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135.これからの生きる意味……。

お待たせしました。

これで第三者視点は終わりです。


ではどうぞ!


「――二人とも、逃げなさいっ! ここはお父さん達が何とかする!」


「レイネ、ルーネのこと、守ってあげてね……貴方たち二人のお母さんでいられて、本当に幸せだった」



 それが、レイネが聞いた両親の最後の言葉だった。

 問答する間もなく、駆けつけたメイドに姉妹は連れられ、屋敷を離れることに。


 

 そのメイドも、逃げ惑う混乱の中、自分達のために囮になって別れてしまった。




「お姉様! どうして、どうしてこんなことに!?」


「っ! ルーネ、今は逃げるの!! 逃げて生き延びるのよ!!」



 レイネ自身にも最初、何が何だか訳が分からなかった。


 いきなり自分達の住んでいる里が何者かに襲われ。

 そうして気が付けば、今こうして妹と二人で逃避行だ。



 天使の住処は人里からは遠く遠く離れた秘境だ。  

 それに百歩譲って場所が分かったとして。

 

 天使自体が強大な力を有する種族。

 その集団が住む場所を襲おうなどと考える輩がいること自体、想像し辛い事態だったのだ。



 

「はぁ、はぁ……」


「ルーネ、頑張って! もう少しで、確か人の集落だったと思うから……」


 

 そう励ましながらも、レイネ自身がもう疲労で一杯一杯だった。

 人里離れた天使の住処から逃げるということは、想像を絶する苦労がある。


 何より最寄りの人の集落でも途方もなく遠い。

 これまで襲われるなどということが無かったためにそれで成り立っていた。

 が、今、正にその潜在的なリスクが現実化してしまったのだ。



 妹はまだ幼く、戦える能力もない。

 逃げる中で遭遇したモンスターは全部、レイネが何とか追い払っていた。

 

 だがその分、疲労感はレイネ一人へと一方的に蓄積していく。


 

 そんな満身創痍のレイネの気力を何とか繋ぎとめていたのは、愛する妹を守るというその一心のみ。




「……っ!! 隠れて!!」




 フラフラになりながらもレイネは異変に気付く。

 羽の形をした“風の精霊”が近くに姿を見せた。


 

 彼と仲良くなったおかげで、レイネはまだ小さいながらも風の変化を察知することが出来た。


 

 何かが近づいてくる

 この獣道で、スピードもある。


 レイネは妹と共に、茂みに隠れた。


 そして、念のため“闇の精霊”にお願いする。

 自分達からは遠く離れた場所へと移動してくれるように、と。



 何かあった時、直ぐに場所を入れ替われるようにするためだ。

 




「――ふぅぅ……」 




 人が、5人。

 何かのモンスター2体に分かれて騎乗し、道を進んできた。



 先頭に乗っている男は豪奢な装備に身を包み、他の女性メンバーに話しかけていた。

 

 

 

 声だけに集中すれば、風に乗せて、簡単にそれを拾うことが出来た。

 レイネは隠れながらも、注意深く様子を窺う。




「……それにしてもあのクソ神、マジで勇者使い荒いっつうの。魔王の次は魔神とその配下だぜ?」


「しかし、流石です勇者様!! 天使と称して身を隠す手強い相手も蹴散らしちゃいました!!」


「ですです!! 堕天使達、かなり強力な魔法を使ってきましたから! 勇者様のお力がなければ、私達だけでは負けていましたよ!」  



 他の女性メンバーも男を持ち上げるように頷く。

 それに気を良くした男――勇者は謙遜するような態度でべらべらと口を滑らせていった。



「まあそれ程でもないと思うけどな! 俺、別にゲーム知識をちょっと使って敵の魂胆を見抜いちゃっただけだし! 戦闘もただ歯向かってきた敵を切っていっただけだしな!」


「また“げぇむ”ですか……」


「ほんと、勇者様って偶に謎の単語出すよね……」


「えっ、あ、いや……そ、そう!! あのクソ神に頼む次の報酬何にしようかな!! 勇者使い荒い割にそこんところはきっちりしてるからな!」



 

 ――“勇者”……“神”!!



 レイネは今の会話だけでほぼ全ての事情を理解した。

 それは自分達の故郷を襲ったのはコイツ等だ、ということだけではない。



 天使にも様々な存在がいるように、その複数いる天使が仕える神も、複数存在するということ。

 

 レイネ達が仕える神が精霊を力のより所としているように。 

 人を力の源泉としている神も存在するということを、レイネは知っていた。




 そしてその中でも少数精鋭で自らの手駒を揃える神は、“勇者”を異世界から召喚する、ということも。




 人同士、天使同士でも派閥や争いがあるように。

 神同士でも勢力争いのようなものがある。




 ――つまり、自分達は相手方の神から邪魔者だと判断されたのだ!






「……? おい、何か音、しなかったか?」




 ――っ! もう既に遠ざかりかけているくせに、こんな小さな異音を聞き逃さないのかっ!

 




 レイネは歯噛みする。

 全てを理解して怒りにとらわれ、音を出すヘマをしてしまった。

 

 大切な妹を守るのが、目下最大の優先順位ではないのか。




「…………」



 声を出さずに、しかし不安一杯の表情で自分を見上げる妹。

 そのルーネを、ギュッと抱きしめる。


 そしてレイネは、その耳元で小さく囁いた。







 ――生きて、ルーネ。




「っ!! お姉様――」





 ルーネのその言葉を聞き終わる前に。

 レイネは動いた。

 

 遠く離れた場所でスタンバイしていた“闇の精霊”と瞬時に、その位置を入れ替わる。



 地面に降り立ったレイネはわざと、強く音を立てて地面を踏みしめた。

 



「っ!! こっちだ! こっちから音がしたぞ、何かいる!!」  



 勇者たちには当然気づかれた。

 当たり前だ、レイネはこのために“闇の精霊”の配置を考えたのだから。



 そもそも入れ替われるのは自分だけ。

 妹は置き去りになる。


 なら、それを利用して一緒に逃げるという方法は最初から使えない。

 なので、レイネは。


 



 最初から自分が囮になるという視点でしか、利用方法を想定していなかったのだ。







 その後、レイネは懸命に逃げた。

 宙を浮き、自分よりも早く移動できる精霊達を駆使して、必死に逃げ続けたのだ。



 自分が奴らを引き付ける距離が増せば、それだけ妹の安全性が増す。

 それだけを考え、レイネはとうとう逃げ切り、生き延びることに成功したのだった。




□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



 時はレイネが青年に買われる前、直近にまで遡る。



 レイネはあれから、ずっと一人で生きて来た。

 妹を逃がすことに成功したは良いものの、彼女の手にはもう何も残っていなかった。


 

 最初こそ自分達の神を“魔神”だなどと唆され、襲ってきた勇者たちを恨み、そのマイナスエネルギーを生きる力に変えていた。



 しかし、ある程度考える時間が出来ると、その矛先は自分自身へと向く。


  

「……はんっ、ルーネを守ったつもりで、自分がその危険を持って来てたってか」  


 

 奴隷に与えられた個室で独りでいると、またそのことを思い出す。

 嫌でもその過去を思い出してしまうのだ。


 

 あの時“愛の精霊”と同時に。

“闇の精霊”と仲良くなったのはレイネが初めてだった。


 勇者の奴らはレイネ達の神を“魔神”だなどと邪悪なものであるかのように呼んでいたはず。


 つまり、自分のその情報がどこかから漏れて、それに尾ひれがついて、自分達の神に悪いイメージを付与したんじゃないか。



 何の確証もなかったが、レイネは今でもそれを信じている。

 自分と妹を。

 それだけじゃない、両親やメイド、果ては仲間たちを危険にさらしたのは自分なんじゃないか。



 責め始めたら、ブレーキが利かなかった。



「…………あたしは、何を守れたんだろう」


 

 独りになって。

 生きていくために傭兵になった。


 その日自己紹介しあった奴が、次の日にはもう見当たらないなんてこともざらな世界。

 まるで自分を責め続けるように、過去の罪への罰のように。

 レイネは戦い、生きる術を学び、そして今まで必死に生き伸びて来た。



 言葉は気づかぬうちに荒っぽくなり、心もそれに比例するように擦れていく。

  



「精霊も……仲良くなるどころか、今じゃ見えやしない。はんっ、ざまぁねえ」




 いつの間にか、レイネは精霊のことが見えなくなっていた。

 だが、レイネはそれを辛く思いながらも受け入れていた。 


 

 ――こんな自分だ、愛想を尽かされても仕方がない。




 精霊達と仲良くなることを前提にする天使の力も、だから今では全く使えない。

 



 家族も、傭兵での同僚も、そして精霊達も。

 皆、いなくなってしまった。


 

 この広い世界、ルーネが生きているとしても探し出せるものでもない。

 レイネはもう何のために生きているのかすら分からなくなりかけていた。


 

 ――もう失いたくない。



 折角両手で感じていたその大切な重みが。

 

 砂のように両手から零れ落ちていってしまう。

 掬おうとしても掬おうとしても、自分の手から、指の間から、サラサラと。 

 


 そして残ったのは、空っぽの両手だけ。


 この空っぽの空虚さが、レイネには耐え難かった。 

 


 ―誰も、何も、失わない……そのためには、独りでいないと、いけないんだ。


 

 何も手にしなければ。

 またあの喪失感を味わわなくて済む。


  

 ――あの戦争で死んでれば、奴隷にならずに、こんなことを考えることもなく、楽になれたのにな……。




「――少し、お話、いいですか?」



 そんなレイネに、話しかけてきた人物がいた。

 この商館を預かる商人ではなく、女性の声。

 様子からして顧客らしい。



 不思議だった。

 この商館内には自分以外に見るべき奴隷はいくらでもいる。

 何故自分に……。



 その女性――カズサを見たレイネは目を見開いた。



 長い銀髪を腰まで流した、綺麗な女性。

 何より、レイネは以前参加した戦場にて、彼女を見たことがあった。



「……五剣姫――“死霊使い(ネクロマンサー)カズサ”か」



 そう呟くと、カズサは薄く微笑んで返す。



「フフッ。“戦場の黄天使”に覚えてもらえているなんて光栄ですね」


 

 それから、レイネの人生の時計が、再び針を動かし始めた。  

 



□◆□◆Another View End◆□◆□ 

精霊のもう少し詳しい話とかはまた次話以降に少しずつでも書いていきます。

梓の他に誰か、精霊を見れる人、いましたよね。

……うん、だから大丈夫!



そのうちルオとレイネは“勇者被害者の会”を立ち上げると思う。

そしてそれでまず吊し上げを食らいそうになるのはブレイブカンナさん……。

ドンマイ!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 勇者吊し上げ [気になる点] それブレイブさんにはご褒美では?? [一言] 既に皆様同意見で すごい一体感を感じる…… 風、吹いてる…
[一言] ブレカンさんにはご褒美かもしれぬ
[一言] ブレイブカンナさんつるし上げで全裸土下座とか…闇が深い( というか冗談はともかく 織部さんも被害者なのにね、勇者についてはルの字とレの字はしっかりとそのあたり見極めていい子に育ってほしい(…
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