122.……何やってんの?
お待たせしました。
では、どうぞ。
『助けてください、新海君っ!!』
学校の課題も済ませて、風呂から上がり。
リラックスしてDD――ダンジョンディスプレイにて織部へと通信を繋いで、直ぐだった。
織部の悲痛な声が訴えるSOS。
一瞬ドキりとしたが、直ぐに冷静な心を取り戻した。
最近何か助けを求められる頻度が多いな、と漠然と思いながらも。
俺は注意深く、画面を見つめた。
「織部……」
『新海君っ! 聞こえますか!? 新海君!!』
画面向こうは暗く、格子窓から薄く明かりが漏れているのみ。
それでも人がモゾモゾと動く様子が見えた。
目を凝らすと……人が二人。
要するに、アップ気味の織部と、そしてサラが、その暗い空間に寝転がっていた。
目が慣れてくると……そこは石で作られた牢屋のような場所だと分かる。
織部とサラは……縄で縛られて、芋虫のように寝転がされていたのだ。
「――織部、遂にはSM趣味にまでサラを巻き込んだのか……」
『違いますよ! えぇ!? この状況を初めて見た感想がそれなんですか!?』
「いや、まあ、なぁ……」
普通なら、織部の言う通りもっと焦ったり、危機感みたいなものが湧くんだろう。
だが、今のところ、そう言う気持ちが生まれてくることはなかった。
それは別に俺が冷血漢だとか、織部達を見捨てているだとか、勿論そう言うことじゃなく。
『……カンナ様。少し落ち着いてください。見張りがいないとはいえ、興奮しすぎですよ?』
床へと直に寝転がって、少し息をし辛そうにしながらも。
サラはあくまで冷静に織部をたしなめていた。
……そう、危機感があまり出てこなかったのは、サラからそうした焦燥感みたいなものが感じられなかったから、というのがある。
つまり、確かに捕まってはいるのだろうが、そこまで焦る状況でもないのではないか。
それに、2人と一緒に行動していたはずのシルレも見当たらない。
加えて、今サラが口にした“見張りがいない”という点も気になった。
それらのことがあったので、ちょっと様子を見ていたのだ。
『うぅぅ……酷いです、二人とも。別に興奮してませんよぉぉ……。何だか私一人がうるさいみたいじゃないですか』
後ろ手に縛られている織部は身じろぎしながら、顔を画面から背ける。
…………。
「……そうか、じゃあハサミか何か、その縄を切れそうな刃物、転送しようか?」
あの3回目のボス戦のおかげで、臨時の50000DPを得た。
ハサミなんて送ったところで誤差みたいなもんだ。
だが、返って来た反応はというと……。
『……えと、んと、大丈夫です。そ、その、誰か来た時に、拘束が解けていたら、不審がられますし?』
何故か語尾が上がる疑問形のような早口になって、織部は提案を断った。
…………。
確かに身動きとり辛そうにしてるサラは色っぽく見えるよ?
横に投げ出されてスカートから覗く白くて細い足とかさ。
でも……でもさ?
「――やっぱ織部、SM楽しんでんじゃねえか!」
『ちょっ、心外です! 流石に私でも今回はそういう気持ちはほぼゼロですよ!』
『……カンナ様。これでも私はかなり恥ずかしいんですよ? ニイミ様にこんな姿を見せるの。ちょっとは自重してくださらないと』
『うわぁぁぁん、二人が私をいじめます!! 二人とも、見ないで! そんな目で私を見ないでくださいぃぃぃ!!』
あっ……しまった。
この憐れみの視線も、織部にとってはSM的な要素を含んでしまうのだろうか。
昨日の梓の、ブーツでの一件。
織部について変な想像をしてしまっていたが……。
全然甘かったな。
むしろ低レベル過ぎて、逆に織部に対する礼を欠いていた。
本物はやはり物が違う。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「なるほど……つまり、二人の拘束は形式上のものだってことか?」
『はい。町について、一悶着あって……騒動を大きくしないよう、こういう形にするしかなかったと』
拗ねてしまった織部に代わって。
体を起こしたサラが、大まかな事情を説明してくれていた。
やはり後ろ手に縛られていて窮屈そうではあるが、思っていたほど悪い待遇でもないらしい。
というか、寝ていたところを俺が起こしてしまった形になるのか……ちょっと悪いことしたかな。
『私はこういう形で拘束されるのは初めての経験で……緊張してあまり眠れませんでしたから。ニイミ様とお話できて、リラックスできましたよ?』
……嬉しいことを言ってくれる。
こうして気遣ってくれるサラを見ると、織部の旅も悪いもんじゃなさそうだなと安心して思える。
拗ねた形で牢屋の隅を見つめている織部も、会話は聞いていたようで、そっと呟いた。
『私も……そちらではそんな経験全くありませんでしたから。新海君から通信があって、さっきはちょっと興奮してしまいました』
…………。
それが本心なのだろうが……ちょっと選択するワードに、織部の無意識な領域からの侵略を感じてならない。
だが、そんなんでも、やはり勇者としては立派なようで……。
「でもそうか……今回向かったのは魔族の町、だもんな」
『はい、ですから、カンナ様の勇者としての光の魔力が漏れていたようで……』
「それで、恐怖を感じた魔族の住人に、騒ぎを起こされた、ね……」
特に実害を出したわけではないが、その場を収めるためということで今の状況に至るらしい。
だから、明日にでもなれば直ぐ出られるだろうと。
「既に町の統治者に謝って貰ったんなら……俺が何か言うことはない、かな?――あ、そうそう。それで、シルレは?」
この場にいないもう一人を思い出し、居場所を尋ねる。
『はい。シルレ様は今、もうお一人の“五剣姫”と合流されて、会談されているはず……もう終わってるかもしれませんが』
おっ、それって――
『――シルレ、こっちであってるの? 見張りどころか、人の気配もしないけれど……』
丁度その時。
画面の中、小さく響いてくる声がした。
遠くで会話している、そんな感じの声が。
『ああ、間違いない。カンナとサラがいるはずだ』
こちらは聞き覚えのある声だった。
足音と共に、声はどんどんと近づいてくる。
織部とサラも、それに気づいたようで、スッと立ち上がる。
画面からは見えないが、入り口――鉄格子っぽいところへ近づいた。
足音が止まる前に、二人は近づいてきた相手の姿を認めたらしい。
『待たせた。カンナ、それにサラも』
『シルレ! 待ってました! えっと、そちらは――』
やはりDDの画面には映らないが、どうやらシルレが来たらしい。
まあ、これで一安心、かな。
ただ、DDは見えないながらも音声はちゃんと拾ってくれる。
一人、存在としては知っているものの、面識はない人物の声が、聞こえた。
『――初めまして。知らなかったとはいえ、話し合いが長引き、不自由を強いてしまいましたね……“五剣姫”が一人。カズサ・ヨウカワと申します』
昼に何とか時間をとれそうです。
ですので感想の返しは多分その時に。
折角送っていただいたのに、申し訳ありません。
ちゃんと全部読んではいますので、もう少しだけお待ちください!




