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13.あれ? 君ってそんな感じだったっけ!?

とうとう、とうとう――



ローファンタジー部門日間1位を獲得しました!!



また、総合部門でも12位につけております!!


ありがとうございます、嬉しくて嬉しくて、もう言葉がないくらいです。

一先ず、読者の皆様への簡単な感謝の言葉はこれくらいにして。


お話をまずはどうぞ!



 その学校の名前がついている駅から歩いて10分ほど。

 周辺は閑静な住宅地。 

 ようやく人々が活動を始める時間帯。


「――あっ、ご主人様」


 俺たちは並走するように、ゆったりペースでジョギングしていた。

 その最中、少しずつ近づいてくる声に、ラティアが気づく。

 


  


「――ファイトォォォ!! オォ!!」


「「「ファイトォォ!! オォォ!!」」」 



 

 

 気合の入った、というよりは聞いていて頬が緩むような可愛らしい掛け声。

 恐らく部活動で外周をランニングしているのだろう。



「……ラティア、自然にな?」


「はい……」



 俺は少し体をこわばらせたラティアに小声で告げる。

 それに対してラティアは、小さく頷き返した。




 俺たちは今、二人で運動・ジョギングしている――風を装っている。


 幸い“校舎裏 ダンジョン”は、今見えている『月園(つきのその)女学院』の敷地内にはなかった。

 

 フェンスで囲われた広大な敷地の外。

 丁度校舎の裏に林がある。

 

 そこに、おそらくダンジョンがある、と思われる。

“思われる”というのは、実際にこの目で見たわけではないから。

 そして規制線のようなものも敷かれておらず、騒ぎにすらなっていない。


 なので、実際に自分達で見つけないといけないわけだ。

 


「ファイトォォ!! ――あっ……」


「「「ファイ――」」」



 丁度角を曲がったところで、その集団が俺たちの姿を認識した。

 予想外だったのか、掛け声が止まる。



 目の前に現れた少女たちの背はそこまで高くはなかった。

 スポーツ着に身を包んだ彼女らは、小学生、或いは中学生くらいか。




 小・中・高とエスカレーター式に上がれるだけでなく、外部からの入学者も受け入れている。

 寮もあるというから、随分と金があるのだろう。

 親御さんからの寄付金も多いらしいし。



「…………」



 カモフラージュは、上手くいっているようで。

 彼女たちは俺たちに向け、コクリと小さく挨拶した。


 俺たちもそれに軽く返す。

 そして何事もなさそうにしてジョギングを再開。


「ふぅ……やっぱり朝の運動は気持ちいいな」


 行きに自転車を漕いできたので、正直俺としては気持ちよくもなんともない。

 だがその偽装の世間話を受けたラティアは――


「そうですね! 本当に、空気もとても澄んでいて――」


 満面の笑みで答えてくれた。

 鼻からスゥっと吸い込む。

 その大きな胸が、それによって上下する。


 ……ラティア、凄いな。

 俺みたいなインドアは、ダンジョンですら面倒くさいと思う時があるのに。

 本当にこの時間を心から楽しんでくれているようだ。




「「「…………」」」 



 後ろで同じようにまたランニングを始めた少女たち。

 特に疑っている様子もない。



 よしよし……。

 本当、ラティアがいてくれてよかった。

 これ、ちょっと想像してみて欲しい。


 ラティアが仮にいなくて、俺一人でここら辺をウロウロしている絵を。

 ボッチで、背が曲がり気味で、陰気そうな青年が、お嬢様学校の周辺をうろついている。



 ――どうだい、“不審者”という単語がいの一番に浮かんだだろう?

 俺も、折角の夏休みの思い出に、警備員さんとの一時が加わるのは避けたいからな。

 うしッ、このままダンジョンがある校舎付近まで、ジョギングで行くぞ!!









「少し、暑く、なってきましたね」


「…………そう、だな」



 ダンジョンの穴がありそうな茂みは見つけた。

 それはいい。


 こうして朝早く起きて、自転車漕いで、ジョギングしてる甲斐がある。


 だが、問題は――




「「「ジーーーー」」」




 ――さっきからずっと部活動の少女たちがついてくるんですけど!?

 君たちどれだけランニングするの!?

 



「――でも、こうして一緒にいられて、体を動かすことができて、私、嬉しいです」


 ラティアは普段、ダンジョンで俺ばかりが体を張ることを気にしている。

 適材適所だと言っても、中々納得はしてくれていない。

 

 そんな気持ちから出た言葉なんだろうが――



「――キャァァァ!! あのお二人、やっぱり遠距離恋愛をなさっているんだわ!!」


「――それで、久しぶりにお会いして、爽やかなジョギングデート!!」


「――素敵です!! 殿方と、私も、そんな甘い恋愛をしてみたいです!!」

   


 コソコソと聞こえないように話しているつもりなのだろうが。

 全然コソコソしきれていない。 


 あれか、女学園・お嬢様学校だからそういうことに興味津々のお年頃なのか!!

 くっそ……早く練習に入れよ、何部かは知らんが。

 

「ですが、先ほどから、女性の方ばかりが話しかけていらっしゃいますわ」


「ですわね……それに対して、殿方の方は素っ気ない返事をされてばかり」


「もう!! 焦れったい!! 女性の方が、あれだけ、いじらしくシグナルを送ってらっしゃいますのに!!」



 君ら人のことはいいから、練習行けよ!!

 何のために走ってんの!?

 

 だが面と向かってそう告げることもできない。

 一方で、このままずっと何もしないと、疑いを深めてしまうかもしれない。

 クソッ……。



 これは欺くための偽装、これは欺くための偽装、これは欺くための――

  


「――ラティア、その、手、繋いで、みるか?」 


 思い切って、そう切り出してみた。

 

「あっ――はい……」


 その差し出した左手を。

 ラティアはキュッと、その小さな右手で、握ってきて。



 ――うっわっ、柔らかっ……プニプニしてる!!

 

 でもちょっと汗ばんで、熱を持ってじっとり濡れている感じが――




「「「きゃぁぁぁぁ!!」」」



 ああ、もうさっさと練習行け!!


□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆  



「はぁぁぁぁ……」


 ようやく練習に行きやがった。

 

 彼女らは陸上部のアップで外周を走っていたらしい。

 あれだけはしゃいで、走って、また走るのか。

 

 元気なことで。




「ン、フフッ……」



 一方、ラティアはというと。

 俺が見ていないだろう時を頑張って見計らい。 

 

 右手をちょっと上げて、見つめて、嬉しそうに小さく笑っていた。



 ……まあ、キモがられて服でコッソリ拭かれるよりかは、良かった。





「――ほらっ、降りておいで……」




 ん?


 クールダウン中を装って、ゆっくり歩いていた俺たちの耳に。

 


「――チュウチュウ、ほらっ、猫ですよ? 仲間ですよ? だからほらっ、そこ、降りておいで……」



 困ったように口でチュウチュウ言っている女の子の声が、届いてきた。

 ……いや、それ“ネズミ”じゃね?



 一本の木の下に、二人の少女がいた。

 その身長に差がある二人は上を見上げている。


 

 その視線の先には、枝から降りられなくなった、猫がいた。



「――あの、御姉様、それは“ネズミ”……かと」



 あ、やっぱりそうだよね?

 その口真似していた女の子とはまた別の。


 少女のツッコミが入る。




「えっ!? あらっゴメンなさい!!――」



 

 止まって様子を見ている俺たちに気づかないくらい。

 二人はその猫が落ちてしまわないか、気が気でないように見えた。


 ……二人とも制服姿だが、その制服はデザインが異なっていた。

 高校生と中学生、なのかな?



 ――って、あれ?



「御姉様、どうしましょう。猫さん、ケガ、しないでしょうか?」


「だ、大丈夫よ!! 私が何とかするから――」

 

 不安そうな声を出した後輩(?)に、安心させるよう明るく振舞って見せる少女。



 ――俺は、この二人の少女を、見たことがあった。


 そして、内一人の名前は、確か――




「さぁ、降りていらっしゃい猫ちゃん? 私がちゃんと受け止めてあげるから……ね?」


 何とか猫をケガさせないよう大きく腕を広げて見せる。

 しかし、猫は足が竦んでいるのか、枝にしがみついて離れられない。


「ああ、どうしましょう――“花織(かおり)”御姉様」




 ――そうだ、“かおりん”だ!!

 逆井が言ってた!!


 あの、アーマーアントに果敢に攻撃を仕掛けてた。

 そして確か「なんじゃわれぇぇ!? いてまうぞぉぉぉ!!」みたいな感じのこと言ってた、腹黒そうな。


 うわぁぁ、何か制服姿で後輩の前だと、全然印象違うな。


『猫ちゃん』とか可愛く言ってたし。

 それに目の前では滅茶苦茶思いやりに溢れた行動取ってるし。 



 何故アリには勝てないながらも、あれほど無慈悲な態度だったのか、不思議だ。

 

 

「ま、任せなさい“律氷(りつひ)”!! 私が何とか――あら?」



 

 あっ、俺たちに気づいた。



「御姉様? どうかなさい……あっ」


 もう一人の少女も、俺とラティアの存在を認識する。

 あ、目逸らされた。

 そんでラティアを見て、息を飲んでる。


「綺麗な方……」


「ええ……」


 二人して、ラティアの容姿にしばし見惚れていた。

 変な意味ではなく、純粋に驚いて、という感じ。


「「…………」」

 

 言葉が無くなり、沈黙。



「――えっと、猫、助けが必要、かな?」


 

 このままだと枝が折れて落下、ということもあり得たので、俺が声をかけた。


 ……別に、いない者扱いされるかも、なんて思って焦ってないから。

 ラティアが息を飲んじゃうくらい可愛くて綺麗だってのは分かってるからね。


 

 それに、この二人はおそらく

“ダンジョン探索士候補生”だ。

 逆井以外に知己を得ておくのも悪くない。



「――あっ、ごめんなさい!! でも、“初対面”の方に、そんなお願いしてもいいのかしら?」




 初対面――そうか、彼女は俺を、覚えていないのか。


 


 まあ、俺がアーマーアントを倒した後、気絶しちゃったし、そんなもんか。


 それはいいんだけど、俺相手にも随分丁寧というか、物腰柔らかなんだな。

 俺は“かおりん”の裏の顔を見てるし、何かくすぐったいような、変な感じだ。



「ああ……」


 

 俺は念のため、ラティアを見る。


「はい、私も大丈夫です」


「そう!? なら……お願い、しようかしら。――どう、律氷?」


 彼女の方も、もう一人の後輩――律氷(りつひ)と呼ばれた、大人しそうな女の子を見る。

 腰まで届きそうなほど長く色素の薄い髪。

 お人形のような可愛らしい顔は、しかし俺を警戒してか、強張っている。 


 先ほどラティアを見た時は、普通だったのに……。



「……その、よろしく、お願いします」


 

 少女は、“かおりん”の背に隠れるようにしながらも、少しだけ顔を覗かせた。

 そして、俺の目を一瞬だけ見て、そう告げる。



「……ああ。――じゃあラティア、やるか」


「はい――って、ひゃぁ!?」



 俺は少女二人が見ている前で。

 ラティアが肩幅程に開いていた細い脚の間に、頭を突っ込んだ。



 ……変態が本性表しおったわとか、衆人環視の下の視姦プレイかとか思ったやつ。

 後で屋上集合な。



「あの、その、汗を、沢山かいておりますッ!! それに、“臭い”も――」


 肩車は前回もっと人が多い中やったのに。

 何故かラティアは上で物凄く恥ずかしそうに身をよじらせる。


 汗や“匂い”って…。

 確かに手で支えているラティアの膝から太腿辺り――アンダーの部分はちょっと、しっとりとしている。

 ただ、柑橘系の酸っぱい良い匂いしてるけどな……。

 


「ラティア、早いこと猫を助けてしまおう――どうだ、届きそうか?」


「はうぅぅぅ……はぃ」


 何か観念したような声を出す。

 枝の真下辺りへ移動。

 

 大丈夫か、と。

 そう声をかけ、上を見る――

 


 デカッ――視界が、塞がっている、だと!?



 真上に、大きな、揺れる果実が、二つ――ハッ!?


「――大丈夫です、猫さん、手の中に入ってくれました」



 上から声が振ってこなければ、俺はそれに手を出していたかもしれない。


 それも少女たちの前で。



 ふぅぅぅ。

 危なかったぜ。






「――あ、あの、ありがとうございました!」


 猫を下ろしてやり、彼女たちが礼を言う。

 

「私は、中等課程2年で、あの、(すめらぎ)律氷(りつひ)と申します」


 感謝の気持ちを何とか伝えようと、少しつっかえながらも懸命に自己紹介していた。


「――おかげで助かりました。改めまして、私は志木(しき)花織(かおり)です」


“かおりん”の苗字は志木らしい。

 今後はそう呼ぼう。

 

 志木は「私は高等課程の2年です。よろしくお願いしますね」と明るく告げた。

 ……同い年じゃねえか。



改めまして、日間1位という結果は、私単体の力では到底届く物ではありませんでした。

本当に、読者の皆さんに支えられて、ここまで来ることができました。


評価していただいた方は100を超え、113人に。

ブックマークもとうとう1000を上回りました。1210件ですね。

PVも今まで見たことなく、何じゃこりゃと思うくらいに増えております。


本当に、ここまで読んでくださった読者の皆さん。


ありがとうございました!!



……といっても、まだまだ書かなければいけないこと、書きたいことは沢山ありますので、ここでグデッと気を抜けないのですが。


一先ず、キリの良いところまでは何とか投稿は継続しようかな、とは思ってます。

ただ都合によっては何日か休むこともあるかもしれません。

その場合は事前に活動報告で周知します。


兎に角、ありがとうございました、私達の物語はまだまだこれからだぜ!!


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