113.3度目のボス戦!
お待たせしました。
では、どうぞ。
「おいおい……」
3度目のボスの間にて。
戦闘が始まる前の独特の緊張感――そんなものは直ぐに吹き飛んだ。
俺はあんぐりと開けた口を何とか元に戻して、呟いた。
――お前ら、封印されし者かよ……。
現れたのは5つの箱。
このダンジョン自体がミミックを主な戦闘要員としていたことから、予想は付いた。
ただ、その箱が開くと、箱一つにつき体の部位が一つ、飛び出してきたのだ。
つまり頭、右手、左手、右足、左足の5つ。
頭は、人というよりはゾンビのような化け物さが際立っている。
それぞれが箱と繋がる一つの生命体として動いていた。
「5体揃ったら勝確とかじゃないよな……」
5つの箱は距離的にバラけているものの、これが集合し出すようになったら慌てた方がいいだろうか。
「とにかく……」
こういうのの定番は、頭を潰すことだ。
今までのボス戦でもそうだったが、大体雑魚が複数体いて。
そして核となる中心的モンスターが1体いるって感じだ。
どれがそれにあたるかは……まあ普通は“頭”だと考えるだろう。
「ラティアッ! こっちで3体受け持つ! そっちは3人で2体――頭含めて、行けるか!?」
ラティア、リヴィル、ルオの3人で作る主力チーム。
これで一気に攻め落とす。
頭脳役は後衛のラティアだ。
「はいっ! ――リヴィル、他は気にしないで、頭のミミックだけをお願いします!」
「ん!」
ラティアの指示に従い、リヴィルが走り出した。
それとほぼ時を同じくして、ルオは【影絵】のストックを引っ張り出してくる。
ルオ自身よりも、別のストックの方がこの戦況では適切だとの判断だろう。
「ルオはリヴィルのサポートを! 私のことは気にしなくて構いません!」
次々と指示を飛ばした後、自身も詠唱に入った。
それを傍目で確認し、俺も自らのやるべきことをなす。
「行くぞ!! ゴーさん、ゴッさん、3体引っ張ってくるから!!」
叫びながら駆けだす。
狙うは近くにいた右足、左足、そして右手の飛び出したミミックだ。
俺は【敵意喚起】を発動。
3体が俺へと箱ごと体を向け、一気に襲い掛かって来た。
「GI,gigagiga!!」
「――ギィッ!」
左足の箱が一足早く俺へと接近すると、その隙にゴッさんとゴーさんが割って入るように動く。
これで遅れた右腕、右足の箱が、分断された。
俺と左足ミミックの1対1。
そして、ゴッさんとゴーさん、右腕右足ミミックの2対2の構図になる。
ボス戦が、始まった。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
途中までは、上手く進んでいた。
頭部が突き出たミミックが大規模な詠唱を始めた際には少しビビったが、それも上手くリヴィルがケアしてくれた。
ルオはバランスの良いシルレのストックを【影重】で貼り付け、それをフォロー。
左腕が繰り出す攻撃をいなし、時には体で受け止めて、時間稼ぎに徹していた。
俺達は俺達で、決定打こそ与えられないものの、絶妙な連携でじわじわと相手を削っていた。
「――チッ、クソッ、そう来たか……」
そんな中だった、異変が起きたのは。
5体のミミックが、一斉に箱を閉じたのだ。
一瞬何かのトラップかと焦り、攻撃を控えると、数秒後、再度蓋は開いた。
その中から現れたのは、別の個体。
――俺の目の前に現れたのは、先ほどまでリヴィルが相手していた“頭部”だったのだ。
「クッソ――」
シャッフルされたのだ。
さっと目を走らせると、俺がさっきまで戦っていた左足はゴッさん達が。
そしてゴッさん達が戦っていた右腕が今、リヴィルの前にいる。
かなりしっちゃかめっちゃかになってしまった。
「≪……――≫」
詠唱途中のラティアと目が合う。
詠唱を止めて、自分が指示を飛ばすか、それともこのまま続行か。
どうすべきかの判断がつかないと言ったところだろう。
「BGIIIII……≪――――≫」
チッ、目の前の頭部ミミックがまた詠唱を始めやがった。
俺は一瞬のうちに判断し、叫ぶ。
「続行だっ! 誰のところに来ても、こいつを潰すことを最優先!!」
短く、それだけ告げて、俺は【敵意喚起】を発動した。
詠唱途中だった頭部ミミックは、煩わしそうな声を上げ、詠唱を止める。
それで大規模に展開された魔法陣も消滅。
よし!
ラティアも詠唱を継続しているのを確認し、戦闘を再開した。
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「皆っ!! 左腕、潰した!」
リヴィルからの声が上がる。
両腕に導力を纏わせたリヴィルによって、左腕部分だけでなく、その箱も粉々にされていた。
2度の部位のシャッフルを経て、ようやく5つの内、一つを屠るのに成功したのだ。
「よし――ラティア、仕上げ頼むぞっ!」
当初こそ混乱もあったが、よくよく戦況を観察しているとそこまで苦戦するような相手でもないことが分かる。
こいつらの一番の武器はやはりあのシャッフルなんだろう。
そしてそのシャッフルで場所を移動しながら時間を稼ぎ、頭部が展開しようとしていた大規模な魔法で相手に大ダメージを与える。
でも、こちらはどこに移動しようが頭部と相対して詠唱をキャンセルできるような布陣になっていた。
だから一度も魔法を発動させずに、戦闘終盤にまでこぎつけることが出来ていたのだ。
「っ!――」
反対に、こちらの魔力の大砲は完成する。
ラティアは詠唱中のため、小さく顎を引くだけで答えてみせた。
「Btyaaaaaa!!」
口のないはずの右腕が、そんな奇声を上げてラティアへと襲い掛かろうと試みる。
が――
「させるわけが、ない、だろう!」
シルレそのままの姿・口調のルオが、頑丈な体をそのまま盾にして、右腕を食い止める。
リヴィルが1体を潰した今、2体の内1体――つまり右腕だけをケアすればいい。
ルオは余裕を見せるようにして、ラティアを守るという役割に徹していた。
「Bti,bbbbbb――」
こちらが担当する2体も、同じ危機感を抱いてか、ラティアへと向かおうとする。
しかし、俺が発するヘイトの引力からは逃れられず、行ったり戻ったりを繰り返すばかり。
「ギシシッ、ギシャァァァ!!」
「Giiiiii!」
そしてそこをゴッさんの軽快な動き、ゴーさんの重い一撃に襲われる。
勝敗は、決した――
「――【デモンズ・ボム】!!」
真っ黒な、太陽が生まれた。
暗黒の玉は揺らめき、静かに落下していく。
ミミックたちが箱を閉じようとした。
危険を感じてか、それともたまたまシャッフルのタイミングと被ったのか。
そのどちらにしても、行為は意味をなさずに終わる。
悪魔が生み出す爆弾は、そのまま1つの閉じた箱の内へと入り込む。
そして、一瞬の静寂の後――
――闇が、爆発した。
4つの箱が内部の異空間で繋がっていたのか、それぞれの半径10m内に、小規模なブラックホールが4つ出来上がる。
内側からミミックは、その存在全てを闇に、飲み込まれていった。
爆発が収束すると、ボスの間には、リヴィルが倒した1体の死骸――粉末状の何か以外、残らず。
こうして、3度目のボス戦は終わりを告げたのだった。
あんまり長引かせるものでもないので、ボス戦、1話で終わらせることにしました。




