第4部 ロックバンドと自己嫌悪
再び曲を作ろうとしたところで、コードを握る手がすくんだ。
ため息をつく。
俺は何の為に音楽をやっているんだろう。
誰の役にも立たない。
エンターテインメント性に富んだ音楽であれば、
ファンは楽しみ、その為に仕事を頑張ろう、とか思うだろう。
鬱の人しか聞かないような暗い音楽であれば、
万人受けはしないが、彼らが生きる為の薬になるだろう。
少なくとも俺はそんな音楽は聞きたくないが。
比べて、自分の音楽はエモーショナルロックと呼ばれる部類。
新宿や下北沢に溢れ返っているインディーズバンドと何ら変わりはない。
どうしたら売れるのか。
かと言って、集客0とかいうレベルの売れなさではない。
きっと、このままじゃ停滞する。
音楽性を変えるか。あるいは、バンドを解散するか。
大卒フリーターの馬鹿な頭には、この2択しか出てこなかった。
もう寝よう。夜はどうもネガティブになる。
そういえば、大学で脳科学を学んだ。
と言っても齧っただけだが、教授が言っていたことをふと思い出した。
『セロトニン、俗に言う幸せホルモンは、日光を浴びることで分泌、活性化されます。』
幸せホルモンか。日光浴で幸せになれるなら、世の中困ってる人なんかいねぇよ。
……つまんね。人生変わんねえかな。
そう思いながら眠りについた。
朝10時。iPhoneのバイブで目が覚める。
"まあちゃん"からの返信だった。
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雨宮康太さん
はじめまして!メールありがとうございます!
まあちゃん と言います。
12月6日、良いですよ〜
その日の夜は私も空いてます!
バンド!カッコイイですね!
なんというバンドですか?YouTubeとかで曲聞いてみたいです!
条件ですが、無しも可です。
料金については、当日相談して決めたいです!
よろしくお願いします!
まあちゃん
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"まあちゃん"。
それまで寝ていた為、一瞬
誰だ、こいつ……
と思った。
だがすぐに分かった。俺が買う女だ。
寝起きから気分が悪い。
自分という人間の汚さに吐き気がしてくる。
俺は女が好きだ、と言えるだろうか。
抱かずとも、抜けばいいはずだ。
その分のお金が浮く。
そのお金はバンドに注ぎ込み、良い機材でCDが作れる。
新宿歌舞伎町のラブホ街は、あまり好きになれない。
近くのホストクラブを通る度に、
コイツらも上下関係が厳しい中で夜中に頑張っているんだろうな
と思ったら、自分の無力さにいたたまれなくなるからだ。
だから、ちゃんと最後にしよう。
"まあちゃん"と一夜を共にしたら、歌舞伎町のラブホ街とはオサラバだ。
次に来る時には、彼女と。