119.誰か、この状況説明してくれ!
お待たせしました。
ただでさえややこしく、書くのも色々大変だったたんですが。
おまけにマウスが壊れてしまって……。
色々と手間取ってしまいました。
とりあえずどうぞ。
「えーっと……あっ、そうだ、テレビで見たことある人だ!」
白々しく、大袈裟な程驚いてみせる。
これは別に嘘ではない。
俺は白瀬のことをテレビで見たことがあるのだから。
そこで、白瀬の表情が一瞬だけ曇る。
……何か気に障っただろうか?
だがそれで勢いを止める訳にはいかない。
ここは全くの一般人で押し通す!
「でも、なんでそんな人がこんなところに?」
そう言いながら、白瀬の右手に視線が行った。
旅行にでも行くかのようなキャリーバッグをわざわざ持っていたのだ。
多分、ずっと、それを持ち上げて運んでいたんだろう。
ここに来るまでにタイヤの引く音を聞かなかったし。
「ッ!」
彼女はその視線に気づくと、それから逃がすようにキャリーバッグを背後へと回す。
……何か、大事なものでも入ってるのか?
「……知らなかったんですか? 近くでイベントをやっています。ダンジョンや探索士の啓蒙で、“シーク・ラヴ”も呼ばれたんですよ」
キッと睨みつけるようにしながらも、かなり丁寧に説明してくれた。
見せつけるように指をビシッとあらぬ方向に伸ばす。
それを追いかけると、所有者の許可を受けたうえでの広報の一種だろう、色鮮やかなポスターが壁に貼られていた。
『○○町コスプレイベント 初心者の方も大歓迎!! 皆でコスプレに親しもう!! 今話題沸騰中の探索士アイドルグループ“シーク・ラヴ”や“Rays”のメンバーも駆けつけるトークイベントもあるよ!』
バックには職業物や二次元キャラなど色んなコスプレ姿の人が映っている。
開催日時も確かに今日と記されていた。
へ~……あっ。
そういうことか!
「…………」
無言で、俺の後ろにいる梓を目の端でとらえる。
話の成り行きが分からないのか、小さく首を傾げていた。
何でこのあたりを待ち合わせ場所として指定したのか。
……お前もそれに参加してたんかい。
「――で、私がここにいる理由は良いでしょう? 彼女は知り合いなんです。先ずはこちらに引き渡して貰えます?」
手を差し向け、梓を自分の方へと連れ戻そうとする。
……一瞬、物凄い彼女の言葉に違和感を覚えた。
が、それが何なのか、意識に上る前に続け様に言葉が継がれる。
「それと……こんな人通りのない場所に女性を二人も連れ込むなんて、感心しません――さあ、あなたも、こちらに」
今度はその視線をリヴィルに向けてそう告げる。
また、言葉にならない、喉元まで出かかっているんだが、という違和感が走った。
何だ、何かが……。
「……悪いけど、私、この人の連れだから。勘違いしてると思うけど」
こんな中でも冷静なリヴィルは極めて淡々とそう告げた。
それを受けた白瀬は初めて、慌てた表情を浮かべる。
そしてリヴィルと俺へ、視線を行き来させた。
「え!? そうなの!? あ、その、そう……」
…………悪かったな、釣り合わなくて。
まあ仮に居合わせたのが逆の立場でもそう思うわ。
俺がなんか邪な考えの下、リヴィル達を連れ込んだって方がまあしっくりくるわな。
……ぐすん、自分で言ってて虚しくなるわ。
そんな勘違いを正されて、白瀬は恥ずかしそうに顔が赤らんだ。
ただ、そんな戸惑いを見せながらも、リヴィルへ視線を送ることを辞めない。
「でも、あれ、どこかで、聞いたことがある、声……」
とかなんとか、ブツブツと呟いているのだ。
まあ、間違って恥ずかしい気持ちは分かる。
先生のことを間違えて“お母さん!”と呼んでしまった後、必死でフォローしているような状況だろう。
あるある、“えっと、先生のことをお母さんに紹介したくて”……。
……これは別の意味でダメか。
まあ、勘違いは誰にでもあるってことだ。
……勘違い?
勘違い…………。
――あぁぁぁぁぁ!
俺は、今ようやく、全ての状況を理解した。
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そうだ、白瀬はそもそも、梓と協力を結ぶ際に間接的にだが手を貸してくれたんだ。
つまり彼女は、梓が女性だと知っている。
そしてクソ面倒臭いのが、その梓の女性なのに、男性として振る舞い社会生活を営んでいるという部分。
これがこの場をカオスにしている。
「ええっと、特におかしなことをしていたわけじゃないけど……要するに、彼女を連れ戻したい、ということでいいんだよね?」
あえて、その部分を強調して、梓をチラッと見ながら告げる。
先ほどの違和感の正体を確かめるためにも、だ。
「!! ええ、そうです、この際、女性をこんなところに連れ込んだことは目を瞑ります。――さぁ、行きましょう“梓”さん」
やっぱりそうか!
白瀬は梓を“梓川”もしくは“要”という名で呼ばない。
つまり、白瀬は俺やリヴィルと、そして梓の繋がりを知らず、俺達を一般人だと思っている。
そして梓は世間一般では“男、梓川要”としての顔が有名なのだ。
だから、白瀬の主観としては――
“一般人がただの一少女だと認識している人物と、梓川要を結び付けられる訳にはいかない! 彼女が女性だとバレてしまう!”と必死なのだろう。
……それを想うと、梓のために何とか一秒でも早くこの場を去ろうと頑張ってくれている白瀬には、とても好感が持てた。
だが、この場を更に混沌へと導くのが――
「――? 何で? 私、まだここにいる」
「え!? ど、どうして、梓さん……」
梓ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
問題の震源地である梓は梓で。
俺との協力関係を秘匿しようとして、白瀬の誘いを断ってくれているのだ。
どうして、と白瀬に尋ねられても多くを語らず「ここに残る……」とだけしか言わない。
きっと、下手に口を開くと余計なことまで口走ってしまうとの配慮なんだろう。
白瀬も、そして梓も。
お互いがお互いに、他人を思いやるあまり。
状況がかえって泥沼にはまりつつあることに気づいていない。
もう何が何だか……。
俺は泣きたくなる気持ちで、第三者的な立ち位置にいるリヴィルへとその眼を向ける。
そして、それを受けたリヴィルが、静かに、コクッと一度だけ、頷いて見せたのだった……。
長引かせたくないので、おそらくまた日が明けるか明けないか、それくらいに頑張って更新すると思います。
面倒くさい状況になって、その解決にリヴィルが頼られた……。
……後はどうなるか、分かりますよね?




