107.どうして彼はこうなってしまったのか……。
ぁぁぁぁ……。
すいません、やっぱりこのお話では3章は終わらなかったです。
一先ずどうぞ。
「いやぁぁ、凄かったですね……」
Rays――立石や梓達のグループが歌を歌い終え。
椎名さんがあからさまにホッとしたような声音でそう口にする。
「最初は皆様が罰ゲームか何かでもしているのかと思いましたよ」
「……あながち間違いじゃないですね」
もっとも、誰も勝者のいない全員参加の罰ゲームだがな。
『――改めてRaysの皆さんでした、今後の彼らの活躍から目が離せませんね! 大変迫力のあるパフォーマンス、ありがとうございました!』
「いや、今直ぐにでも目を離すことをお勧めしたいですね。人の有り様を考えさせられるパフォーマンスです、ありがとうございました」
椎名さんはテレビの司会者の言葉に被せるようにして毒づいた。
そして休憩は終わりだというように厨房へと戻っていく。
どうやらデザートを持ってきてもいいかを確認しに来て、あの事故に遭遇してしまったらしい。
しばらく、無気力な時間が流れた。
「……はぁぁ」
誰とはなしに、溜め息が漏れる。
全ての生気を抜き取られたかのように重い重いものだった。
これは……ある意味では凄い才能かもしれないな。
「……いや、まあ凄かったが、あれ、大丈夫なのか?」
何とか言葉を絞り出して、頭痛を気にするような仕草をしていた志木に尋ねる。
「……さあ?」
志木にしては珍しく、考えるのを投げたような回答。
側にいたラティアも心配そうに見つめている。
「さあって……」
「いや、もうそう言うしかないじゃない、“アレ”」
名前を呼ぶのすらしんどいという感情がありありと伝わってくる。
怠そうにしている志木というのは本当に珍しい。
おおっ、そうだ、“た〇ぱんだ”ならぬ“たれかおりん”、売れるかも!
「――堀田プロデューサーのイチオシらしいですね“アレ”」
戻って来た椎名さんは両手に盆を持っていて、その上にシャーベットを乗せていた。
ってか“アレ”呼びは確定なのね……。
片方のお盆をテーブルに置くと、次々と俺たちの前に器を置いていく。
見た目の色からしてオレンジシャーベットのようだ。
だがその数は8つしかなく、一人分足りない。
最初は俺の分かな、と邪推したが、そうではなかったみたいで。
「――はい、どうぞ、あなたにはこっちの特別製を差し上げます!」
遅れて出てきた三井名さんが、一つだけ、器を手にしていた。
その器を、彼女はリヴィルの前に置いた。
「……えと、これ」
それを受けたリヴィルはどう反応すればいいのか分からないと言った様子。
三井名さんはそれに対し、また様になるウィンクを決めて何でもない様に言った。
「柑橘系のオレンジアイスもこの店の定番だけど、リンゴアイス、自信作だから食べて!」
「…………」
……ああ、なるほど。
もしかして、リヴィルのあの話、聞こえてたのかな……。
なのに、押しつけがましくなく、サバサバとした感じ。
こういうのを何でもないように出来るのが大人の女性って言うのだろうか。
リヴィルのことを想ってもてなしてくれたという事実に、先程までの無気力な心がスカッとする気持ちだった。
いやぁ、こういうのも偶にはいいね、うん。
「……伏兵だね」
「……ですね。思わぬ場所に潜伏していたようです」
うん、確かに三井名さん、ずっと厨房にいたからね。
ってか逆井も皇さんも復活する切っ掛けが良く分からないんだが……。
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「堀田さん、以前までは普通だったんだけど……」
椎名さんの言葉を受け、志木は更なる頭痛に耐えるように手でそっと額を支えた。
「椎名、それで、そのことはどなたから? もしかして、六花さんですか?」
「はい、厨房に戻る前にメールで訊いてみたら――」
皇さんの質問に答えながら、椎名さんは自分の服からスマホを取り出し、操作する。
該当のメールを開いて、俺達に見せた。
『件名:へ~菜月ちゃんといるんだ! 椎名ちゃんがメールくれるなんて珍しいと思ったの!』
その送り主の所には“六花”という名前があって、そこに“てんねんきねんぶつ”というルビが振ってあった。
……いや、まあいいんだけど。
『最後の一人、どうも堀田プロデューサーのゴリ押しだって話よ? 美洋ちゃんのお父さんは反対なさったって聞いたけど……』
“美洋”って……ああ、“飯野美洋”さんね。
クイズ番組で脅威の10問連続不正解を叩き出して、黒かおりんの降臨あと一歩まで迫った、あの傑物ね。
「堀田プロデューサー――えっと、飛鳥様や六花さん、美洋様の事務所でプロデューサーをされている、やり手の方です」
俺達が置いてけぼりになっていると思ったのか、皇さんがそう補足してくれる。
オレンジアイスを突きながら首を傾げていたラティアやルオが、分かったような分からないような、曖昧な頷きを返した。
「えーっと……私も殆ど会ったことないけど、良い人は良い人だよ?」
「だね。まあ最近ちょーっとオーラが変わったというか、アタシは近づき辛いかなって感じてたけど――あ、あったあった」
逆井は赤星の言葉に答えるようにしながらも、何かスマホを操作していた。
そして目的の物を見つけたようで、先ほどの椎名さんのようにそれを見せてくれる。
それは動画のようで、よくよく見てみると、以前特番のテレビで見たあの鬼ごっこの無人島のようだ。
逆井と白瀬が逃げ切って、PRしてた、あの。
「これさ、撮影後にしらすんが黒鬼のヤバさ、事前に聞かされてないぞって怒ってるの、撮ってたんだ」
「ああ……私は囮にされて、普通に黄色鬼に捕まった、あれですか」
憎き敵を思い出すようにして、桜田はオレンジアイスをスプーンでザクザク突き刺していた。
いや、お前も確か結構いい思いしてたんだろ、それで……。
『ちょっと! 堀田さん! 何あの全身黒レザーを纏ったヤバい奴ら、あんなの聞いてないんですけど!?』
始まった動画は、普通にそのやり取りを後ろから撮っていたもので、白瀬もその存在を認識しているみたいだった。
ただ怒りの方が先行して、撮影者の逆井を放置している、そんな感じだ。
『いやいや! でもおいしかっただろ!? それに飛鳥なら逃げきれるって、俺、信じてたから!』
『あ゛ん? もう一遍言ってみて?』
『……ほっ、堀田峰敏、お、男に二言は……、二言は……』
『自分でも逃げ切れるなんて思ってなかったわよ、ほんと、事前に言っときなさい! あれは流石にダメ、トラウマよ!!』
その後は色んな感情が極まったように白瀬自身も訳が分からずその男性をバシバシと軽く殴り蹴り。
流石に慌てた逆井がスマホを置いて駆けつけ、宥めている様子が音声から聞き取れた。
「へぇぇ……見てる分には普通な感じっぽいけど」
特別製だとして貰ったリンゴアイスを口に運びながら、リヴィルは率直な感想を述べる。
「……よね。私もリヴィルさんと同意見。白瀬さんや六花さん達を相手にしている分にはまともなのに、何が堀田さんを変えてしまったのかしらね……」
聞くに、堀田というプロデューサーは相当なやり手だったらしい。
その“変わってしまった”という意味には、ついさっき見たテレビでのことが含意されている。
つまり、龍爪寺ゴリ押しするとか、マジかよあんた……みたいな。
――だが、そんな中、俺は冷や汗が湧き出てくるのを止めるのに必死だった。
「……? どうかした、マスター? こっちのアイス、いる?」
「…………いや、大丈夫だ」
俺の様子にキョトンとしているリヴィルを他所に、心中頭を抱えたくなる思いで一杯だ。
何故かって?
だって、この映像の人……。
――リヴィルをスカウトして爆死した人やん!!
すいません、明日か明後日、どちらかはお休みするかもしれません。
感想の返しは昼ごろになるかと、多分!




