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118.ややこしいことになった!!

実際にややこしいことになるのは多分次話ですので。

あまりタイトルは気になさらず。



『――助けて、ハルト』



 明日は再び学校へと向かわねばならない月曜日。


 そんな中、短いながらも火急だと知らせるメールが、梓から突如届いた。

 流石に慌てて連絡を取り、言われたものを用意して指定の場所に駆け付けたのだが……。



 


「……はぁぁ」


「……まあ、何もなくて良かったね、マスター」


 

 近くでイベントが催されているらしく、少しだけそこからは距離を置き。

 人目に付かない建物裏へと現れた梓には、リヴィルの言う通り、何かおかしなところはなかった。


 無事に来てくれたことそのものに、まずは安堵する。



「……?」  


 

 梓は首を傾げ、リヴィルへと視線を移す。


 ルオと入れ替わるように帰って来たばかり。

 家で寛ぐ間もなく、リヴィルは泊まりの荷物を抱えたまま付いて来てくれた。 

 


「えっと……リヴィルだ。多分、梓と出身の世界は同じになる、と思う」


  

 それだけで直ぐに色々と察してくれたのだろう。

 もうそれ以上リヴィルを凝視することはなく、改めて俺に向き直った。



「……ハルト、リヴィル、来てくれて、ありがとう」


「……はぁぁぁ。――ああ」

 


 一先ず、盛大な溜め息をついて、胸の中に溜まったあれこれも一緒に流すことにした。









「――え゛ッ、これ、梓が、着るの!?」


 

 一度落ち着いて詳しく事情を聞いてみると、思わず驚愕の声が漏れた。


 俺は、持ってきた自分の衣服の上下一式を差し、再度確認する。

 中には勿論、肌着、パンツも入っていて……。


 ……今、俺物凄い声出てたな。



「? うん、だから、頼んだ」 



 冬にしてはかなり軽装で、しかし男女どちらともとれる中性的な出で立ち。

 そんな恰好をした梓が、さも俺の服を着るのは当然だと言わんばかりに頷く。


 ……それは、色々と、その、問題、ありません?


 電話で持って来てと言われたときは、複数日ダンジョンにでも籠らないといけないような事態なのかと思っていたが……。



 それらが入った大きめの紙袋に、梓が手を伸ばす。


 俺は引く。


 梓が更に伸ばす。


 俺は更に引く。


 

 沈黙。



「…………意地悪?」



 いやいや、そんな切なそうな表情しても駄目ッス。

 ちょっと落ち着いて整理させてほしいッス。



「えっと……今度、Raysがバラエティー番組に出る、それで、私服チェックがあると」


「うん」


「……けど、今着ているような感じの物以外、代わり映えのない服しか持っていない」


「……うん」


「……だから、知り合いの男物の服を持ってる、俺に頼った」


「…………うん」

     

 

 もう確認しても“うん”しか言わない。

 しかも段々声が弱くなっていってるし。




 …………仕方ない、最近見つけた俺の長所、行っときますか。




「……嫌々、仕方なく俺の服を着るのであって、決して俺が袖を通したものなど汚らしくて着たくはない」


「? ううん」


「いやそこは“うん”で良いんだよ!?」


 

 今の、全部うんで通す流れでしょ! 


 この子、不思議系キャラとして通ってるけど。

 普段も本当に何か天然入ってない!?



「あのな、言っとくけど、その、アンダーシャツとか、パンツとか、入ってるんだぞ? しかもサイズとかどうすんだ……リサイクルショップの男物適当に見繕って、じゃダメなのか?」



 自分でもちょっと言うのが恥ずかしくて、かなりどもりながらになる。

 だがそれでも梓の決意を変えることは出来ないらしい。



「……知らない人の、履いた下着なんて嫌。下は特に。確かにサイズは違うけど、下はベルトで何とかする」


「……上は?」


 

 一瞬考え、しかし、やはりそこは梓らしく端的に答えた。



「それこそ、私、不思議系らしいから。ちょっとブカブカくらいで、ファッションとして丁度いい」


「…………」



 ぐぬぬぅぅ。

 そこまで言われると、渡さない理由は無いようにも、思えてくる。

 

 でも、でもなんかな……。


 何も前提を設けずに、手放しに渡してしまうのは、何かがマズい気がする。


 俺の直感が、そう、囁いているのだ。


 


 そんな思考の隙を付かれてか――



「あっ――」



 素早く俺の手から紙袋を取られてしまう。

 梓はもう、返さない、と言わんばかりにそれをギュッと強く胸に抱きしめる。



「ちゃんと、お金は払うから」    


「ああ、いや、別にそれは良いんだが……まあ気にするようなら、幾らかは貰っておくよ」



 協力すると、困っているなら力は貸すと、言ったしな……。



 梓は宝物でも守るかのように、強く強く、その腕に力をいれていた。

 紙袋に皴が出来てしまう程に。




 ……まあ、仕方ないか。


 もう渡してしまったし。





「……マスター、良かったね、付いて来たのがラティアじゃなくて、私で」



 リヴィルにそう言われて、改めて俺もそう思う。

 今頃ラティアは家で掃除や洗濯など、留守にしていた間の家事をこなしているだろう。


 それがもし、逆になっていたら――



「……雷に打たれたように衝撃を受けてるラティアが、目に浮かぶよ」


 

 そして俺と梓の一連のやり取りを見つつ、下着の直履きなどの話題を経て、最後に笑みを深める姿が――



 ――あっ!



「梓、ちょっと待て! 私服チェックに使うんだろ? なら少なくとも下着は――パンツはいらないはずだ!」



 チェックされるのは普通は上下のコーディネートのレベル。

 私服チェックの企画で、男の下着姿を撮影しようと思う程、今のテレビ制作の現場は腐りきってはいないはず。 

 


「お前も俺のを直履きするより、自分の履き慣れた衣類の方がいいだろう! ほらっ、返してくれ!」


  

 だがその願いは聞き入れられず。

 梓は大切な玩具を取り上げられようとしている子供のように、紙袋を俺から遠ざける。

 そして、いやいやと首を振った。

 


「ハルトは対価を受け取ると言った。だったら、これはもう私が貰った物! 服やズボンだけでなく、下着・肌着合わせてファッション!」


 

 お前はどこで自分出してんだよ!?

 人生の中で強気になる必要がある場面、もっと別にあるからな!?



「……本当に、ラティアがいなくて良かったね、マスター」


「……心底リヴィルが来てくれて良かったと思ってるよ」



 この状況、良く分からんが、何故かラティアが喜びそうだもんな……。



 

 その後、頑なにパンツの返還を拒む梓を見て。

 諦めの気持ちを覚えながらも、一応返してくれと頼み続けていると――




「――何をしているんですか? こんな人通りの少ない場所で、女性を二人も連れ込んで」



 女性が、いきなり割って入って来た。


 

「私は、ダンジョン探索士の白瀬(しらせ)飛鳥(あすか)です! お話、聞かせてもらえますか?」




 …………。




 


 ――ややこしい奴に見つかったぁぁぁぁ!!  

  

ややこしいと言うか、面倒くさい状況というか……。


まあ男装系女子がいる時点で、簡単に物事が運ぶ訳もなかったんですよ……。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「……嫌々、仕方なく俺の服を着るのであって、決して俺が袖を通したものなど汚らしくて着たくはない」 >「? ううん」 >「いやそこは“うん”で良いんだよ!?」  むしろ新品を渡すとなんで着古…
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