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終わりの会で、先生が暗く険しい表情で今日一日の惨事とその経過を振り返った。まず、体育館の鍵が何者かに施錠された状態で紛失した事件を説明された。このため僕らの学年の合宿説明会の体育館での授業が、遅れてたらしい。その後授業中の校舎を騒がしく移動し、他生徒教員に迷惑かけたことも、看過しがたい事件として告発された。その後の喧嘩については、あまり詳しく説明をせず、ただそれによって、次の将棋倒し事故が起きたことを、その事故の重大な危険性について、重きを置いた説明をした。
先生は自分たちの責任を認めたうえで、生徒自らが一人一人周りをよく見て、適切な行動をとるように心がけていれば、こんなことにはならなかった、という主張をした。そして、その主張をさらに推し進めて、周りに流されずに自分の状況をよく見て、行動すること、これがみんなできていれば、大抵の危険は回避できる、そういうことを僕らに言い聞かせた。
「悪い流れってものが世の中本当にがあるんですね。そういうものを、しっかり見定めて、それを回避すること。しかもみんながそれをする必要があるんです。今後は気をひきしめて、もう二度とこんなことがないように」
教室 放課後
僕は先生の話を思い出していた。先生の言うことはもっともだ、この先生なかなか霊感があるのかもしれないぞ、と思っていた。
「ふー、ようやく終わったわね。たっぷり30分話してたわよ先生。B組と階段で倒れたや奴らのクラスのE組はまーだ説教してるようだけど。教員同士でなんか説教時間でも競ってるのかしらね」
矢橋がやってきた。たしかにその二組以外の四組のなかで一番ながく説教がつづいたのはうちのクラスらしかった。
「でもさ矢橋、先生の言ってたことって本当の事だろう?」
彼女はあっさりと答えた。
「観点による」
そうこう話していると、弓削がにこにこやってきた。
「おいおい、なんだよ俺も仲間に入れてくれよ」
「ああ、弓削君に言っておくね」
「ん?」
「黒場君は私の助手になったから」
「えっ!」
弓削が目を丸くして僕を見る。
「矢橋が学校のために頑張ってるのに、僕が何もしないわけにはいかないとおもってね…」
「そうかそうか」
「今回の悪霊はアリスって名前のこの学校の生徒だった人で、それでたまたま同じ名前の黒場君にとりついていた。なにかそいつについて分かる?」
「ああ、分かるぜ」
弓削は得意げに言った。だけど弓削は訳知り顔で話し始めるなんてことはせずに言う。
「それについては調べればすぐ出てくることだから、俺が教えるほどでもないな」
「OK、わかった。じゃあ黒場君さようなら」
「ちょっと、その悪霊が僕を狙ってるんだぞ」
そこで弓削が口をはさむ。
「悪霊じゃなくなってるかもな」
「えっどういうこと」
「学校から出て行ったのなら、攻撃を受けて別の性質の霊になったからかも」
「そんなことあるのか」
「悪霊の一部分の性質だけが滅ばされずに残ったなら、そうなる」
「まった、黒場君が誤解する。あのね、そもそも悪霊とか、霊とかまたは守護霊とか、そういう区別は私たち生きている人間から見て勝手に区別してるだけで、いてもらいたくない霊を悪霊って言ってるだけ。私たち霊能力を持った人間も、私たちが普段あてにしている価値観を超えたところで、霊的な善性悪性を計る基準なんて全くもってないからね」
僕は思わす考え込んでしまう、アリスの事、悪魔の事。
「黒場君もし、今言ったことと反対のこと言うやつがいたら、そいつのこと絶対に信用しちゃいけないから」
彼女は強いまなざしで僕をみつめ、警告するように言う。僕も重く受け止めた。
「わかった。でもその子の霊は僕に悪さする可能性が高いんだろ」
「もうそいつほとんど力がないから平気でしょ、気分がおかしくなったら、連絡してすぐいくから」
「わかった」
ぼくはしぶしぶ了承する。また、寄せ餌にされるのか…
「一度悪霊の攻撃を経験したなら、けっこう耐えられるさ。原因がわかっていると気が楽だし」
弓削は僕を気の毒そうな目で見ながら、はげますように言った。
廊下 放課後
一度別れた後弓削がまたやってきた。
「矢橋の助手のことだけどさ、おまえ内田の妹さんのことはどうするんだよ?」
「これから、それを言いにいくさ」
本当は昼休み中に言うつもりだったが、いろいろとあって話をせずじまいになってしまった。たしかにユレさんは矢橋のことは好きじゃないようだし、どういう反応かちょっと予想がつかない。
しかしまぁ、学校のためという大義が一応あるので、納得してもらえるだろう。
それに僕ができる範囲という条件だし、怪しい、と思った話なら断ればいい。
弓削は両手を組んで頭の後ろに置き、なにやら思案した様子の後、僕に言った。
「今から会うのなら、俺も一緒に行っていいかな」
「いいと思うけど」
喫茶店
「なんでそれを今言うのですか?」
怒られた。
弓削はわれ関せずといった表情でとなりで紅茶をすする。
「ごめん」
「別に、そのへんはご自由にすればいいでしょう」
言葉はふつうだが、怒気が隠れてなかった。うすうす気づいてたけど、彼女はそうとう怒りんぼうな気がする。兄の方は、まるで感情が読めない奴なのに…
「まあまあ内田さん、今回は矢橋と黒場が手早く処理してくれて、俺は助かったと思ったね」
「それは、そうですが」
「内田さんは、霊の悪魔に集中したらいいと思いますよ。学校の方の霊害は矢橋が辣腕をふるって対処するでしょう」
「あの人のやり方、つまりその場その場での対症療法では、いつまでたってもあの学校はよくならないと思いますね」
「あいつは、あのやり方しかしないだろうな」
「この学校に通う人の長期的な幸福を考えるなら、ああいうのはいけません。あとで本人にとは限りませんが、しっぺ返しが来るでしょう」
「ユレさんなら、学校をもとにもどせるの?」
「……まぁ、私に任せるならやってみせます」
ユレさんの声に力がなかった。どうも彼女自身あまり自信がないように見えた。
「でもユレさん、やっぱり悪魔の方を倒さないと、結局このあたりの霊場は安定しないって言ってましたよね。」
「そうです」
「それじゃあ、どっちが優先か答えはでてるじゃないですか」
「そうですね」
そう言う彼女のイライラが伝わってきた。
「矢橋に学校は任せましょう。僕も手伝いますし、何をどうしたのかはユレさんに全部報告しますよ。矢橋が学校のために除霊するなら報告してまずいわけがありませんから」
「それでいいじゃないか、悪魔の方に関係する情報も手に入るかもな」
という感じで、弓削の擁護射撃もきまり、ユレさんは目をとじて、怒りもしずまったようで、場の空気もよくなった気がした。僕は一安心してコーヒーを手に取る。
「それじゃあ、黒場さんは私に協力する話はどうするんですか?」
ユレさんは無表情にテーブルに視線を落としそうポツリと言った。
「やる気ありますよ。なんでも言ってくださいよ。だから心配いりませんよ」
ユレさんは、ばっと顔上げて答えた。
「べつに心配なんてしてませんが」
「ああそう」
どうやら、一言よけいだったみたいだ。




