110.あけおめ!
今日メンテナンスって知らなくて、最初いつものところに飛ばなくて、なんかウィルスにでも感染したのかとビビりました。
このお話から第4章開始となります。
まあ、最初の話ですので、軽めになりますが。
ではどうぞ。
「ふぁぁぁ……あれ? ラティア、一人か?」
久しぶりにゆっくりとした朝。
いい匂いにつられながら階段を下りていくと、既にラティアが起きていた。
「あっ、ご主人様! あけましておめでとうございます」
エプロンを身に着けていて、小皿に移した汁を味見するところだったようだ。
片手鍋から甘い味噌のいい香りが漂ってきている。
「おめでとう。それで、今は一人で準備中か?」
新年の挨拶を終えて、ちらっと階上へと視線を向ける。
リヴィルもルオも、ラティアと同じくらいに普段は起きるのに……。
「申し訳ありません。私が今日の朝の準備はすると言って、任せてもらったので」
そう言って小皿を置いて、起こしに行こうとする。
だが、別にそれを怒っているとかでも何でもないので、俺はラティアを止めた。
「ああ、いや、寝てるなら寝てるでいいさ。俺みたいに直に起きてくるだろう」
「そうですか? 分かりました……」
ラティアは頷いて、準備に戻っていく。
未だ若干寝ぼけたままの目でその後姿を追う。
新年でも相変わらずエプロンの下に纏っているサキュバスの衣装。
肉付きのいいお尻に、黒いエナメルのショーツがピッチリと張り付いている。
ラティアが動くたびにフリフリと可愛くお尻が揺れ、思わず視線がそこに吸い寄せられて行く。
「? どうかされましたか? あと少しで出来上がるので、もうしばらくだけお待ちください」
ずっと入り口に立ち尽くしていた俺に、首を傾げる。
だがその眼は、俺の見間違いだろうか、何やら一瞬、ほんの一瞬だけ怪しい光が走ったような……。
「……顔洗ってくるわ」
ちょっとまだ頭が寝ぼけてるんだろう。
俺は心持ち足早に洗面所へと駆け込んだのだった。
「ずずっ……ほぅ……染みる。おいしいね」
「うん、お餅も、うにゅにゅ……伸びて、柔らかくて、お汁と凄くあってるよ!」
俺が顔を洗い終わったくらいに起きて来たリヴィルとルオを交えて。
新年最初の食事を頂いていた。
ラティアが早くから用意してくれただけあって、二人にも非常に好評のようだ。
「…………」
「……えっと、何だ? どうかしたか?」
お椀を口へと持っていこうとすると、ラティアから鋭い視線を向けられていることに気づく。
これから戦場へと赴く兵士でもそんな目しないだろうに。
「いえ、何でもありません。どうぞ、召し上がってください」
とはいうものの、ラティアはその眼の鋭さを緩めない。
えぇぇぇ、何、何なの。
……俺のにだけ変な薬とか、変な液体入れてないよね?
「……ずずっ、ずずずっ……」
何だろうなぁぁ、嫌だなぁぁ、怖いなぁぁと思いつつ。
恐る恐る椀に口をつけ、傾ける。
出汁をしっかりとった上で味噌を溶かしたのだろう。
上品な甘さの中に、ちゃんと旨味があって、とても美味しかった。
「…………」
だがまだラティアが満足した様子はない。
美味しそうに、だがちょっと苦戦気味に格闘中のルオのように。
俺はお餅を箸でつかみ、口へ運ぶ。
「ん……あむっ、んむっ……」
少し熱い。
歯で餅の1/4程を噛み、引っ張る。
ニュニュっと伸びて、千切れた。
柔らかく、それでいて先ほどの汁が程よくアクセントを加えていて、何度でも噛んでいたくなる。
やがて、喉に詰まらない程度に噛み分けた後、飲み込む。
「えっと……うん、凄い美味かった」
別にムラムラしてくるわけでもないし、何か鉄の味が混ざってたわけでもない。
普通に美味しいお雑煮だ。
だが……。
「……それで、どうでしたか?」
あれ、今の感想じゃダメなの?
もう既に自分の中で食レポ終わってるんだけど!
「……マスター、例えば、このお雑煮、どれくらい美味しかった?」
「え?」
何故かここでリヴィルが口を挟んでくる。
しかも立ち位置としてはやはりラティア寄り。
ええい、クソッ、ここに味方はいないのか!?
「どれくらい? うーん……」
となると、先ほど言った“凄い”ではダメらしい。
何かに例えないといけないのか?
えーっと……。
「そうだな。今まで食べた料理の中でも、かなり上位に入るくらい、それくらい美味しかったかな」
「…………」
「…………」
あ、あかん、これでもダメっぽい。
今度はリヴィルまでもが視線を鋭くして見つめてくる。
ええ、もうどうしろって言うんだよ……。
「う、うわぁぁ、ボク、もうお餅、全部食べちゃった! でも、とってもおいしかったから、それも仕方ないかもね!」
沈黙に耐えかねたかのようにルオが声を出した。
少々大げさなようにも聞こえるその言葉を、しかし、俺はルオなりのヒントだと受け取る。
去年のクリスマスの帰りも、そうして答えにたどり着いた。
もしかしたら、今回はルオがヒントを出す側に回ってくれているのかもしれない。
「でも、流石に毎日はちょっとキツイかな……お、お味噌って味濃いしね! ラティアお姉ちゃんには申し訳ないけど」
「いえ、良いんですよ、私も流石にこれだけを毎日皆に食べてもらうというのは違うと思いますので」
ルオの言葉に、ラティアがちゃんと受け答えしている。
ということは、やはりルオのそれはヒントなのだ。
「私はさ、毎月でも食べていいと思うんだけど、やっぱりこれってこの国の風習?伝統?みたいなものでしょ。やっぱり毎月ってのも違うのかな……」
リヴィルが言葉にしたのも、この流れからして何かのヒント……ハッ!?
今までのやりとりを注意深く観察していて、俺はようやく答えに辿り着く。
なるほど……答えは、これだ!
「――そうだな、うん、俺も凄く好きだよ。“毎年”お正月に食べたいくらいだ。ラティアが作ったお雑煮」
「っっ! はい! ありがとうございます、ご主人様!」
今年初めての満開の笑みを浮かべたラティアを見て。
やはり今ので正解だったんだとホッとする。
ふぅぅ、新年早々変なことで疲れたが、まあよかった。
「――それでは、これからも末永くよろしくお願いしますね、ご主人様?」
「…………え、うん。よろ、しく」
……あれ?
何かちょっとニュアンスが……。
“末永く”……はて?
……………………あっ!?
こ、これはもしかして――
俺は、今になって思い出す。
かの有名なセリフを……。
“お前の味噌汁を、毎日飲みたい”
あるいは亜種として
“料理が上達したら、毎日あたしの酢豚を食べてくれる?”でも可。
……俺は、今、一体何を言った?
“毎年お正月に食べたいくらいだ。ラティアが作ったお雑煮”
「――フフッ、フフフ……」
ニコニコと笑顔を浮かべて自分の分のお雑煮を食するラティアを見て、確信する。
――やられたぁぁぁぁぁぁ!!
そんなどうでも良さそうな頭脳戦を繰り広げながらも、俺達は新年を迎えたのだった。
感想の返しはおそらくまたお昼頃か、それ以降になるかと思います。
すいません、もう少しお待ちください。




