101.それはいいけど……これは何なの!?
ちょっと予定がずれて、投稿を更新することにしました。
すいません、今後もまた不安定が続くと思います。
ではどうぞ。
灰グラスを装備し、そっと壁から離れる。
ようやく状況をこの目で把握した。
リヴィルが少し前に出るようにしてラティアと隣り合っている。
そしてその二人と向かい合うは幼さが抜けない容姿をしながらも、あまりの驚きに目を見開く“アズサ”。
横にあるロッカーから突如として出てきたシルレ――ルオの出現が余程衝撃的だったようだ。
「久しぶりだな――と言いたいところだが、悪いな、私はシルレ本人ではないんだ」
そんな彼女らのド真ん中に、俺は歩いていく。
誰一人として俺が割って入って行っても視線すら動かさない。
今その目を集めているのはルオなのだ。
「え……たし、かに、最後に、会ったの、かなり前……」
ぶつ切りにされた言葉で、その困惑を伝えてくる。
「ああ、いや、そうじゃない――」
混乱している彼女に真意を伝えるために、ルオが目の前で、シルレから自身へと再現し直す。
目の前で始まった事象に、アズサは驚きのあまり言葉が出ないようだった。
そして……。
黒い影の全身に、自らの姿を貼り終えたルオが立っていた。
「…………ドッペル?」
ほう……。
なるほど、知っているなら話は早い。
「うん! これがボクの本当の姿! シルレお姉さんにはお世話になったから、再現するストックにあるんだ!」
“シルレは一人で十分! だから本人は処分したがな!”みたいにルオのセリフを歪めて捉えられることはなく。
ちゃんとアズサはその言葉通り、ルオがシルレと知り合っているのだと理解したようだった。
しばらくその意味を噛みしめるように沈黙が降りる。
リヴィルのように、アズサは殆ど表情の変化がない。
それこそ驚いた時にそれと分かるくらいの程度で、それ以外だと顔面の筋肉が仕事してるのかってくらい動かなかった。
うん、あと一押しって感じかな――っと、そろそろ……。
俺が灰グラスを掛けて1分が経つ。
それは、他者が俺の存在を認識できるようになることを意味していて――
「――え? ……誰? いつから、そこに?」
丁度リヴィルとアズサの間に位置する場所に、俺がいきなり現れた形になる。
……まあ、ほぼ1分前からずっとこの場所でスタンバってましたけどね……。
ただルオ以上の驚きは無かったようで、少し眉を上げる程度だった。
良いっスよ……ちょっとでも驚いてくれれば。
「君が探していた物を持っている……それを今、実感したんじゃないか?」
そう言って、俺は顔からそのサングラスを外して、胸元辺りで振って見せる。
それは正に、彼女がテレビにて示した、灰色のサングラスそのものなのだ。
これで、凡そ見せるべき物は全部見せた。
こちらが、力を貸す・協力するに足る相手だと伝わればいいが……。
この子は俺や織部と同じくダンジョンを単独で攻略して。
そしてその恩恵――特殊なアイテムを保有しているのだ。
更に言えば、異世界の事情に通じていて、それでいてコチラの世界で独自の立ち位置を築いている。
協力し合うことができればお互い随分活動が楽になるはずだ。
「……うん、分かった、よろしく」
彼女は短く、それだけを告げた。
とても幼く聞こえながらも、芯の部分はしっかりとしたものを感じさせる、そんな声だった。
ふぅぅ……。
と、一息つく暇もなく――
「――すいません! 陽翔様、隠れてください!!」
突如開いた入口から皇さんが慌てた様子で駆けこんできた。
ウゲッ、まさか――
「まだ自主的にレッスンしてた子がいたようで、ここに向かっていると六花さんから連絡が――」
マズい!
ただでさえ部外者なんだ、まして男の俺がこのままここで、その子らと鉢合わせた日には……死あるのみ!!
と言っても社会的な死だがな!!
「このまま外に出てもバッタリ……あっ!」
時間がない中、ラティアがルオを見て、そして次にルオが隠れていたロッカーを見て目を見開いた。
「ご主人様、一時的に、ロッカー内に!!」
え!?
あっ、その手が!!
ああ、いや、でも――
「――マスター、いいから!」
「こっち!」
強引にリヴィルに手を引っ張られ、ルオが再び開けたロッカーへと押し込まれる。
い、痛い痛い!
とはいえ、背がある方の俺が入っても窮屈とまでは感じられないくらいだ。
やはり金持ちの企業はロッカーの一つにしても金の掛け方が違う。
「ご主人、閉めるよ!!――あっ、そうだ、君も一緒に隠れなきゃ!!」
ルオが閉める直前、アズサの存在に気づいて彼女もロッカーへと押し込んできた。
うわっ、ちょ、流石に二人は狭っ――
――バタンッ、ガチャ。
入口の扉と、ロッカーの扉の開閉はほぼ同時だった。
暗闇に包まれた瞬間、知らない少女の声がうっすらと外から聞こえてくる。
『えっ!? うわっ、他にも人がいたんだ、びっくりした……』
『って、いやいや! もっと驚くとこあるよ!! 皇律氷さんがいる!!』
『ほんとだ! あれっ!? 律氷さんって、ウチの事務所じゃなかったはず……ですよね?』
どうやら二人らしい少女らは、何かを疑っているというよりは有名人の皇さんに会えて興奮しているといった感じに聞こえた。
「…………んっ」
って、おい、ちょ、狭いんだから、その、あんまり身じろぎしないで。
腕が窮屈なのか、アズサはその細い腕をちょっとずつ動かすのだが……。
「おい……ちょ、動くな」
小声で頭上から囁くも、彼女は何とか俺との間に挟まった腕を引き抜こうとする。
それが、その……俺の大事な部分に擦れて、ちょっち、痛こそばゆいのだ。
こう密着してると、柑橘系の良い匂いがフワッと断続的に呼吸へと混じってくる。
男装してるくせして、やっぱり女の子なんだなと実感させられ……ちょっと色々ヤバい。
『えと、その、六花さんに、招待してもらって……その、こちらの方々と見学を』
『……どうも』
あまり話し過ぎてもマズいと思ったのか、ラティアが代表して、短く挨拶したようだ。
『うっはぁぁ、美人・美少女揃いですね~。やっぱり新興でも、勢いがある事務所は新人さんのレベルが段ちだ!』
『だねぇぇ。グラビアアイドルさんに、モデルさんに……美少女子役と見た!!』
『えと……当たらずとも遠からず、ですかね』
皇さんの答えもまあ分からなくはない。
多分ラティア、リヴィル、そしてルオのことをそのように評されたのだろうから。
「…………」
ちょっと体勢が疲れて来た。
同じ格好を続けるって結構しんどいな……。
あまり大きく動くと音がしてしまうので、少しだけ膝の位置を上げるにとどめる。
ああ、これだけで結構楽に……。
「……んぅぅ……ぁっ……」
おい、色っぽい声出すな。
え、当たった?
スマン、悪かった、もう動かないよ……。
「…………」
何だよ、何でちょっと物欲しそうな表情で上目遣いしてくんの?
さっき俺の姿を認識した時は全然表情変えなかった癖に。
『――あっ、二人とも! ゴメンなさいね、電気とか、後は私がやっておくから』
どうやら逸見さんが合流したらしい。
うぅぅ……早く終わらせてくれ。
『六花さん! え、でも良いですよ! 居残り練勝手にしてたワタシらが悪いんですし』
『いいのいいの。疲れてるでしょ? 早く帰って体を休めて、ね?』
『……分かりました。あの、六花さん! あっ、それに律氷さんも! シーク・ラヴ、応援してますから!!』
その明るい声の後、パパッと着替えを済ませたようで。
3分としないうちに、その少女らは室内を後にした。
…………ふぅぅぅ。
――カチャッ。
扉が開くと同時に、沢山の光が一気に入ってくる。
「……お疲れさまでした」
「……おう、お疲れ」
本当に心の底から疲れていたのだが。
最初に視界に入ったラティアはしかし、何だか嬉しそうにニコニコしている。
先にアズサを外に出して、その後少しよろけながら俺も外に。
「ウフフ……陽翔君、ゴメンなさいね、まさか居残って練習している子達がいたなんて」
逸見さん曰く、デビューが遅れていて、周りから取り残されたような疎外感・焦燥感を覚えていたらしい。
その少女らは少しでも上手くなろうと影でコッソリ、色んな階の部屋を借りては自主練に励んでいたと。
……いや、まあそもそも怒る気なんてないし、俺が怒るのも筋が違うし、良いんだけど。
だがこの疲労感は……何だかな。
ってか逸見さんも謝ってくれてはいるが、ラティア同様何だが楽しそうに微笑んで俺たちを見てるし。
うん……帰るか。
その後、アズサはDD――ダンジョンディスプレイを保有していないことが発覚。
一方スマホは持っていたので、連絡先を交換しておいた。
今日は流石に解散することになり、先程の件もあったので警戒しながらも事務所ビルを出たのだった。
これで異世界出身、しかも地球――更に日本の表舞台で活動する少女と協力関係を築けた。
だが、もうこんなのはしばらく懲り懲りだ……。
一日ずれて、次の日の更新をお休みするかと思います。
なので、感想のお返しも同時に一日ずれることになるかと……。
すいません、もう少し、もう少しお待ちを!!




