悠久の中で
気が遠くなりそうなほどの昔、殆どの神々は二つの勢力に別れて対立した。その対立もまた、気が遠くなるほど続いていた。
対立の理由も気の遠くなる歴史の中で消えていった。
それなのに、対立し続けるのは互いに引き返すことが出来ないからだ。
理由を失った争いのための争いはいつまでも絶えず、悲しみのための憎しみもまた消えることなく永久に受け継がれた。
永い間の均衡した戦力に勝利も敗北もなかったのだ。それでも神々は争いを止めなかった。それに巻き込まれ続けた地で暮らす人間達もまた疲弊していた。
しかし、その均衡した状況に終止符が打たれる時が来た。不毛で醜い争いに嫌気が差し、平和を夢見た一人の若き神が、今まで神が戦力とも見ず失敗作として見下し続けた人間の可能性を信じた。
若き神は一つの禁忌を犯し、自身の持つ全ての力を選ばれし者に授けた。
選ばれし者は、若き神が見込んだ想像以上の力となって醜い争いを続ける全ての神々に鉄槌を下した。
その時均衡していた二つの勢力のバランスは崩壊し、一つの勢力は天へと逃げ、もう一つの勢力は地の奥底へと逃げた。
永きに渡り続いた不毛で醜い争いは終わりを告げた。理由もなく命を失い、理由もなく何かを奪う、そんな争いは終わったのだ。
それで平穏が訪れたかと言うと、残念ながらそうはならなかった。
禁忌を犯した若き神は力を失っただけでなく、かつて付いていた勢力にまで追われる立場となった。そして、人知れずその勢力の刺客によって命を奪われた――――ことになっている。
神々の争いを終わらせた選ばれし者は、人間達の間で英雄となり、神々の間で悪とされた。地で英雄とされた選ばれし者は望む物を全て与えようと、人間達の長に言われた。
英雄は悩んだ。一体、自分は何を望んでいるのだろうと。すると、そこに現れたのは、どちらの勢力にも付かずただ傍観していた悪戯好きの一人の幼き女神。
幼き女神は悪戯をした。深い深い呪いを英雄に与えたのだ。それは、全ての人間が抱える大罪を力にして増幅させた物だ。
英雄にそれだけの呪いを跳ね返す力は既になく、大罪は英雄に圧し掛かった。
気付けば人間にも神にも悪という烙印を押され、英雄は英雄でなくなった。悲しみと苦しみと憎しみの狭間、遂にかつての英雄は完全に大罪に呑み込まれた。
幼き女神は更なる悪戯をした。その大罪すべてに解放されるその日まで、その姿のまま永遠に生き彷徨い続ける呪い。
苦しむ元英雄など人々は気にも留めず、極悪人を倒すための英雄を募った。神々はその元英雄のことなど既に忘れて、またも争いを起こそうと企んでいた。
結局、何も変わらなかった。かつての若き一人の神の願いは、行いは、時間は報われることなく、また気の遠くなるほどの時間、争いは巻き起こる。