また、明日、
青いまま枯れていく、と言う切ない曲を聞いて、あー青春!切ない!みたいな。
放課後の廊下を歩いていく。廊下の窓越しにかすかに部活の音が聞こえるが、廊下はしんとしている。
誰も教室に残っていないのだろう。
キュッキュッと、自分の内履きの音だけが廊下に響く。
赤い夕焼けが廊下を照らしている。
目的の教室の扉をガラッと横に開く。
「あれ!?」
誰もいないと思っていた教室の真ん中、一人の女子生徒が席に座り読書をしている。
下を向いていた視線が自分に向けられる。
「東雲、まだ残ってたのか?」
「あー、ちょっとだけ読むつもりが夢中になってた。七井君は?」
「俺は忘れ物だなー。ノート忘れた」
窓際の一番後ろの自分の席に座り、机の中を探す。
「あー、あったあった」
明日の数学の小テストの予習に必要だったのだ。
「東雲帰んないの?」
立ち上がり、東雲の後ろ姿に声を掛ける。
東雲のきれいな黒髪は、夕陽に照らされ赤く光っている。
「うん、もう帰るよ」
東雲は読んでいた本や、机の中の物を鞄にしまう。
「なら、また明日」
と、東雲が俺を振り返り、
笑った。
東雲の白い頬が夕焼けに染まる。
その笑顔を見て、いつも心の中で呟いていた。
「好きだ」
心の呟きを、思わず口に出してしまい、自分も東雲も固まった。だが、東雲は破顔した。
「私も、好き」
東雲の顔が真っ赤なのは、夕焼けのせいなのか。
多分、自分も真っ赤なんだろうけど。
夕焼けに染まった教室と、あの時の東雲の姿を何度も思い返す。
あの時の君を攫ってどこかに隠してしまえたなら。
大人になった自分なら、きっとそうしたはずなのに。
『君以外いらないよ』
と、抱きしめて今なら恥ずかしくなく言えたのに。
『また、明日、』
何度も何度も君の言葉を思い返す度に。
君がいるはずだった明日を、俺は狂おしく、思い続けている。
彼女は死んだのか、消えたのか、雰囲気で。