114.ボス戦を終えて、ホッと一息……。
ふぃぃぃ……。
どうぞ、もう一話です。
〈Congratulations!!――ダンジョンLv.15を攻略しました!!〉
ふぅぅ……どうやら終わりらしい。
いつものあの無機質な音声が聞こえて来た。
〈Congratulations!!――“ボス保有ダンジョンを 3つ 最速攻略”しました!! 報酬を進呈します〉
あれっ!
今回は別途報酬有りのパターンか!
音声が告げる内容が頭の中で浸透し、喜びが湧き上がってくる。
「おっし、やったぞ! ――って……」
声を上げてそれを表現したのも束の間。
直ぐに目の前の光景を理解し、冷静になる。
「ん? どうかしたのか?」
俺の態度の変化を訝しむのはシルレ――の姿をしたルオ。
外見そっくりで仕草もそのまま。
だから一瞬本物のように錯覚するが、そうではない。
「いや……ルオ、服。直ぐに着替えような」
「……そうか、いやそうだな、すまない、戦闘に夢中で忘れていた」
出来るだけルオの――シルレのその艶やかな半裸体を見ないようにしながら。
俺は自分の荷物を拾い上げ、そのマジックバッグから衣類を取り出していった。
〈報酬として“50000DPを進呈”〉
――ピロンッ
〈――また、パーティー内選択報酬を進呈〉
これも違う、あれも違うと俺が服のサイズを確認する間にも、声は進行を続けていた。
……何かちょっと申し訳ない気になってくる。
ゲームとかで、王様が“よく魔王を倒してくれた、勇者よ! 褒美として好きなものをそなたに与えよう!”みたいなセリフを言っている厳粛な場面。
それで勇者が“ちょ、すんません……あの、ズボンのサイズ、合わなくて……”とか言ってゴソゴソやってたら、興覚めもいいところだろう。
正にそんな心境だった。
〈“称号〔枠外者に強き者〕を1つ、サブジョブ項目2つ開放、そして祝福のロザリオを1つ”〉
「ええっと……どうしようか?」
リヴィルのちょっと遠慮しがちな声が頭上から届く。
とりあえずルオの着替えを渡して、俺は頷き返した。
「称号、ステータス上の恩恵、そしてアイテムって感じだろう……」
簡単に今の声の内容を整理。
魔法発動の余韻から戻ったラティアが近づいてくる。
それを聞いていたラティアは、提案した。
「一つの案として、ですが……ご主人様が全取りでもよろしいかと」
「…………まあ、ありがたい案ではあるが、やっぱり分けようか」
それが主人を立てる気持ちから出たのか、あるいは戦力的に一番補強しないといけないのは……誰でしょうね、ということなのか。
それは分からないが、流石に一人で全部貰う程に傲慢ではないつもりだ。
直ぐにそう返したが、ラティアがそれで不満げにすることは無かった。
「ルオッ、ルオはどう思う?」
隅っこに移動していたルオに聞こえるよう声を張って、その意見を求めた。
既にシルレの姿からは戻っていて、丁度服を着換えているところのようだ。
「えっと! ボクは良いよッ! 3つなんでしょ? ご主人と、ラティアお姉ちゃんと、リヴィルお姉ちゃんの3人で分けて!」
「えっ、それでいいのか? 何なら――」
「いいの! 何か足りなかったら、頑張ってストック作るから! ――っていうか、ご主人、あんまりこっち見ちゃダメ! 今、凄い恥ずかしい!」
お、おおう……。
何だかその返事の声は、自分も欲しいけど遠慮してというよりは、報酬などどうでもいいというように聞こえた。
更に言うならば、俺に着替えをガン見されることの方が切実な関心事だと言っているようにも……。
……普段はグイグイボディータッチとかあるのに、こういう場面で見られるのは恥ずいのかよ。
女子ってほんと謎だらけだな……。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
その後、着替え中のルオを除いて、軽く3人で話し合った。
ポケ〇ン最初の3体方式で、俺が先ずどれにするか選んでいいということに。
なので俺は以前も報酬の際得ていた称号を貰うことにした。
「私は余った物で大丈夫ですので。リヴィルが先に選んでください」
「そう? 分かった……それじゃあ――」
そうして、リヴィルが選んだのはサブジョブ項目の開放。
リヴィルは既に自分のジョブ枠がその芯ともいうべき“導士”のジョブで埋まっていた。
そこで、更に出来ることを増やそうというリヴィルなりの考えがあったのだろう。
「――うあぁぁぁ! 凄く綺麗です……」
最後に、ラティアは何もない中空から降って来たロザリオを手にした。
その感動が表すように、十字架が放つ神々しさは触れていない俺にさえ伝わって来る。
一種の触れ難さ、畏敬の念みたいなものが、ラティアから感じられ……。
うぅぅむ、ラティアの存在感がまた増してしまったな。
「……ただ、これはアイテムのようですから。ルオやリヴィルと共有することにしますね」
そう言って近づいてきたルオに、そのロザリオを手渡して見せる。
すると今度は、ラティアから急に親近感のようなものが湧き。
逆に着替え終えて清々しい表情のルオからは、神々しい近寄りがたさみたいなものを感じた。
「え、えっ!? 何!? ご主人、何でボクから離れるの!?」
本人は実感がないのか、手をゾンビみたいに彷徨わせて近づこうとするルオから、俺は一歩、また一歩と距離を取る。
これは……凄いな。
相対的な問題で、一瞬にしてラティアに近づきたくなった。
「? どうかされましたか、ご主人様?」
ラティアもラティアで、何もわかってない……風を装っているのか。
笑みを浮かべて可愛らしく小首をかしげる。
クッ!
これは……罠か!?
「ご、ご主人……逃げないでよ~!」
「ご主人様? どうなさったんですか?」
ルオは雰囲気的に近づき難いし。
かと言ってラティアは黒ラティアが控えていそうで近づき難い。
ええい、かくなる上は!
「――助けてぇぇ、リヴィえもん!!」
リヴィルの方へと逃げた。
青っぽい印象あるしね、リヴィル。
「何“リヴィえもん”って…………――って、ん、フフッ……マスター、くすぐったい」
いや、肩に手を置いただけなんだが。
「クッ! リヴィル、伏兵ですね!」
“伏兵”って……最近のトレンドワードか何かなの?
「うぅぅぅ……ご主人に避けられた……」
いや、しゃあないでしょ、すんごいオーラするもん、今のルオ。
「今回は2つにチームを分けたことが上手く機能したな」
その後、ロザリオはルオの衣類と同様、マジックバッグ預かりとなって。
簡単な反省会を開いていた。
「確かに……頭部がどこに出ようと、詠唱を阻止できたしね」
正にリヴィルの言う通りだった。
俺の所に来たら、ヘイトで飛び交う蚊のように嫌がらせして。
ルオの所に行ったら、シルレのその純粋な実力で攻撃して。
リヴィルの所に出てしまったら、それこそ一番死に近づくから、詠唱してる暇なんて無かっただろう。
「その……ゴッさん? とゴーさん? の2体も、良かったと思うよ? ちょっとダメージを食らい過ぎな気もするけど」
「ああ……そこは、まあな」
ゴーさん――スモールゴーレムが盾として機能するためには、あえて攻撃を受けてダメージコントロールしないといけない時もある。
だから3体分をゴーさんに任せて、俺が回復魔法でHPを管理する場面もあったのだ。
ルオからしたら、それを踏まえて、俺の魔力消耗が激しくなることも懸念してるんだろう。
「もうちょっと戦闘に慣れてくれば、今よりも上手く状況をコントロールできるようになると思う……ラティアはどうだ?」
「……私は、戦闘中、詠唱を続けるべきかどうか、迷ってしまいました」
ああ、一度、あったな。
ミミックたちがその体の部位をシャッフルした時。
「最初の指示も良かったし、慣れてくればああいう場面でも、瞬時に判断できるようになると思うけど」
俺の言葉に同意するように、リヴィルとルオも頷いた。
だが、ラティアは気にしているのか、その表情が直ぐに晴れることはない。
「勿論、私も全力を尽くすつもりです。ただ、やはりここぞという時、念のための保険、のようなものが、あれば、とは思います」
上手く自分の想いを言葉にできないのか、途切れ途切れになりながらラティアはそう告げた。
「ん~っと……それは、具体的には?」
「マスターの指示が聞ける、伝令役みたいな感じ?」
リヴィルの言ったことが、当たらずとも遠からず、みたいな感覚なのだろう。
何とも言い辛い顔をして、ラティアは首を傾げる。
ただそれで考えを伝える切っ掛けみたいなものは得られたのか、少し表情は明るくなっていた。
「先程みたいな一秒一秒が大事な時に、誰か別の人を走らせる余裕はないでしょう。そこはやはり私が判断すると思います」
「ああ……じゃあラティアお姉ちゃんが考えてるのは、前の親子ダンジョンの時みたいな場合のことだね?」
「そうです、その通りです!」
「なるほど……」
確かに、前回はたまたま志木達の持っていたDD――ダンジョンディスプレイがあった。
でも、俺達だけで攻略する際、DDは俺の物一つだけ。
それぞれチームを二つに分けて親子ダンジョンを攻略すると仮定した時。
「ダンジョン間を瞬時に行ったり来たりできて、俺とラティアの意思疎通を媒介できる、そんな感じか……」
まあ、そんな都合のいい奴、直ぐには見つからないだろうが。
それに、そんなダンジョン攻略をしないといけない状況というのも、明日明後日みたいな話じゃないし。
だが、次の具体的な課題は明らかになって来た。
今度補強が必要な際は、その観点から考えてみようかな。
リヴィえもん、ラティアンとスネルオがいじめるよ~!
……その後、元ネタを探ったラティアが、人知れず笑みを浮かべていたそうな。
なお、証人の証言は録取済み。
以下がその証言である……。
「――えっと、ラティアお姉ちゃん、変な笑い声をあげて繰り返すんだ……“ご主人様の初物は私の物。私の初物もご主人様の物”って……」




