125.ご紹介いただければ幸いです!
お待たせしました。
ではどうぞ。
『両親が早くに亡くなり、姉妹二人きりで生きてきました……そんな自分の命ほど大事な妹を――アズサを救ってもらって、どうして恩知らずでいられますか!?』
いや、だから別に救ったとかそこまでのことじゃないし、大袈裟だから!
クソッ、やっぱりこの人、梓のお姉さんなだけあるぞ……。
端的に、自分の要求を一直線でねじ込んでくる!
「な、なるほど……」
梓にそうなってしまうように。
その勢いに押されてしまいそうになる。
『納得していただけましたか……ありがとうございます。添い遂げる覚悟すらできているのです、私にできることでしたら、何でもお聞きしましょう』
『えっ、今“何でも”って……』
こらっ、織部、そこに反応するんじゃありません!
もう……姉妹揃って押しが強すぎやしないか?
「マスター。私も、別にマスターが望むんなら、いつでも、その、大丈夫だよ?」
「……えと、うん。ボクも、だからね?」
……訂正。
梓やカズサさん姉妹に限らず、最近の女子はかなりアグレッシブだった。
その最たる肉食淫獣、ラティアが今日はいないからな……。
これでもまだ穏やかな方なんだろう。
「まあ、うん、ありがと」
この場面でお礼を言うのが正しいのかどうかは分からんが。
とにかく、何とかしないと……あっ!
二人や、それにラティアのことを考えていてピンと来た!
ちょっと俺が屑い奴に見えてしまうが……今はそれでいい!
改めてDDに向き直り、人差し指を一本、立てる。
「そこまで言って下さるんなら、一つ、お願いがあります」
『何でしょう! 何でもおっしゃってください!』
『やっぱり! 今も“何でも”って――』
ええい、また反応しおって、織部、ハウス!
『――さ~カンナ様。カンナ様はちょっとこっちで落ち着いていましょうね~』
サラは織部の口を手で塞いで、そのまま画面外へと連れていく。
もがもがと何か口にしながらも、ちょっとだけ息苦しそうにしていた。
「俺達、割と上手くダンジョン攻略してきたんですけど、課題が出来て。解決できそうな人を探してたんです」
これは嘘ではない。
現実に、パーティーを分けた際。
相互に意思疎通を図ることができる人材がいれば、来て欲しいと思っている。
だが……ここから告げる要求は、叶わないと知りつつ告げる嘘だ。
「それで……――カズサさん“今すぐ”こちらの世界に来られますか?」
『それ、は……』
初めて、カズサさんの表情が固まる。
変化に乏しい顔が変わっていく瞬間、それがはっきりと分かった。
口に出して言いはしないが、カズサさん自身、無理だと分かっている。
だが、自分から言い出したのに、先ず初めのお願いを速攻で断るなどというのは難しいだろう。
「あっ、そう言った人材を知らないか、あのスライムのフォゼさん? に聞いてみて貰うだけでも構いませんよ? それでも問題が解決できるなら、こちらとしては助かります」
そんな中、ここで、妥協案を提示することに意味が出てくる。
最初から現実的な落としどころはちゃんと用意しておいて。
それで、まずは大きな要求を吹っかけて、本命へと誘導。
すると、こちらが物凄く譲歩しているように見えるのだ。
『……ちなみに、誰か雇いたい方が見つかった場合、というのはどういう想定をされて?』
つまり“自分以外でも、直ぐにそちらの世界に来ることができるわけではない、という条件は同じでは?”と言っているのだろう。
……まあ流石にそこは聞くか。
『あ、それはですね……新海君はあちらにいながら、町で買い物が出来るんです。それで、自分の世界へ転送されるので』
サラに一度宥められた織部が、ヒョコっと顔を出してそう補足してくれた。
おお、やはり普段はアレでも、ちゃんと協力者として頼もしい部分もあるんだな、うん。
奴隷の部分もボカしてはいたが、それだけでカズサさんには伝わったようだ。
『なるほど…………分かり、ました』
ふぅぅ……。
これで一旦は話が逸れたか。
『むむぅ……』
だがカズサさんは分かった、とは言っても納得しきったような顔はしておらず。
まだ今後の展開次第ではもう一、二波乱ありそうだと思わせる。
多分、何となくでも俺の意図は分かってくれて、今は休戦にしておきましょうって感じに取ってくれたんだと思う。
流石に梓のお姉さんなだけはある、中々手強い……。
『カズサさん、安心してください! 私が新海君の元に戻る時になったら、一緒に連れて行ってあげますから』
『本当ですか!? それは助かります!』
……おい、協力者。
まあ、いいけどさ……。
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その後、一時中断し、それぞれ夕食をとることになった。
俺たちはラティアが用意してくれていた料理を温め直し、食べる。
その食事の間に逆井にメールを送って、ラティアの様子を確認。
するとメールと共に、添付された写メが届いた。
“ラティアちゃん? ニシシ! 丁度二人でお風呂だったよん! いや、本当ラティアちゃんってドエロい体してるよね~。洗いっこもして、満足満足……どう、新海、アタシ等の写真、いる?”
「……“いる?”って、もう既に送ってんじゃねえか」
チラッと、向かいの席に座る二人を見る。
リヴィルも、ルオも。
ラティアが作ってくれていた牡蠣フライに夢中のようだ。
リヴィルはタルタルを、ルオはレモン汁を使ってそれぞれ美味しそうに頬張っている。
この状況で気は進まないが……。
俺は何気なく……添付の写真を開いた。
「…………」
二人とも正に風呂上り直後で、タオルは一枚だけ。
……そう、“二人”なのに、タオルは“一枚だけ”なのだ。
裸のまま二人は抱き着き合い、互いの体で相手の体を隠している。
逆井は左手でスマホを構え、横から撮影。
ラティアは何とか少しでも隠そうと、バスタオルをスマホに向け伸ばす。
が、しかし、全く隠しきれておらず。
でも逆にその努力が、かえって剥き出しの肌を覗かせ、ムラムラを誘う絵になっていた。
……確かにドエロい。
「……マスター、ラティア、どうだった?」
「お姉ちゃん、楽しんでくれているといいけど……」
うおっと。
話しかけられてつい焦って画像を閉じる。
……ヤバい、間違って消去してしまった。
ああ、いや、うん……“間違って”って言うと、ちょっと誤解が生まれるな。
「ええっと……何か、物凄いハッチャけてるっぽいな。逆井と、二人で」
「そう……ならよかった」
「だね」
ふぅぅ……まあ、俺が何を見ていたかは、流石にバレないだろう。
…………だって、メールごとやっちゃったし。
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それから30分ほど開けて、再びDDを繋いだ。
織部のDDはおそらく長い白テーブルの上に置かれているようで。
出席者全体を見まわせるような感じになっていた。
多分、昨日言っていた歓迎の一部なんだろう。
室内はかなり豪華に飾られていた。
あちらも食後の一服を楽しんでいるようで、お酒を飲みながら歓談している。
それは織部も例外ではないようで……。
ちょっと含みのある視線を織部に向けると、慌ててグラスを置く。
そしてブンブンと首を振って自分は違うんだと言い出した。
『い、いや、これジュースですから! この町の名産で! ちょっと酸味があって美味しんです! お酒じゃないですから!』
「いや別に気にしないから……そっちは日本じゃ――もっと言うと地球ですらないんだし」
まあ異世界では成年とか、お酒を飲める年齢とか違うんだろうし。
俺がとやかく言うことでもあるまい。
『いや、だから違くて……』
織部の言い訳が続くかと思ったが、それは別の存在に遮られる形になる。
『ほほう……これがそのおっしゃっていた魔道具、ですかな!』
扉が開く音はしなかった。
ニュルっとした液体の動く音だけをさせ、あのスライムの紳士が現れる。
彼は真っ先にDD――その中でも画面の先にいる俺達に視線を向ける。
画面に映っているだろう俺、ルオ、リヴィルを順番に見ていった。
『……おや?』
……かと思うと、その視線が、ある一人のところで、固定される。
そして、その目が大きく大きく見開かれたのだ。
あり得ないと思っていたことが、今目の前で起こっている、そんな表情だった。
その対象は、ルオ――ではなく。
『……失礼、お美しいお嬢さん。どこかで私と会いませんでしたかな?』
スライムの紳士、フォゼさんがそう尋ねたのは……。
「……ないけど?」
――リヴィルだった。
『……そうですか? いや、しかし……それにしてはソックリで……』
そのリヴィルに即座に否定されてしまい、どこか戸惑った様子。
しばらくリヴィルのその顔を見ては何かを呟いて……首を振った。
『いえ――失礼しました。申し訳ありません、私、何分500年を生きるスライムでして、人の覚え間違いというのもしょっちゅうで』
そういって灰色の触手を伸ばし、照れ隠しのように頭をかいた。
……何だったんだ?
それよか、俺はてっきり一番最初に食いつくのはルオだと思っていたが。
でもそうではなかったらしい。
『――さて、先程カズサ嬢とカンナ殿に話は伺いました。何でも人材をお求めだとか』
先ほどの話題を振り払うように、フォゼさんは切り替える。
そして、スライム状の粘体でできたカイゼル髭を撫でて先を整えていた。
ピンと伸びた背筋、髭、整えたつま先。
それら一連の姿は、正に紳士や執事のような立ち姿を連想させた。
『我が町は色んな種族が行き交う場所。迫害や故郷を追われて、或いは身の振り方に困って、ここに流れてきます。理由は様々』
事前に聞いていた通り、この町は魔族が治めている。
とは言っても、他の種族にしても親しみやすいところなのだろう。
まあ比較的、だろうが。
『が、故に。多数の珍しい者たちも保護しております。奴隷の彼ら彼女らにとって、良い巡り合わせであれば嬉しい限りです。きちんとご紹介いたしましょう』
すいません……感想の返しはまた昼頃か、それ以降になると思います。
ちゃんと読んではいますので、今しばらくお待ちください!




