126.うーん……ちょっとなぁぁ……。
お待たせしました。
では、どうぞ。
『なるほどなるほど……――分かりました。奴隷商の者には私から話を通しておきましょう』
俺達がどういう経緯で、どういった能力を持った人を探しているかを、詳細に伝えた。
フォゼさんはお安い御用だと言うように、朗らかに笑って頷いて見せる。
「そうですか、それは有難いです」
『いえ。いい主人に巡り合えるというのは、それだけでも幸運なことですからな……』
そう言って、スライムで出来た精巧な目を細め、俺を、そしてその後にリヴィル・ルオを見る。
その表情は、魔族というイメージとはかけ離れた優しさに溢れていた。
そしてまた俺へと視線を戻し、納得するように一つ頷いて見せる。
『……うむ。カンナ殿やシルレ嬢からの信頼も厚いご様子。貴方なら大丈夫でしょう』
まだ10分と言葉を交わした訳でもないのに、サラッと言っちまったよこの人……ああいや、人じゃないのか。
だが悪い気分はしなかった、というか何かこそばゆい。
この町では多くの種族が行き交う、ということはそれだけ軋轢を生むことも多いはず。
そんなところを治めているんだ。
それだけ人柄というか、相手を見抜く目というか、そう言うのが優れてないとダメなんだろうな……。
先ほどチラッと出た“500年生きている”という言葉が、その言動全てに滲んでいるような、そんな気がした。
『――そうと決まれば、物事は早い方が良いでしょう。今から一うねりしてきますかな』
そう言ってフォゼさんはグニュっと自分の体を完全な粘体へと戻す。
そして織部達へ“直ぐに戻ります。皆さんは引き続きお楽しみを”と軽く挨拶して部屋を後にした。
話の流れからして……多分、奴隷商に向かって、話を通してくれるんだろう。
……でも“一うねり”ってなんだ?
一っ走りしてくる、みたいな言葉のスライムバージョン?
うねうね動くからそういう使い方になるんだろうか……。
「……悪そうな人――ああいや、スライムさんには見えなかったね?」
その場からいなくなったからか、ルオがフォゼさんについてそう評する。
俺も、やっぱり悪い感じには見えなかった。
だがそんな俺達とは違い、リヴィルは慎重な意見を提示する。
「そう? 何かいきなり会ったことあるか、なんて聞いてきて。ちょっと良く分かんなかったけど」
確かにそれには面食らった感はあるが……。
ただ、リヴィルも別に否定的だという感じではなく。
本人も言っている様に、あまり分からないと言った方が正しいみたいだ。
相手の雰囲気やオーラを感じ取るのに長けているリヴィルがそう言うんだ、やはり長年の積み重なりってのは伊達じゃない。
そうやって軽く、それぞれの感じたことを話し合っていると……。
――prrrrr,prrrrrr……
電話がかかって来た。
着信音が未だ設定されておらず、初期の音楽が鳴る。
「おっ……」
このタイミングで電話、それにこの音ってことは――
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
『姉様……』
『アズサ……』
かけて来たのは、やはり梓だった。
直ぐに準備していたテレビチャットに切り替え。
そしてDDと鏡合わせのように向き合わせた。
あちらの、織部のDDも今は机の上ではなく、カズサさんが直接手に持っている。
織部の気遣いだろう。
こういうことはちゃんと出来るのに、自分のことになるとアレなんだよな……。
『…………』
やはり空気を読んでか、ツッコみは控えている様子。
だがそれでも俺の無言の何かを感じ取ったようで。
カズサさんの後ろに立って非難の視線を送ってくる。
分かったから、今は抑えてくれ。
……仕方ない、後でなんか差し入れ送るから。
するとその考えが通じたのか、スッと引くように織部は画面から消える。
ふぅぅ……。
『姉様に、また、会えて、声を聞けて、本当に、本当に嬉しい』
『私もです。アズサが生きていてくれて、本当に、本当に良かった……』
そんな俺達を余所に。
姉妹の感動の再会は進んでいた。
それを邪魔しないよう、脇に控えて、そっとそのシーンを眺める。
あの梓も、今は画面向こうで涙ぐんでいるように見えた。
まあ、そりゃそうか……。
カズサさんの話では、二人っきりの家族だもんな。
うんうん、良かった良かった。
DPも以前のボス戦の臨時ボーナスで潤ってる。
姉妹でじっくり、色んな積りに積もったことを話してくれ……。
『――それで、アズサ。ちゃんとニイミさんにはお礼をしたんでしょうね?』
『もち。ハルトが協力してくれる代わりに、私はハルトに何でもする。日々その機会を狙――待っている』
今“狙ってる”って言おうとしなかった!?
あっれぇぇぇ?
姉妹で真っ先に話した方がいい話題、他にもあると思うんだけど……。
『よろしい。私もニイミさんへ御恩を返せるよう、日々この体を清め――磨いて、その日を待つことにします』
“磨く”と“清める”をどうやったら間違うの!?
あんたら姉妹の頭の中どうなってんだ!?
姉妹で他に話すことないのかよ……。
『むむっ! 姉様から気迫を感じる……負けられない!』
『フフッ。アズサ相手とはいえ、手は抜きませんよ?』
『望むところ』
……ええっと……切っていいすか?
だが二人はそんな俺の気配を感じ取ってか。
直ぐにまた感動の余韻を楽しむように、無言で見つめ合った。
……いや、それはそれで話してないじゃん。
まあいいけど。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
その後、また話す機会はちゃんと設けるということで、二人の再会のシーンは一旦終わりに。
そして、俺達はDDを使って、更新された項目を見ていた。
「おおお……」
「凄いね、“蛇人族”とかもいるんだ」
「こっち! こっちには獣人族で、詳細“獅子”だって!!」
3人で『Isekai』の奴隷の項目に目を通す。
織部がヴァリルの町へと着いたからだろう、“New!!”という文字が付された奴隷が何人も増えていた。
そしてフォゼさんが働きかけてくれたおかげか、ヴァリルの町という枠の中でも、また別個に“お得意様用”なるスペースが出来ていた。
その中には男性も勿論含まれていたのだが……。
「この女の人とかいいんじゃない?」
「ええ~? ボクはもうちょっと年の近そうな子がいいな~」
……と、二人の意見を聞いてみたら、やはり“女性の奴隷であること”は前提となっている。
まあ俺も今更“男性の奴隷、買おうぜ!”とはならないからいいけどね。
『人族:1万8000DP 詳細:スキル所持。若く比較的身体能力も高い。特に足が速く、サポート役として何度かダンジョンに潜った経験有り』
『鬼人族:4万2000DP 詳細:特殊なスキル所持。老婆。身体能力は年もあり、劣化が激しい。同族間でのみ、特殊な思念を送り合い、意思連絡を可能に。戦闘経験は無し ※当商館で唯一取り扱っている鬼人族。従って、上記能力は当商館でのお買い上げのみでは意味をなさないことを含み置きください』
『魔族:3万9000DP 詳細:スキル所持。下級の魔族。極めて臆病な性格。頬も痩せこけている。病弱。配下にした下僕へと指示を送ることが可能。※当該スキルの注意点:配下に対して指示を送ることができるのは確認済み。但し、配下から主人(当該奴隷)への意思の伝達が可能かは未確認』
「色々あるな……」
「目移りしちゃうね」
「だね~……」
ちゃんと俺達の要望を、商人の人に伝えてくれたんだろう。
伝令役というか、離れていても意思疎通ができる能力を持つ人を、この別の枠に見繕って分けてくれていた。
これで格段に見やすくなった。
ただ、それはいいのだが……。
「…………」
「……ピンとは、来ない?」
リヴィルに尋ねられ、少し曖昧になりながらも頷く。
悪いわけじゃない。
ちゃんと要望通りの人材は揃えてくれている。
ただ、何か、どう言えばいいか、うーん……。
「あっちを立てればこっちが立たず、って感じだね」
そう、それだ、片手落ちなんだ、どの人も。
ルオの言う通り、幾つかのピースはちゃんとはまるのだが、バチっと全てがはまるような人って言うと、それがいない。
「……まあ、今日決めなくちゃいけないってわけでもないしな」
俺は一先ずそう結論付ける。
ラティアもまだ帰ってきてないし。
そうして今日のところは保留として終わることにしたのだった。
ふぅぅ……すいません、昼ごろには時間を取るので、感想の返しはその時にさせて下さい。
多分、次話か、その次には……出てくると思います。




