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133.何もかもが幸せで満ちていた、あの頃……。

お待たせしました。

申していた通り、第三者視点となります。


久しぶりで、以前はどこで書いたか思い出すためにルオのところまで遡って調べました。

ただ、ついさっき「そう言えばちょっとだけシーク・ラヴメンバーでの会議っぽいところでも書いてたな……」と思い出し……。


まあそれは今はいいですか。


ではどうぞ!



□◆□◆Another View ◆□◆□



「…………マジか」


「? 何だよ、何かマズいことでもあんのか?」


「いや、えと、そう言うわけじゃないが……」



 レイネは歯切れの悪い青年の反応を見て、疑問を浮かべる。

 二人はあの後、タクシーを拾って移動した。

 

 カッコよくラティアへと財布を渡していたが、タクシーを使った方がいいとの助言をメールで受ける。

 なので、ちょっと言い出し辛かったが、青年はカードだけ返してもらった。


 その後ATMに寄って、お金を下ろしてようやく目的地へと向かう。


 


 志木から教えられた場所をそのまま運転手に告げ、およそ20分。

 

 


 着いた場所は繁華街からは少し離れた道路。

 その道路に沿うように比較的大きめの店が一つ、ポツンと建っていた。


 恰も一般の人から距離を置くように。

 まるで他者の視線から少しでも逃れようとしているように。

 

 

 そして、そこにある(のぼり)





 大きく“大人の玩具大セール!!”と書かれていた。




 …………。



 

 レイネはまだこの世界に慣れていないこともあり、意味が分からなかった。

 だが、青年としては気まずいことこの上ない。 


 青年は忘れられない。

 運転手のあの顔を……。



 運転手のおじさんは青年と絶世の美少女――レイネを交互に見て、そして最後にあの(のぼり)を見た。


 青年たちが料金を支払って降りる際。

 おじさんは戸惑いの視線の中にも好奇の色が含まれているのを隠しきれていなかったのだ。


 青年はもう色々と気まずくて仕方がなかった。

 

 

「ダンジョンを見つけた社員さん……生きてるといいけど」 


「? 何言ってんだ、生きてるから場所が分かったんだろ?」


「あぁぁ、えと、うん、そだね」



 またもや生返事のようなものが返ってくる。

 しかし、それ以上の追究をしようとはしなかった。


 

 歩き出した青年の後を追うと、1分としないうちに、その場所を見つけたからだ。




 裏にある第二駐車場。

 

 そちらからでも店の中に入れるように小さめの外階段が置かれていた。

 色んな事情の人がいて、その人達のためなのだろう。

 

 その階段の真横に、大きな穴が開いていたのだ。



 穴の大きさにもかかわらず階段は崩れ落ちずに保たれたまま。

 そのこともまた、開いている穴が、異質であることを示していた。



「……社員さん、人目に付かないよう努力したのに……時々運命って残酷だなと思う」

 

「?」



 レイネはまたも首を傾げる。

 自分を買った青年は、皮肉屋なのだろうか、と。

 

 他者に分からないような言い回しをして世を皮肉る。

 色んな事を知っているからこそ、頭が回るからこそ、そう言う風に斜に構えるんじゃないか?


 そう疑っていたのだ。

 レイネはそういう回りくどいことはあまり好きではない。



「――んじゃ、まあ、行くか……で、どうする? 地球(こっち)に来たばっかだし、本当、無理しなくていいぞ? 元々俺一人で行くつもりだったし」



 ただ、今までの短い時間の中でも。

 青年が色々と自分へ気を配ってくれていたことは知っていた。


 言葉遣いや態度が良くはないと自覚しているレイネに、こうして優しくしてくれる。



 だから、もう少し見てみようと思った。

 この青年がどういう人物なのかを。

 


「大丈夫だ。あたしも行く!」



 そうして二人は新たに生まれたばかりのダンジョンへと、足を踏み入れた。





□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆




「――っ! これは、ちょっと骨が折れるかもな……」

     


 入った瞬間、青年は目を見開いてそう呟く。

 入り口から既に、道が3つに分かれていたからだ。


 今までも分かれ道や複数の階層などは経験してきた。

 だが、いきなり3つも選択肢があるとなると、流石に面食らう。



「……そうか? まあ、時間はかかるかもな」

  


 レイネも同じ光景を認識してはいたが、そこまで悲観視してはいなかった。

 ある事件があったのをきっかけに、レイネはずっと一人で生きて来ている。


 いわゆる一匹狼という奴だ。

 今まで天使として何不自由なく、幸せに暮らしていた日々からは想像もつかない、凄惨なことが日常な毎日。


 

 傭兵として生きる糧を稼ぐため、ダンジョンにだって何度も潜って来た。

 天使としての能力が使えなくなってからは、それこそ死に物狂いで生きる術を身に着ける日々。 


 攻略して戻る際、一緒に入った他の傭兵の奴らの数が半分になっていたということもざらにあった。 

 


「だろうな……ああ、(あずさ)がいれば、楽できるかもしれんが、無いものねだりか……」 



 レイネは青年の指す“梓”が何者なのかは知らない。

 ただその呟きの文脈・内容からして、おそらく探知系かサポートに優れた人物なのだろうと当たりを付ける。


 

 レイネにそうした能力は……“今はもう”ない。

 というより、元々持っていたわけでもないが、似たことは出来た。


 

 その過去を思いだすと、どうしてもあの時の綺麗だった日々が煩く輝いて消えてくれない。


 いつも自分を褒めてくれた父。

 温かく家族を支えてくれた母。

 口煩くも自分のためを思って叱ってくれたメイド。


 そして……自分を大好きだと、誇りだと言ってくれた大切な妹。



 

「チッ!! クソッ……」



 いつものように頭を強く振って、それら全てを想像の中から追い出す。

 苛立ちを抑えながらも、自分に言い聞かせる。


 あの頃はもう全て過去なのだ。

 だから、戻って来やしない。


 家族も、自分も、そして――。

  



「――えっ? あれ……えと……どちら様? 梓のお友達、とかですか?」




 丁度、現実の方が動いた。

 自分の雇い主たる青年が、いきなり虚空を眺めて何かを呟き、キョトンとしているのだ。


 だがそれが却って、過去のことを想起させた。


 青年の姿が、過去の自分の姿と重なったのだ。

 何も見えなかった自分が、初めて彼らと出会った、その時の姿に。



「…………」 

    


 それきり、また青年は何もない宙へと視線を固定し、口を半開きにしたまま黙った。

 



 レイネは思い出す。

 口の中には勝手に苦い味が広がっていく。

 

 だが同時に。

 シュワシュワとした、こそばゆい感覚もそこにはあった。

 

 幼い子供が未知の体験をして興奮した時のような、そんなものが。

 



 

 ――ああ、そう言えば、自分も多分、あんな感じだったんだろうな。









 そう、彼女が“精霊達”と友達でいられた、あの頃は……。

次話も第三者視点が続きまして、本格的にレイネの事情が明らかに。

……だ、大丈夫だよね、もう設定ミスないよね?



それはそうと――


何と、総合ポイントがようやく30000ポイントに到達しました。

本当にもう感無量です。

まさかここまで来られるとは……。


ただ全く書籍化の気配はないですね、はい。

20000ポイント台でも書籍化した作品はあると聞いているので、可能性は0ではないと思いたいんですがね……。


twitterとか始めないとダメなのかな……。


まあとにかく、これからも頑張っていきますので、ご声援・ご愛読の方引き続きよろしくお願いいたします!


※以下、以前申していたミニミニストーリーです。

読まなくても本編に支障はありません。


――――


「かけるべきか、かけざるべきか……」


 自らが慕う主人が学校でいない、その部屋。

 目の前には主人が寝起きに使う布団があった。

 

 ラティアは手に持ったスプレーを見て悩む。


 デカデカと前面に“除菌”と謳っていながら、正式な商品類型としては“衣類・布・空間用消臭剤”とされている。

 

「むむむ……ご主人様のためにも除菌はしたい、けれども……」


 ラティアをジレンマで苦しめるのは“消臭”の一文。

 

 何故そんないらない機能を付加したのか。

 それじゃあ臭いが消えてしまうではないか。

 

 ラティアはおよそ30分間、本気でそのスプレーを使うかどうかを悩んだのだった。

 

――――


こういう感じで、私の気の向くときに、奴隷少女達の日常にライトを当てて書いたりします。

あまり期待はせずにそこそこに楽しんでいただければ幸いです。 

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― 新着の感想 ―
[一言] > 「ダンジョンを見つけた社員さん……生きてるといいけど」   きっと報告するべきか見なかったことにすべきかと壮絶な葛藤を繰り広げたに違いない。 > ――ああ、そう言えば、自分も多分、あん…
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