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37話 ニンフの里

 僕達は、滝の向こうの道を歩いて進んだ。


「不思議だね……こっちは雪が降ってない」

「気温もなんか高くないか?」


 ずぼっと濡れた手袋を外しながらアルヴィーが言った。


「私、上空から様子を見てみましょうか」

「ああイルム頼む」


 アルヴィーの召喚獣、フクロウのイルムが羽ばたいて上から偵察をしようとした。しかしイルムはある程度の高さまで飛ぶと、止まってしまった。


「どうした! イルム!?」

「主! 申し訳ありません。なんらかの魔法が施されています!」

「いい、十分だ。戻っておいで!」


 イルムはちょっとしょんぼりとしながらアルヴィーの元に戻ってきた。


「どうしようね、里があるのか確かめたかったのに」

「いいや、フィル。里はこの先に確実にある。じゃなきゃこんなに防備を固めたりしない」

「そっか」

「だから、こっちも用心して行くぞ! 霊よ、神の名の下に我の前に顕現せよ、風の盾!」


 アルヴィーが魔法の盾を出現させた瞬間、何本かの矢が飛んできた。


「やっぱね! このまま進むぞ。マレアは俺のそばから離れないで」

「はっ、はい」

「フィルは私のそばにいてくださいね」

「うん」


 僕はマギネをしっかりと抱えて、レイさんと一緒に進んだ。そうして進んでいると、頭上から声がした。


「そこの一行、待て!」


 見上げると木の上に女性が何人かいた。マレアと同じような宝石の様な髪をしている。


「何しに来た。子供と女ばかりで」


 木の上から一人の女性が降りてきて、僕達に問いかけた。


「あの、この子の……暮らせるところを探しに来たんです。その、悪さをしに来た訳じゃ」

「……? この子は……」

「多分、ニンフの血が入っていると思うんですけど……」

「確かに……見た目はそうだな。いいだろう。村に来るといい。私は里長のシプレー」

「ありがとうございます。僕はフィル。この子はマレアといいます」


 こうして僕達はニンフの里に入れて貰える事になった。


「おーい、里長。いい男はいたか」


 里のニンフはそう言って僕等を見て明らかにがっかりした顔をした。


「なーんだ。男はたった一人かー。まあいいこっち来なよ」

「……? 俺か?」

「行ってていいよ、名無し」

「え? え?」


 他のニンフが名無しに群がっている間に、僕達は里長のシプレーと話をする事にした。


「さ、坊ちゃん嬢ちゃんにはこの白樺のジュースをどうぞ。こっちの……何かの精霊さんは酒はいけるかい?」

「はい、私はドラゴンですから」

「ドラゴンとは恐れ入った。ではこの蒸留酒をどうぞ」


 僕達は出された白樺のジュースとやらを怖々飲んだ。すっきりとした甘みがあって美味しい。


「美味しい!」


 マレアは今までなかったかのような笑顔を浮かべた。一方、レイさんは進められた蒸留酒をパカッと飲み干した。


「うーん。私はワインの方が好きです」

「そうか、木イチゴのワインがあるからそれを飲みな。ところで……マレア」

「はっ、はい」

「あんたの母親がニンフだったのかい?」

「いいえ」


 シプレーはまじまじとマレアの髪や耳を見た。こうしてみると、二人はまるで姉妹の様に似ている。


「普通、ニンフは男と交わって女が生まれた時だけ子供と一緒に里に戻る掟なんだ」

「両親とも普通の人間でした……私がこんな見た目になったせいで肩身の狭い思いをしてました」


 マレアは両親の事を思い出したのか、また悲しそうな顔をして俯いた。だから代わりに僕が説明をすることにした。


「マレアは見た目のせいで村を追い出されて森で狼に食べられそうになっている所を助けたんです」

「そうかい……私達の中には街で生活するやつも居るんだけどね」

「田舎の村だからかな……とにかく、マレアが暮らしていける所を探して」

「ここに行き着いた、って事だね」


 僕はこくりと頷いた。


「うちはいいよ。マレア、あんた。うちの子になりな」

「ほ、本当ですか?」

「ああ。でも家事とか畑仕事はちゃんと手伝って貰うよ?」

「ええ!」


 マレアが頷いたのをシプレーは見届けると、自分のグラスを掲げた。


「それじゃあ、新しい家族が増えた祝いと旅人の慰労を兼ねて宴と行こう!」


 しばらく待って居てくれ、と言い残して里長のシプレーは天幕を出た。


「良かったね、マレア」

「はい、皆さんのおかげです。ご親切にありがとうございました」

「いいんだよ」

「フィルはお人好しな所が良いところなんですよ」

「レイさん……もうちょっと言い方ってもんが……」


 僕達がそう話していると、天幕野入り口がバサッと開かれた。


「さあ、お客人。表で宴を催すからおいで」

「あっ、はい!」


 僕達が天幕から出ると、里の広場にたき火がたかれていた。


「あー! お前達どこいってたんだよー」


 そしてちょっとよれよれになった名無しが僕達を見て駆け寄って来た。


「もてもてじゃん、名無し」

「このくそアルヴィー! 俺はレイさんがいいの!」

「さあ、客人の席はここだよ」


 僕達は敷物やクッションであつらえた席に座らされた。そして飲み物や食べ物が運ばれてきた。


「さぁ、ニンフの里は良いところだぞ」


 シプレーはそう言ってにっこりと笑った。


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