98.アカン……これはマズい奴や!!
ふぅ、出来た……。
ではどうぞ。
『撮影さ、無事に終わったよ! 終盤ちょっと一騒動あったけど、ダンジョンきっちり攻略したし!』
「そか、それはお疲れさん」
実際その場にいたのだが、素知らぬフリして画面越しに逆井を労った。
攻略のまだ翌日だというのに元気そう……って、そっか。
逆井自身は切り札的な扱いであんまり戦闘には参加してなかったな。
むしろ疲れているだろう人物は……。
『あはは……まあ、実際に今回のダンジョン攻略は疲れたよ』
「……逆井と違って、赤星は本当にクタクタそうだな」
俺の言葉に力なく笑って見せた赤星は、俺から見ても昨日一番働いていたように思えた。
テレビチャットの画面向こうで、ホテルの部屋にあるソファーに腰かけ、脚を投げ出すようにして寛いでいる。
相当疲れたんだろうな……。
『はぁ!? ちょ、それ酷くない!? アタシが何かサボタージュしてたっぽいじゃん!!』
『は、はは……リア、とうとう一周回って“サボる”の元の言葉使ってる』
「……それだけこいつは体力が有り余ってるんだろう」
若者言葉って、大体長いから端折るんだろうに。
逆井は若者の最先端を走るギャルっぽい見た目の癖して、何なんだろう、良く分からん。
『もう!! アタシだってほんと、頑張ったし! マジで!! ウルトラ!! スペシャルで!!』
「俺はお前の語彙レベルの落差が凄い謎なんだけど……」
『へぇぇ……じゃさじゃさ、この“DP”ってのがあれば、こっちから新海にずっと連絡取れるってこと? ギガ数みたいな感じ?』
話が移って、ダンジョン攻略によるDP獲得について聞かれていた。
「DPが残ってる限りはな……後、その例えが適切かどうかは分からん」
『でも、多分用途はこれだけじゃないんだよね』
辛そうな体を何とか起こして、思案気な顔をしながらも赤星はそう呟く。
まあ、以前やって見せたしな。
「ああ、だから、今回DPをゲットできたからと言ってホイホイ無用なことで連絡を取ってくるなよ? それ共用なんだろ?」
そう言って、俺は逆井が手に持っているDD――ダンジョンディスプレイへと視線をやった。
『うん、ま、今はアタシとハヤちゃんで預かってるんだけどね』
『とりあえず、緊急の用事があれば、携帯じゃなくても新海君と連絡が取れるのは有難いよ』
サラッと流すように二人とも話しているが、俺はそれを遮り、引っかかった疑問をぶつけてみる。
「あれ? 今度は二人で管理することになったのか? 今までは確か志木が持ってたように記憶してるんだが……」
それを聞いた途端、逆井も、そして赤星も。
何とも言えないというような苦い表情になる。
……え、何?
『その……彼女から一時的に頼まれたんだ。これの管理』
『そそ。……えっと、そ言えばさ……かおりんに訊かれたんだ。“あの日”のこと』
「“あの日”のこと?」
逆井が何だか大事めいたニュアンスで告げるので、思わずオウム返しにそう言ってしまう。
だがそれを冷やかすでもなく、二人は互いに顔を見合わせるだけ。
そしてまた赤星の言いたいことをも代理するように、逆井が口を開いた。
『そのさ、アタシ達が新海に初めて助けてもらった、あの蟻ん子のダンジョン、あるじゃん? あの日のこと』
□◆□◆ □◆□◆ □◆□◆
「え――」
『あっ、いや、勿論誤魔化したよ!? いくらもう新海やラティアちゃんの存在を知ってるからって、あの日のことは流石に言わない方が良いんでしょ? かおりんに』
逆井が慌ててそう付け加えたのだが、俺は直ぐには答えず考える。
そうか、志木もとうとう何かを勘づいたか……。
「……まあ、知っている人は少ないに越したことはないが……」
でも、もう赤星には既にバレてるしな……。
志木はもうラティア達とも顔見知ってるし、俺の能力も幾らか見せてある。
別にバレても……。
『――って言うか、志木さん凄い剣幕だったよね……。“あの日、もしかして彼もあの場にいたんじゃないの!?”って』
ヒィッ!?
『ああ、それそれ! かおりん、あんな表情するんだって感じでアタシらに詰め寄って来たもんね……“逆井さんだけあの時、起きてたわよね!! 実は彼がいて、その現場を見てるんじゃないかしら!?”とか言われてさ……』
ヒィェッ!?
『何かもう、いつものあの冷静な様子とは全然違っててさ、志木さん……“そうよ、いたのよ、いたんだわ、いたに違いないのよ……”って、言葉も定まらない感じで……』
ヒョェェェ!?
ヤバいヤバいヤバい……。
そんな普段の白かおりんだけでなく、黒かおりんをも限界突破してしまう程におかんむりなの!?
黙ってたこと、そこまで怒ることなんッスか!?
今までいい距離を保ってたはずなんだが、ここに来て隠れていた地雷が爆発したっぽいぞ!
これは……バラしたらマズいことになる!!
ただでさえ普段から呆れた視線を送られることが多いのに、下手したら椎名さん並みに凍える視線を送られることになるかも!!
『――まあ、でもかおりんだし、意外に大丈夫かもよ? バラしても――』
「バラすな!! 何があっても死守だ!!」
必死さが凄かった。
俺のあまりの勢いに逆井と赤星が若干引いてるっぽいけれども。
引かれるくらいどうってことない。
こっちは命の危険すらありうるのだからな!!
懇切丁寧に話してはいけない、特に志木には絶対だということを伝えて。
二人はようやく頷いてくれた。
『えっと、うん、わかったよ新海君』
赤星は理解力があっていい奴だな、うん!
『アタシも、うん、黙ってるよ』
逆井もキチンと分かってくれたみたいだ。
『でさでさ、話変わるけど――もう12月じゃん? で、クリスマスとかにさ、ちょっとした打ち上げでもやんないってことになってさ、ね? ハヤちゃん』
『え? ああっと、うん』
『あの親子ダンジョンの打ち上げもまだだったじゃん? それで、どう? 新海もさ、ラティアちゃん達も皆で――』
「ああ、うん、行けたら行くわ」
『それ絶対来ない奴だし!?』
どうせこういうのはあれだ、社交辞令的なお誘いだ。
ってかむしろマジのお誘いの方が怖い。
だってその打ち上げって、女子しかいないんだろ?
俺、行っても邪魔にしかなんねぇじゃん。
それで逆井は優しい奴だろうから、気使って多分話しかけてくれるんだろうさ。
それに対して俺が愛想笑い浮かべて気まずく肩身狭い思いするところまでもう見えてる。
だから、どちらだろうとここは上手く断っておくのが最善手なんだよ。
「大丈夫、ラティア達にはちゃんと訊いとくから。女子だけでパーティー楽しんでくれ」
『うーん……新海君が来てくれれば、喜ぶ人もいるだろうけど』
いたとしても少数派だろう、そんなの。
だから折角フォローしてくれているだろう赤星にも申し訳ないが、その話はうやむやにしておいた。
ってかそうじゃん、行ったら志木と顔合わせることになるし。
わざわざ志木の手の届く範囲に自ら入って死期を早めることもない。
うん、上手い!!
その後、納得いかなそうな二人を上手くかわし。
いくつか事務的な話をしてチャットを終わった。
一応ダンジョン物であって、勘違い物ではないんですが、偶にはこういう感じのも入れてみたり。




