123.俺の手の届かないところで……。
すいません、もしかしたら次の更新は一度休むかもしれません。
まだ分かりませんが……。
とにかく、お話をどうぞ。
『あっ、これはどうもご丁寧に。私、織部柑奈と申します』
織部とサラが挨拶するのが聞こえてくる。
と言っても、俺の画面に映っているのは石牢の壁だけ。
その静止画を見ながらも、俺は自分がどうすべきかを考える。
何かここで割って入って、名乗り出るのも違うような気がする。
かと言って、じゃあもうDD――ダンジョンディスプレイの通信を切るのも、後で織部に怒られそうだ。
『んしょっと――』
そうすると、いきなり画面が、というか視界が動いた。
サラの声が近づく。
どうやら屈んで、後ろ手ながらもあちらのDDを持ち上げてくれたらしい。
……すまないな、いつも苦労をかける。
『いえ……』
ええ子や、サラは。
グルンと視界が回転すると、そこに映ったのはやはり鉄格子。
右下に出入りのための扉があるが、勿論それは鍵をした上で閉じられている。
その格子を挟んだ向かい側にはシルレ、そしてもう一人初見の女性がいた。
これが梓の姉――カズサという人だろう。
『おお! そうだそうだ、今ニイミと話せるのか?』
一応画面越しに俺の姿は映っているはずだが、シルレはそう織部に確認している。
……これ、しゃべった方がいいんだろうか?
『……そちらは?』
シルレの隣――カズサさんは注意深く俺の方、というか織部のDDへと視線を固定している。
細身の女性で、腰まで届く綺麗な白髪をしていた。
美人で、梓が5歳ほど歳を取った感じだろうか。
表情は殆ど変わらないところとか、端的に話を切ろうとするような部分とか。
仕草全般に、梓を彷彿とさせるものがあった。
『ほらっ、話しただろう? アズサの身柄を保護してくれた、ニイミだ』
別に保護したわけじゃないんだが……。
でもわざわざそこで話の腰を折るのも憚られる。
折角置いてけぼりになりかけたところを、華麗に回避してくれたシルレに申し訳ない。
「えっと……どうも、新海です。陽翔って言います」
『いや普通に“新海陽翔です”でいいじゃないですか! 何で“別名あるんだ、実は……”みたいな言い方してるんですか!?』
いや……スマン、ちょっと緊張した、かも。
『あ、貴方が……!?』
織部にキレのあるツッコミを頂いている間に……。
何かカズサさん、驚愕で目を見開いていました。
口元に当てている手は、凄い震えてるし。
えっ……え?
『……新海君、何かしましたか?』
「いや、俺が聞きたいんだけど」
『……本当ですか?』
何でそんな疑わし気な目で見てくんだよ……。
むしろ、俺のことを事前に話しておいたっぽいシルレに訊くべきだろ。
『むぅ~。だってカズサさん……凄い美人ですし。新海君がどこかでフラグでも立ててないかな、と』
訳の分からんことを……。
初対面の人間相手にどうやってフラグを立てろと。
しかも相手は異世界にいて俺は地球だし。
だからそういうことはシルレに聞けって。
『いや~、あのカズサが、こうも動揺する場面を拝めるとはな。今日は良い物を見られたよ』
当の本人たるシルレはどこ吹く風で。
飄々とした軽い口調でカズサさんの肩を叩いていた。
『しっ、失礼しました――』
それでカズサさんは慌てて、指の腹で目元を拭うような動作をする。
画面越し、しかもあちらは夜で暗い牢屋。
光る雫があったのかどうかは……分からない。
『改めて――ありがとうございます。妹を保護していただいて、この御恩は、必ず何かの形で返します』
スッと頭を下げたその姿に見惚れる――
――が、それは突然現れた第三者により、遮られることになった。
『――ほうほう……何やら賑やかですな~。私も混ぜてもらえますかな?』
初老くらいの男性の声。
足音もさせず、いきなり、その声だけが、どこからともなく聞こえて来た。
カズサさんが頭を上げる。
あのシルレの顔が、そしてそれと同じ五剣姫であるはずのカズサさんの顔が。
驚き一色で見開かれていた。
通信を繋いだ直ぐに織部から助けを求められた時以上の緊張が走る。
魔族の町――特に光の魔法も使う織部を、快く思わない者もいるはず。
だからこそ、織部とサラは今、牢屋にいる。
シルレ達の話し合いの間、事を荒立てないために。
強者感溢れる敵か――
『そう警戒なさらずとも――私ですよ私……おっと失礼』
再び聞こえた紳士風の男性の声。
シルレとカズサさんが、ほぼ同時に上を向いた。
織部もつられるように鉄格子向こうへ視線を向ける。
そこから――ブチョンッ。
何か、水気を含んだ、重量のある何かが落下した音がした。
シルレ達の頭が、それに合わせて降りていく。
それは、真っ白な液体だった。
粘性ある液体が、徐々に集合し、形を持っていく。
それは直ぐに人の形となって現れた。
『ほっほ。シルレ嬢とカズサ嬢は先程ぶりですな――そちらのお二人には、本当に申し訳ないことをしました。改めてこの町の統治者として、お詫び申し上げますぞ』
自己の粘液で作られたシルクハットを取り、頭を下げて見せた紳士――の姿をしたスライム。
数秒して頭を上げると、柔らかな笑みを浮かべて織部とサラ――を通して、俺の方へと向いた。
『七魔王が一人、カリュル様からヴァリルの町を預かる“フォゼ”の名に誓って、明日、お二方を最大限もてなすことをお約束しましょうぞ』
これだけだと、何かハイファンタジー物を書いている気分になってくる……。
でも勿論、主人公たちサイドにも関係ある要素は入れてるんですよ?




