121.昨日のお礼、だって!
お待たせしました。
では、どうぞ!
「――んぉ? メールか……あれ、椎名さん?」
昨日、色々あって、今日もまた梓から時間を取れるかと連絡があった。
だが今回のはかなり真面目な用件らしく。
なので、学校終わりの後、夜になり。
俺は、指定された場所へと向かっていた。
ただでさえ、今夜は織部達へと連絡を取ろうと思っていたのに。
今回はダンジョンが絡む以上、少し緊張していたのだ。
そこの所に、椎名さんである。
その着信音のおどろおどろしさも手伝って、キュッと胃が縮むように感じた。
「……ん? おっ」
開いてみると、意外に身構えるような中身でもなかった。
ホッと安堵の息を吐く。
『御嬢様は冬休みの終盤に入り、そこでルオ様とお泊り出来て大変嬉しそうです。新海様、ルオ様の外泊の許可を頂き、ありがとうございます――これは、お礼として、お送りしておきますね』
本文はそんな簡潔な形で終わっていた。
ルオは今日、そして明日、皇さんの所へお泊り会に行っている。
それの簡単な挨拶なんだろう。
そして動画が添付されていることに気づく。
「なんだろうな……」
流石にいくら椎名さんでも、ここで変な悪戯動画なんて送っては来ないだろう。
特に気負うことなく見てみることにした。
開いてみると、直ぐに画面が変わる。
「あっ、ルオと……皇さん?」
かなり広い部屋が映って、そこにルオと皇さんが現れた。
室内にはキングサイズくらいあるんじゃ、と思えるほど大きな大きなベッドが置いてある。
そこにはウサギやら象やら、可愛らしいぬいぐるみが沢山あって、ベッドを女の子らしさで飾っていた。
『――あっ……えっと、椎名、大丈夫?』
『大丈夫です、御嬢様、ルオ様。ご自由にどうぞ』
不安そうな皇さんの声に答えたのは、椎名さんだ。
画面に映っていないところを見ると、どうやら撮影は椎名さんが勤めているらしい。
『では――』
頷いた皇さんが、隣に立つルオと互いに顔を見合わせて、また頷き合う。
真正面を向いて、それは、始まった。
『――フレ~! フレ~! 陽翔様! 頑張れ頑張れ陽翔様!』
チアガール衣装に身を包んだ皇さんは、恥じらいを残しつつも、懸命に声を張る。
『ご主人っ、ファイト! ご主人っ、ファイト!』
皇さんと同じく、ポニーテールに結ったルオの髪が躍る。
ポンポンを声援と合わせながら振り揺らす。
「……なるほど、仲良しの二人でチアガールの動画を撮ったんだな」
本格的な激しい動きを取り入れているわけではない。
しかし、音楽に合わせてステップを踏み、体を大きく使って見せるそれはとても可愛らしかった。
実際に応援され、元気も出る。
『Hu~~~~!!』
『Ya~~~~~!!』
最後、腰に片手をあて、もう片方の手でポンポンを揺らす。
その後、お泊りを楽しんでいますという簡単な挨拶があって、動画は終わる。
「ふぅぅ……」
短いながらも、見ていて、とても心が和む動画だった。
そりゃ椎名さんもあんな穏やかな内容のメール送ってくるわ。
それはいいんだけど……。
「俺、何を応援されてるんだろう……」
今後待ち受ける険しい人生の道、とか?
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「へぇぇ……こんなところに」
場所は高架下。
偶に電車が通って物凄い音を響かせる。
ただ行き来には殆ど使われていないのか、車の通行は今のところない。
そのちょっと影の所。
よーく目を凝らすと、ぐにゃりと蠢くダンジョンの入り口があった。
「うん。“精霊”が、教えてくれた」
昨日と同じく、呼び出した本人である梓は、何でもないようにそう告げる。
そしてその内容を質す間もなく。
梓は気負う様子を一切見せずに、先に入っていってしまう。
「お、おい――」
後を追って、俺も中に入ることに。
「…………」
ダンジョンの中は、比較的暖かかった。
外の寒さを断絶するみたいに、風は一切ない。
梓は直ぐそこにいて、顔を何もない宙へと向けている。
時折、何かに反応するかのように首を小さく上下に振っていた。
そちらに何かあるのだろうか、と俺もその視線を追いかけて見る。
「……淡い、光?」
針の先のように細くぼわぁっと光る何かが、見えた。
目を凝らさないと、直ぐに認識できなくなる、そんな心もとない光。
見間違いも疑ったが、どうやら梓はそれと何らかの意思疎通をとっているらしい。
30秒ほど待っただろうか……。
ようやく顔を真正面に向け、次に、体ごとこちらへと戻した。
「――このダンジョン、1階層だけ。モンスターも全部で20を超えない」
「…………」
断言するような口調でそう言われ、思わず黙る。
俺も、一番最初の特典のおかげで称号、そして≪ダンジョン鑑定士≫のジョブを持っている。
だから、一階層しかないレベルのダンジョンなら、俺もモンスター数の把握くらいはできる。
でも、今目の前で行われているのは、多分そういう感じで知ったわけではないんだろう。
「そうか……それは、さっきチラッと口にした“精霊”ってやつか?」
もしかしたら門外不出の特殊な能力かもしれない。
そんな可能性もあり、おそるおそるといった風に訊いてみた……が。
案外あっさりと、梓は答えてくれた。
「うん。下級精霊だけど。使役できると、ダンジョン攻略がグッと楽になる」
精霊か……。
実在、するらしい。
うわぁぁぁ、夢が広がるぞ、これは!!
「……でも、ハルトも、見えてるんでしょう?」
「え?」
これまた断定するようなニュアンスを持って、そう問われる。
梓は人差し指を立てて、空中を指さす。
その先に、まるで蛍でも飛んでくるように、先ほどの微かな光が漂ってくる。
そして、ゆっくりと止まった。
俺は、それを、目で、追っていた。
追うことが、出来ていたのだ。
「今日は、昨日の色々のことのお礼。精霊とか、後、このダンジョンを私が攻略するの、見てて。ハルトに、私のこと、色々と知ってもらう」
ちょっと梓成分が多いかもしれませんね。
もう多分後1話で終わると思うんで。
その後は……まあ、あれです、あれ。
3章は無かったあれです。




