上手いこと伝えてくれないからなんだって!!



 

「えーっと、その、多分!! 真ん中が左右に比べて比較的安全だと、思うかな~!」


「…………」



 うっわ、超疑ってる目!

“実はお金儲けのいい話がありまして……”とか言われた時の顔くらい不審そう!!




「……まあいいけど。あたしも左の道は特に危なそうと思ってたし」



 そう言ってレイネは先に歩き始めてしまった。

 勿論、自分が言ったように真ん中の道を、だ。



 …………。


 最初からなんか根拠があったんなら、言ってくれても良かったのに……。


 それだけまだ信頼されてないってことかな……はぁぁ。


 

 



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆ 




「――あっ、えっと、そこ……」


「分かってる。(トラップ)だってんだろ? よっと――」



 そこに見えない水溜まりでもあるように、レイネは軽く地面を飛び越える。

 俺もそれに倣い、念のため助走してジャンプした。



「っとと……」


 

 ただ少し力を入れ過ぎたためか、意外に飛距離が伸びる。

 待っていてくれたレイネにぶつかりかけた。


 反射的に伸びてきたレイネの手。

 それを俺も、無意識的に掴んでしまう。



「って、うわっ、ちょ、おい、バカッ、くっつくな!」


「す、すまん!」



 慌てて離して、距離を取る。

 レイネは赤くなって俺を睨み、その触れた手をズボンに擦り付けていた。


 …………しゅん。 

  

「あっ、いや、違っ、その、あんたが汚いとか、そう言うことじゃなくて……」



 いや、ええねんでフォローしてくれんでも。

 年頃の女の子って、そう言う所敏感だもんね。


 以前もなんかラティアが消臭スプレー片手に物凄い形相だった時あったし。

 俺の姿を認めて慌てて隠してたけど、うん……。




 ……今度はちょっと良い目のボディーソープ買おう。




「それにしても……レイネは凄いな」


 

 俺は話題を変える。

 ……嫌なことから目を逸らす、大事な処世術だ、何か文句あります?



 改めて俺は先ほどの罠があるだろう地面を振り返る。

 そこは他の道と何ら外見上違うところはない。


 ただ俺には、そこにとどまっていた“精霊”が見えていた。

 それに、俺には【罠察知】のスキルがある。

  


 だからこそ俺はそこに“トラップがある”と見抜くことが出来たのだ。



 一方で、レイネは俺がそうだと指摘するとすぐにそれを理解。

 しかも精霊が見えていないはずなのに的確にその場所を認識していたのだ。




「あん? トラップのことか? まあ慣れさ。場数を踏めばこれくらいできるようになる」

 


 レイネは何でもないことのように言って見せる。

 だが、そんなレベルになるまでに、果たしてどれだけの数のダンジョンを経験すればいいのか。


 それにダンジョン攻略は、単に罠の有り無しを見抜くだけを目的とするのではない。 

 普通にダンジョンを攻略する中での一過程として、罠はあるのだ。

 

 じゃあレイネは、今までどれだけのダンジョンに潜って来たというのか……。



「――こっちからしたら、あんたの方が気になるぜ」


 

 レイネは未だ注意深く前を見つめつつも、そう話を振って来た。



「ここまでざっと1時間くらいか。3階層まで来た。それなのに一度もモンスターとエンカウントしてない……何でだろうな?」



 その疑問に答えるかのように、俺の周りを精霊が飛び回る。

 レイネさん、コイツです……と言えれば楽なんだが。


 

 レイネの言う通り、今まで分岐やトラップがあれば、基本的にはこの精霊が知らせてくれた。

 具体的に言ってくれるわけではないが、まあ何となく分かる。


【罠察知】のスキルよりも先に飛んで行ってくれるので、それで当たりを付け、スキルで確実性を図る、みたいな感覚だ。



 それに、レイネ自身も今見せてくれたように罠だったり、あるいはダンジョン内の歩き方みたいなのに物凄く習熟していたのも大きい。


 


 精霊については、〔枠外者に強き者〕の称号で手に入れた≪超直感士(シックスセンス)≫のジョブで多分、認識できているんだと思う。


 ただそれだけじゃなく、この精霊自体が俺にとって害となる存在じゃない、みたいな直感が働いていた。

 

 


「……まあ、あれだ、色々あるんだよ、色々」


「色々ねぇ……」



 精霊を見える人は数が圧倒的に少ないと、梓が以前教えてくれた。

 最初にダンジョンとコミュニケーションを取っていた時でさえ、ラティア達からちょっと不審がられたんだ。


 精霊のことについては……もう少し信頼されるようになってからでも、遅くはないだろう。





□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆ 




〈Congratulations!!――ダンジョンLv.28を攻略しました!!〉




「マジか……ボス戦どころか、戦闘も一切無かったのに、攻略かよ」



 俺が驚きに口を半開きにしていると、レイネは軽く答える。 



「短時間で結構歩きはしたけど、ま、こんなダンジョンもあるだろ」



 ただ、この7階層の最奥までくるだけで3時間はかかったけどな……。


 というか……あ、そうか。


 

 これ、正解の道を選んだからか!

 

 今までの分岐点は最初の入り口のも含めると軽く20は超えた。


 それぞれ正解を選んで最短ルートでこれだ。

 もしどこか一つでもミスってたら……先ず3時間では終わらなかっただろう。



 それに、今までは大抵モンスターを全滅させたりボスを倒して初めて攻略だった。

 ……これ、トラップ踏んだり間違った道選んでたら、ボス戦があった、とかだったりして。




「ま、まあ! 過程はともかく攻略は攻略だ!」




 嫌な考えを振り払うように、俺は気分を上げてそう告げる。

 そして、今までの道案内を務めてくれた精霊を見た。



『……魔力! 魔力!……沢山、だから、本当の姿に――』




 おう、今回はかなりちゃんとして聞こえる。

 あれか、ダンジョンの最奥はラジオとかで言うアンテナが立ってる状態なのか。


 じゃあ、もうちょっと精霊とのコミュニケーションも――



 ――うぉっ!?


 ――精霊が、いきなり輝き出した!



 

 まるで秘められた力を開放するように。

 その淡い輝きが、一気にその光量を爆発させる。






『力が、力が湧いてきた……――パコォォォーーー!!』




 

 何かすんごい可愛らしい声で、すんごい違和感ある叫び声が聞こえたんだが……。

 それは今目の前で首を傾げているレイネを連想させた。


 本当に天使のような美しさ・可愛らしさを誇る容姿に透き通るような声。

 それに反して、その荒っぽい口調。

 

 今聞こえた、精霊の声がそんなレイネと重なるように思えた。



 そして光が収まると……そこには――。 






『――やっと本来の姿に戻れたパコォ! “愛の精霊”、参上パコッ!!』




 

 桃・ハートの形をしたピンク色の精霊が、いたのだった。

     




 ……え、語尾が頭おかしいんだけど。

……え?

“今までシリアスだったじゃんか!”?

“なのになんだ最後の奴は!”と?


…………さて、ミニミニストーリーにでも行きましょう!(目逸らし)


――――


「ほらっ、リヴィル。ご主人様のお布団で至福の時間もいいですが、お掃除手伝ってください」


「うぅぅ……後5分、4分59秒、いや、4分58秒だけでいいから」


「全く譲歩になってませんから……」


 リヴィルがラティアに連れられ、主人の部屋を後にする。

 二人が下の階へと行ったことを確認し、静かに扉が開いた。


 そこは、リヴィルとルオの部屋のはず。

 にもかかわらず、出てきたのは……“かおりん”こと志木花織だった。


 志木は何故か素っ裸で、コソコソと廊下の様子を窺う。

 そして、この家の今の主を務める青年の部屋へと入っていった。


「……フフフッ」


 志木は衣装棚を漁り、青年のTシャツを取り出す。

 それに袖を通して、襟を引っ張り、鼻元へ近づけた。


「……あぁぁ、ご主人の匂いだ」


 志木――もとい、ルオは恍惚とした表情を浮かべる。

 そう、ルオは素肌全体で楽しみたい派だったのだ。 


 洗濯しても洗剤の中に香る主人の匂い。

 それを楽しむ言わば中間層だったのである。


――――


何でルオが【影絵】と【影重】を使っているか?

それはまた後々のミニミニストーリーで分かります。

To Be Continued……。 

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― 新着の感想 ―
[良い点] いつも楽しく読ませていただいております。 これからも頑張ってください! [一言] 語尾に「パコ」だと……? もしや、あの青いオシドリを模した「ハメ」を語尾につける例のキャラクターの親類か……
[一言] >以前もなんかラティアが消臭スプレー片手に物凄い形相だった時あったし。 >俺の姿を認めて慌てて隠してたけど、うん……。  それお布団を前にしてじゃないよね? > 過程はともかく攻略は攻略だ…
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