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120.エッ、リヴィルサン!? 

お待たせしました。


では、どうぞ。



「――ねえ、ところで、その荷物、重そうだね、何が入ってるの?」



 脈絡なく、突如として告げたリヴィル。

 今まで傍観者だったリヴィルがいきなり割って入って来ただけに、白瀬の驚きは大きかったようで……。



「えっ!? あの、えっと……こ、これ? これは……」



 いや、それだけではないらしい。

 まるで、見られてはいけないものでも入っていると言うように。

 少しでもリヴィルから距離を取ろうとキャリーバッグを後ろへ下げる。



「そ、そう! 私、言ったようにアイドルをしていて、毎日色んな所を飛び回っていて忙しいの! だから、荷物も着替えをはじめ、色々、入ってるのよ!」 


「……へぇぇ」

 

 

 他者の纏っている空気・気配に鋭いリヴィルをして、“嘘っぽいよ”という視線をもらわずとも。

 今のは俺でも嘘だと分かった。



 そして、今のこの混沌とした状況を頭の中で整理すべく、活発に頭を働かせていたからか。


 白瀬が何を焦って、そして何故こんなところにいるのかが、ピンッときた。






 即ち、以前リヴィルと二人で見かけた時知った通り、白瀬はコスプレを密かに嗜んでいる。

 それにおあつらえ向きのように、今日は近くでまだコスプレイベントが行われている最中。


 そして、こんな人通りの殆ど無い場所に、一人で来ている。

 そんな彼女の手には、衣類などを沢山詰め込めるキャリーバッグ。

 







 ――白瀬の奴、普通に仕事終わりにコスプレを楽しもうとしとる!!






 いや、それは別に全然いいんだけど。



 まあ確かに、白瀬は有名人だ。

 白瀬だとバレずにコスプレするための着替え場所には困るだろう。


 トイレに入り込んだら、それはそれで誰かに見られる可能性もある。

 その個室から出て来たのがコスプレ済みの誰かだったら、それは逆に白瀬以外ありえない。

 

 その状況は、会場に設けられた着替え場所・更衣室でも同様のことが起こりうる。



 だから、十中八九、ここへは着替えに来たのだろう。

 ……人通りがないとはいえ、こんな寒空の下、だ。



「……? ん!」



 俺は、首を傾げながらも、自分はちゃんと喋ってないぞと胸を張り、ドヤ顔を向けてくる梓を見る。

 ……ちょっとイラっとしたのは秘密だ。



 つまり、白瀬が彼女を、そして俺達を見つけたのは偶然。

 その偶然が、こんなややこしい状況を作り上げているのかと思うと、誰に向けることもできない徒労感のようなものがドッと出て来た。


 


「……そう言えば、コスプレイベントをやってるって、書いてあったが……意外に着替えの場所って、気を使うことが多いって聞いたことがあるな」   



 更衣室内でもコスプレする人の間でスプレーだったり、メイクだったりと、色々と配慮がいるらしい。

 まして、偏見もあるだろう一般の人が見える場所で着替えたりするなどは言語道断だと。


 

 それら全てを含めたうえで、白瀬の苦肉の場所が、ここら辺だったのだろう。



「うっ! そ、そうらしい、ですね。良くは知りませんけど……」


「…………」


 

 やはり、白瀬は着替えに来たらしい。

 ただ……。


 サッと盗み見るようにして、白瀬の胸の辺りをチラ見。

 そこには一切の嫌らしい、性的な気持ちはなかったと言っていい。




 ……双丘とも言える膨らみを確認。

 



 ふむ……既に一部はコスプレ済みらしい。




「――何か今物凄い失礼な思考が展開された気がしたんだけど?」



 ヒィィッ!?


 何か今物凄いドスの利いた声が展開された気がしたんだけど!?



 白瀬といい、かおりんといい、何で最近の女子ってこう第六感が鋭いのかね!?



 そんな冷や汗を流している俺は置いておいて。


 今のやり取りただそれだけで、リヴィルは、今度は力強く頷いた。

 全てを把握した、後は任せて、というように。



 リヴィル……流石だぜ。



□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



 リヴィルは梓を軽く見た後、俺にグッと近寄る。

 そして、密着するほどに近づいた後、改めて白瀬を見た。 



 …………あれ、リヴィル、さん?



「……私達、これから、二人で色々と楽しむから。そこの子みたいに、見るも見ないも好きにして」


 

 そう言うや否や、俺の手を取って、上手い具合に俺が優しく押したように見せかける。

 そして、自ら建物の壁に背中をくっつけたのだ。


 俺も引っ張られるようにしてリヴィルと密着する。

 更に右手はリヴィルを抱きしめるように腰に回され、壁とリヴィルの尻付近で挟まれる形に。


 

 エッ、リヴィルサン!?



「っ!?」


「んっぁ――」



 後ろから白瀬の息を飲む声。

 そして、梓がちょっと色っぽく息を吐き出した音が聞こえた。



「んっ、ちゅっ、ぁん――」



 ヒィッ!?


 2人からは見えない位置から、絶妙な感じで舌を動かし、音だけを出す。

 上手く映るようにとの配慮か、脚まで絡ませてきて……。  




「あっ、んぁ――私達は勝手に、んっ、やってるから。そっちが何を、していようと、私達は気にしない。ぁんっ、だから、着替えでも、見学でも、勝手にやれば?」



 なっ!?


 なんと……逆転の発想!!



 カオス的な状況を収束できないのなら。

 新たなカオスを生み出してそこに吸収させればいい、とな!?



 リヴィルはつまり、暗にこう言っているのだ。



“こっちはエロい事してるから、そっちのことは目に入らない――だから、着替えるんなら今のうちに着替えちゃいなよ”と。

 そして更に上手いことに、先ほどの言葉の中には梓も単なる通行人だったと暗に仄めかしている。


 なんて、なんて大胆な発情――いや、発想を!?



 

「え……――っ!!」



 白瀬もそのメッセージに気づいたのか、またハッと息を飲む。

 そして――



「私は!! 今から、着替えに集中しないといけない事情があります!! ですから、どれほど情事が側でなされようと、気にしません!!」



 あえて聞こえる風に独り言として呟いてみせる。

 そして言ったその通り、白瀬は隅へと移動し、そのキャリーバッグを開けたのだった。

 

 リヴィルのセリフに感化されたように。

 自分も、その熱い想いに答えなければとでも言うように。



 俺は、その白瀬の言葉を聞いて、こう思った。








 ――いや、“事情”と“情事”でなんか上手いこと言った風になってるけど、白瀬の奴、何言ってんだろう、って……。








「――ほらっ、マスター、マスターももっと乗って……」 


 

 どれほどそれが続いただろうか。

 あくまでフリだとはいえ、リヴィルのその魅力的な乱れた様子は正に迫真そのものだった。


 それを目の前で続けられ、こっちも一杯一杯なのに。

 更に耳元でそのように囁かれる。


 

 数メートル程離れた位置からは、衣装の着脱する音が聞こえていた。

 まあ……何でリヴィルがこうしているかは理解できるから、やるけどさ……。


 でも心底今日ラティアがいなくてよかったと思う。


 ……いや、むしろリヴィルじゃなくてラティアだったら、また別の解決策になっていた、か?


 

「へ、へへ!! もうこんなに欲しそうな顔しやがって。そんなにこれが良いのか!?」 


「…………んっぁ!」    


 もう自分でも何を言っているのか全く分からなかったが、ここまで来たら自棄だ。

 深夜テンション並みにはっちゃけてやることにした。



 ……って言うか、梓が一番息遣い荒くなってない?

 お前の角度からだったら俺達のやってること、演技だって見えないのか?


 どんだけ観客に徹してんだよ……。  





「っ!! この、声、あれ、聞いたことが……もしかして――」



 

 白瀬がまた、何か呟いたのが聞こえた。

 いや、良いから早く着替えてくれよ。


 白瀬という例がある以上、多分、リヴィル的には人払いも兼ねてこうした演技をしてるんだろう。

  

 だから、白瀬の着替えが終わるまで、これは続けられることになる。



「――もっと荒っぽい男性の声! 女性を責め立てている鬼畜な声があると、もっと着替えに集中できそうな気が!!」



 コイツ何独り言の体を装って注文つけてきてんだよ!?



 えっ、俺!? 

 また前に白瀬を助ける時にした鬼畜彼氏っぽい演技しないとなの!?


 趣味嗜好にケチはつけないからさ、いいからさっさと着替えろよ!!

 

 

 ええい、クソッ!!




「――ほらっ、蕩けた顔してんぞ!! 一人だけ満足しやがって、俺はまだまだ伏兵残してんぞオラッ!!」



 最近覚えたての流行語“伏兵”まで投入。

 俺は出来る限りの全ての語彙を駆使して鬼畜な彼氏っぽい男をやり切った。



「んっ、んぁぁぁぁぁぁ!」



 リヴィルもリヴィルで。

 いつもの無表情から微動だにしないくせに、よくそんな色っぽい声を出せるものだと感心する。





「やっぱり……あなた、だったのね……」  




 何か、また白瀬の呟く声が聞こえた気がしたが。

 それを確かめる前に、どうやら全てが終わったようだった。




□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



 着替えを済ませた白瀬は、いつか見た、あの過激なコスプレ衣装に身を包み。

 すっかり別人のような見た目になっていた。


 

「……俺達はお互い、今日は何も見ていないし、誰とも会っていない。いいな?」


「…………」



 そんな白瀬の表情は晴れない。

 答えは返ってこないが、むしろそれでいいと思う。


 ――と、そう思っていたのだが、いきなり何かを決意したように、白瀬は顔を上げた。



「“……そうして、いつも知らんぷりをして、勝手に助けていくんですね”」


「…………」


「“そして、勝手に人の心を奪っていく――”」


 

 今度は俺が押し黙る番だった。

 それは、今までの白瀬とはまた違ったベクトルで、実に凛としていた。

 

 また、言葉にしっかりとした力が籠っていながらも、どこかセリフめいてもいて……。

 


「“でも、いいんです……今度は私が勝手に、貴方の心を奪って見せますから――覚悟していてくださいね、ハー君”」

   


 今までで一番の笑顔を浮かべ、それだけ言い終わると。

 白瀬は満足したようにキャリーバッグを引いて、梓を促し、その場を後にしたのだった。 


 

「…………」




 






 ――えっ、誰、“ハー君”って!?







主人公と梓の繋がりを秘匿できて、白瀬さんもちゃんとコスプレができて。

良かった良かった……。



――え? 何か色々と見逃してないかって?


……そんなことないでしょう、うん、大丈夫なはず(遠い目)。



ラティア「むむっ!! ご主人様がまたラッキーなイベントに遭遇した気配が!?」


……ラティアがまた軽くアップを始めたようです。 

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― 新着の感想 ―
[一言] ジャーンジャーン! 「げえっ!カンナ!!」
[一言] > 俺は、首を傾げながらも、自分はちゃんと喋ってないぞと胸を張り、ドヤ顔を向けてくる梓を見る。  この自分を忠犬だと思い込んでいるバカ犬感。 > ……双丘とも言える膨らみを確認。 >ふむ……
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