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102.こっわ! え、こっわ!

お待たせしました。

ではどうぞ!


『はぁぁ……良かった。本当に良かったよ、アズサが無事で』


 

 DD――ダンジョンディスプレイに映るシルレは心底安堵したというように胸を撫で下ろしていた。



『…………』



 ……いや、織部、心読むなよ。

 別にお前へ当て付けるための表現じゃないから。


“いいんです、無い者はもう奪われる悲しみを背負わなくていいから、実は無敵なんです……”とか、ちょっと意味が分からないこと呟かないで。




『……うん、心配かけてゴメンなさい。シルレとまた話せて、私も嬉しい』


 一方、ノートパソコンの画面に映るは先日連絡先を知ったばかりの少女――アズサだ。

“アズサ・ヨウカワ”が本名の彼女は、どうやらそれをもじって梓川(あずさがわ)(かなめ)と名乗っていたようだ。


 今、DDで織部を通じてシルレと。

 そしてノートパソコンでのチャット機能を使ってアズサと、それぞれ連絡を取っているわけだ。

 つまり鑑合わせみたいに画面を向き合わせて、それで二人の会話を成立させているということになる。




『……姉様は?』


 シルレとの再会自体にも、表情にあまり大きな変化が無かったアズサだが。

 こればかりは怒られるのを恐れる子供のように、その幼い顔を怯えさせて訊いていた。



『“カズサ”か? まだアズサの生存を知らないからな、何とも言えないが……』



 そう前置きしたうえで、シルレは笑って見せる。



『私達は近く、別の町へと向かう予定がある。そこにカズサが先行しているから、その時に話す機会があるだろうさ』


 

 確か魔族の治める町で、織部が今後、更に異世界で活動の幅を広げる意味もあったはずだ。



『……ん、分かった』


 

 簡単にそれだけ頷いて、彼女は自分の決意を短く述べる。

 


『私は……こっちで、頑張る。そっちの世界に、帰るまで』



 そう言えば、まだその話をしていなかったなと、皆が理解する。



「君は――」 


『――“アズサ”でいい。私も、ハルトって呼ぶ』



 そのことに言及しようと口を開くと、直ぐにDDの画面から音声が飛んでくる。

 ……何だろうね、この会話の端的さというか、必要最低限さというか。


 嫌われてるとかではないんだろうが、ちょっとこの言葉の距離感どうなの? 

 一気に来られるとビクッとなっちゃうからさ……まあ言わないけど。



「……その、アズサは、どうして、こっちの世界に?」



 この話題は、誰もが訊きたいと思っていたことだろう。

 シルレは勿論、織部なんかは特に、自分が異世界から戻る時の手段になるかもしれないのだから。



 誰かが唾を飲み込むような間なんかは特になく、アズサは何の躊躇いも見せずに答えた。



『――ダンジョンのせい。ダンジョンを攻略する寸前、目の前が真っ暗になった。起きたら、多分ダンジョンごと、こっちの世界にいた』




□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆



 織部達との通信はDPの消耗を考えて、必要最小限の話で区切り。

 後のアズサとのやり取りは俺たちだけですることになった。



「……まあ、こちらの世界で、しばらく頑張るという意気込みは分かった。だが……」



 先ほどの話だと、彼女が異世界(こきょう)へと戻る鍵はダンジョンだということになる。

 彼女が探索士グループで活動を続けていくということにも、ある程度納得できるところも無くはない。

 

 ただ――



「大丈夫なのか? その……今のままだと、男装を続けることになるんだぞ?」



 一番の懸念はそこだった。

 戦闘面・安全面については心配してない。

 

 何たって、単独でダンジョン攻略をして、その上特殊な装備も持っている。

 あのグループ内で一番腕が立つのは間違いなくこの子だろう。


 でも、だからと言って少女一人を男だけのグループ内に放置でいいのか。

 その倫理上の問題は一度は本人に聞いておかなければならない。


 だが、アズサの返答はやはりあっさりとしたもので。



『? 問題ない。え? どこかおかしいの?』


「…………」



 ううぅ……言ってることが伝わってないのか? 

  

 どういえば良いだろう……。



「えっと、無理、してないか? 周りが男だらけの中で活動していくことになるんだろ? 心細かったり、辛かったり、大丈夫か?」


 そもそも彼女が男装までしてアイドルグループに潜入した経緯が経緯だ。

 彼女がしたかったのは極論、俺や織部――つまり、自分と同じく最も早くダンジョン攻略を成し遂げた人物との協力関係の構築。


 そしてその可能性が一番高かった人物が、志木や逆井、更に立石や木田だ。


 そこでなぜシーク・ラヴの方ではなく、男子の方に潜り込むことになったかは……。


 ……まあ、本人の意思じゃなく、もっと裏で邪な考えを働かせた奴がいたんだろうさ。

 


『? うん、心細い』


「お、おう……」


 素直に頷いちゃったよ。


 何だろう、この子、気持ちを隠すとか、建前でかわすとかしないのかね。

 そういう所も幼いというか、何かこういう部分はルオに似てるな。



『――でも、ハルトがいてくれる』

 

「…………」


『元の世界に戻る協力もしてくれるって、言ってくれた。こっちの世界での活動、サポートしてくれるって、言ってくれた。それに、シルレにも……会わせてくれた』  



 ……何でこの部分だけ饒舌なんスかね。

 やめて欲しい、そう言うのは。


 

『勿論、その代わり私はハルトの望むことは何でもする。だから、遠慮なく言って欲しい』



 だから君、そう言うのは直球で言っちゃダメなんだって。

 いや、直球じゃなくても俺には言わないで欲しいんだけど。



「……なら遠慮なく言うが、今のは聞かなかったことにする。それと、ラティア――以前会った時にいた、一番エロそうな少女には気をつけろ」 


 

 そう言われて先ずは年相応に不服そうな表情をして。


 そして次に何を言われたのか良く分からないといったように首を傾げる。

 まあ分からないならそれはそれでいい。


  

 むしろ気を付けるべきは俺か……。


 

 ラティアの標的にならなければいいが……。




 





「ふぅぅ……」 


 アズサとの通話も終え、一息。

 一つ、肩の荷が下りたような感じで緊張も解れ……そうな時だった。



 ――メールが来た。



「うげっ……」



 この暗黒卿のテーマは!!




『椎名です。クリスマスの打ち上げの件、検討していただけましたか?』

  



 クッ、今度はこっちに気を回さねばならなくなった。

 ……いや、見てないフリ、行けるか?



「――って、うわっ!?」 


 また連続でメールが来た!?


 しかも同じ着信音!



『椎名です。メール、届いてますよね? 打ち上げ出席の件、早急に返事を頂けますか?』



「何なのこの人、え、どっか隠しカメラとかあんの!?」



 でんでんでーん~♪



 ちょ、まだ来る、え、また!?



 次々に着信音が初めから再生され、一種のホラー状況に陥る。

 こっわ、え、こっわ!



『椎名です。御嬢様が新海様の出席を大変楽しみにされております』


『椎名です。新海様が出席されないかもしれないと知り、御嬢様が大変落ち込み、表情を曇らせています』


『椎名です。出席しろこの野郎』


 

 いや、途中で本音出てる。

 何通も送りつけてるから、一通くらいならバレないとか思ってないかこの人。 



『椎名です。どうでしょう、クリスマス、出席していただければ特別のおもてなしも考えております』


『椎名です。逆井様や赤星様も、新海様が来てくださるのでしたら、特別の衣装で着飾ってもいいとおっしゃってくださっています』


『椎名です………………』


『椎名です…………』


『椎名です……』




「……寝よう」



 俺はそっと電源を切り、全てを投げ出して眠りについた。

 後は明日の俺が頑張ってくれるはずだ。

 

 暗黒卿の相手は任せたぞ、明日の俺よ……。

ラティアがアップを始めたようです……。



お休みを頂いて、ゆっくり体を休めることができました。

前々から進めたかった調べものもできて、後はもう書くだけの状態にまで持ってこれたので充実した休みになりました。


後、感想を頂いて、「ああ、そう言えば……」と自覚したのですが、100話をいつの間にか超えていたようですね。


それは偏に読者の皆さんのおかげです。

勿論日々、出来るだけ書き続けるという努力こそしているものの、それだけではやはり続きません。


皆さんに時には励ましていただき、そして時にはご指摘いただきながら続けてきた結果が、今に至るのだと思います。


本当にありがとうございました、これからもどうぞご声援・ご愛読いただきますようよろしくお願いします!


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― 新着の感想 ―
[一言] ラティアがまだアップ段階だった恐怖
[一言] > “いいんです、無い者はもう奪われる悲しみを背負わなくていいから、実は無敵なんです……”とか、ちょっと意味が分からないこと呟かないで。  背負うというより抱えるじゃないの? と言ったら多分…
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