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16話 飛竜の仔

「あー、一面の緑……」

「フィル様お水をどうぞ」


 僕はぐったりと荷台のてすりにもたれながら込み上がる吐き気と戦っていた。レタが持って来てくれた水をごくりと飲むとちょっとマシな気分になったような。


「馬車の中で本を広げたらそりゃ酔ってしまいますよ」

「知らなかったんだよ……」


 発端は魔除けだというフローラがくれたネックレスっだった。緑のエナメルでコーティングされた部分にある魔方陣を読み解こうとして参考に本を広げたら目がぐるんぐるんしてしまったのだ。


「……でもこれがなんだかわかったぞ」

「なんなんですか?」

「弱い魔物の類いを追い払う文様だね。これつけて街道の真ん中で寝たりしない限り効果は無さそうだけど」


 ま、ちょっとしたおもちゃみたいなものだ。僕はそれを身につけた。


「効果はそんなにないのでは?」

「うんでもせっかく貰ったものだし」


 フローラが旅の無事を祈ってくれたものだから、この旅が終わるまではつけていよう、と僕は思った。


「少し休憩にしましょうか!」

「はい、レイさん」


 ちょうど大きな川が見えてきたので、僕達は休憩をとる事にした。うーん、馬車でガタゴトゆられていると結構疲れるんだよね。僕は馬車を降りてうーんと伸びをした。


「レタ、お茶をいれて頂戴」

「はい分かりました」


 シオンとレタは姉妹のように仲がいいけど、そこにはれっきとした主従関係があった。僕とレイさんは……一応レイさんが従のはずだけど、言う事聞かない事も多いもんなぁ。


「あのオウマの町長、いいワインをもたせてくれました」


 レイさんはお茶の代わりに僕のあげたカップでワインを飲んでいる。


「ベリーの香りに酸味が抜けた後にいい感じの渋みがおいしいです」

「ふーん、僕にはよく分かんないや」


 僕はさっきの眩暈がまだ残っているので木の下に横になった。


「それにしても沢山もたしてくれたね」

「そうですねフィル様(・・・)の収納魔法がなければ大変でした」

「はは……」


 もちろん収納魔法を使ったのはレイさんだ。おかげでサイレーム公国まで行って帰っても大丈夫なくらい食料はあった。あとは時々水を補給すれば大丈夫だ。


「フィル様!」

「どうしたんだいレタ」

「はっかのお茶を淹れました。きっと気分が良くなるだろうから飲んで下さい」

「ありがとう」


 僕はレタから受け取ったカップのお茶を飲んだ。ああスッとする。……そういえばシオンはどうした?


「レタ、シオンは?」

「あれ、あんな所でなにをしているんでしょう……」


 シオンはちょっと離れた所でしゃがみ込んでいた。僕とレタが駆け寄るとシオンは涙目になっていた。


「どうしましょう……マギネにヒビが入ってしまいました」

「え……?」


 僕が覗き混むと、確かに赤い殻にヒビが入っている。


「こんな所でお別れなんて……」


 シオンがしくしく泣き始めた所にレイさんがやってきた。


「シオン、心配しなくていいですよ。それは孵化です」

「……孵……化?」

「ええ、貴方のワイバーンが生まれようとしているのです」


 僕とレタは顔を見合わせた。いつかは生まれるだろうと思ったけどこんな所で。


「ゆっくり殻を破るから焦らないでください」

「はい」


 レイさんの言葉通り、そのワイバーンの卵が破れたのは三日の後だった。


「ぴいー!」

「マギネ!」


 シオンが名前を呼ぶと、まだトカゲサイズのワイバーンがシオンの膝にのった。


「ずっとこの日を夢見てたの……仲良くしましょうね」

「ぴい」


 シオンはマギネを撫でた。その横で僕はワイバーンの観察をしている。


「ふんふん、ドラゴンと違って羽根に爪がついているのか」


 ノートにそれらを書き留めながら、レイさんのドラゴン姿もスケッチしたかったなとちょっと思った。


「旅の仲間ですから、私からご祝儀を出しましょう」

「……?」


 レイさんは急にそんな事を言って、マギネの額に指を当てた。柔らかい光がマギネを包み、そして消えた。


「レイさん、なにをしたんです?」

「すぐに分かります」

「……シオン」

「わっ、マギネが喋りました!」


 さっきまでぴいぴい言っていたマギネがシオンの名を呼んだ。


「シオン、すき」

「まぁ私もマギネの事が好きですよ」

「レタ」

「私の事も覚えているのね。良い子」


 マギネはキョロキョロとあたりを見渡して、レイさんを見つけるとトコトコと歩いて行った。


「我が眷属ワイバーンの子よ。この世界にようこそ」


 レイさんはマギネにそう挨拶した。マギネが首を傾げている。ちょっと難しかったかな?


「……まんま」

「ん?」

「まんま、しゅき」


 マギネはレイさんの足に縋り付き、尻尾を振っている。


「なっ、私はママではないぞ」

「まんま、シオンしゅき!」


 小さな飛竜に慌てているレイさんを見て僕は吹きだした。


「こらフィル、笑ったな?」

「いやいや笑ってませんて」

「ほーら、これはフィル。パパですよー?」

「ぱっぱ……?」

「ちょっと、適当な事を教えないで下さい!」


 後ろから駆けてきたシオンが奪い返すようにしてマギネを抱きかかえた。


「……ごめん」

「すまなかった」


 僕とレイさんは軽く反省した。


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