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在る 覚める 死ぬ  作者: 水都
第三章
20/24

1

朝起きると、部屋はすっかり冷気に満たされていた。起き掛けの自分の手は青白く、かじかんでいる。学校に行く準備をする。部屋に物すべてがひんやりしていて、いつもより無愛想に思われた、また同時に自分を含め存在すべてが、等しく冬の冷気を受けて様相をかえることに気づき、深い親しみを覚える。

気づくとあいつが来ていて、ベッドに座っていた。


「やあ、おはよう。今日は寒いね。外で待っているから」


白い息を吐きながら、あいつと並んで登校する。


「朝食は食べたのか?」

「たべてないな」

「よくないな」


いまだシャキッとしない頭をさげて、地面を見ながら歩き続けた。となりにいるあいつは対照に快活そうに歩く、ときおり目をつぶって満足そうに顔をほころばせる。


学校

矢橋と弓削と内田が欠席している、他のクラスメートは誰も気にしてないように思えた。みんなやっぱり本当は人がいなくなって悲しいだなんて嘘なのだろうか?悲しそうにするという、たしなみがあるだけなのか……


「こらこら、暗そうにしちゃあ駄目だよ」

「暗い?べつにそんなつもりは……」

「あの三人がいない教室だなんて感涙ものだなあ。いじめられっこが、今日もいじめられに学校に行くのか、と暗い気持ちで登校して、教室を開けたら、なんと自分をいじめてた連中が全員事故で死んでた、みたいな、そんなようなとても良い気持ちだぁ」

「事故で死んだんじゃなくて、君がやったんだろう。いじめられっこが復讐して、いじめっ子を殺したんだ」

「そっちのほうがもっと感動的で良い話だなぁ」

「うーん、世間じゃそうは言わないだろうな」

「言わないだけで、知っている人は知っているさ。そういう良さをね。ただそんなこといっても自分の評判を落とすだけだから、みんな言わない」

「まあ、いじめられっこにとって、この場合君にとって、良いことが起きたのは疑いようがない。でもたしかに、そういう良さすら否定しそうなやつは身近にたくさんいるな」


昼休み

「アリスちょっと学校をふけよう」

「え、面倒だよ」

「大丈夫、面倒なことは無い、飛んでいくからな。私につかまって」


僕は飛ぶというので、彼女の背後に回り背中から腰につかまった。お互いすこし沈黙する。彼女は振り向いて言った。


「いや、手をつかんでいれば大丈夫だから」

「ああ、そうなのか」


僕は手をつかむ、彼女はよし、と言うと黒い羽が肩から現れ、僕らは大空に飛び上がった。冷たい風が容赦なく吹き荒れるなか、空からの景色に目を放つ。あらゆる日常の些事から解放され、穢れた建物たちを置き去りにする。道が見える。人の動きを規定し正当化する権威が見える。彼らのシステムから切り捨てられた人たちの想いが今僕に翼を与えているのだ。僕は清廉な高所の空気に触れ、心から感動し、活力を取りもした。


8階建てぐらいのマンションの屋上に着陸した。その屋上には住民の子供用の浅く狭いプールとシャワーが設置されていた。プールの水は汚れ、枯葉が水面にびっしり引きつめられ浮いていた。


「こんな高いところまで枯葉は舞い上がってくるのか……、驚いたな」

「寒かったんじゃない?」

「いや、いい風だった」

「ちょっと待ってろ」


そういって、彼女は人の形から黒い渦のようなものになり、風にさらわれて消えて行った。僕は言われた通り、プールの縁に座って待った。


「ほら、暖かい飲み物」


黙って受けとって、口に付ける。チョコもあるよ、といって彼女は手渡そうとしたが、断った。僕はすっかり目が覚め、屋上のフェンスに近づき、辺りをぐるりと見渡したあと、振り返って彼女に行った。


「これは、悪くないね」

「そうでしょ」


轟々と音を立てて吹く風に乱される長く黒い髪を抑えながら、彼女は笑った。


僕らは昼休みが終わる前に学校の屋上に着陸した。彼女はなにかに気付いた。


「もしかしたら、明日誰か死ぬかも」

「この学校の奴か?」


彼女は静かにうなずいた。


「今そんな気がした」


変わったやつ、苦しんでるやつ、おちぶれたやつ、まけたやつ、できそこないなやつ、色々な人がここにいて、無視され続けている。きっと死んでも気づかれないだろう、その人固有の問題には。いつだって、みんな取り違えられてきた。そんな奴いてはいけないから、いないことにされている人々……



放課後

隣駅のゲームセンターに向かっていた。目当てのゲームはずいぶんとやってなかったので、駅の待ち時間、頭の中でステージの敵配置を思い出すことに努めた。


「どうもだめだ。仕方ない動画の出番だ」


スマホを取出しゲームのプレイ動画を再生する。すると、沈殿していた記憶が徐々によみがえってきて、すこしたつと動画の展開を先読みすることまでできた。自身の熟練が実感となって感じられ、うれしくなり、ゲーセンに早く行きたいと気持ちが逸る。


電車は時間に遅れていた。不思議に思っていると駅構内にアナウンスが鳴る。

人身事故により電車が遅れる、という内容だった。


やれやれ、遅れるのか、僕はただそれだけ思った。ホームにいる人の多くが同じように思っていると僕には見えた。


さらに、こう思う人もいるようだった。なんて迷惑な人なんだろう、線路に飛び込んで自殺するなんて、死にたいなら、誰もいかない崖からでも飛び込んで、一人で死ねばいいのに、と。


僕は思うのだが、こういう人は僕みたいなやつより、良いやつなのではないだろうか。人が死んだ、という事実を、曖昧な言い方にたくして、見て見ぬふりする僕より良いやつなのではないだろうか、と。僕みたいなやつがいるから死ぬ人はわざわざ線路に飛び込み、凄絶な現場を残して、その身で死の事実性を烙印しようとするのではないか……。


ゲームセンター

騒々しさと煙のにおい、画面に向かう神経質な顔、映像と音楽が洪水となって押し寄せる、僕はゲームセンターに入ると自然に感覚を鈍くした。ゲームセンターとは外界の刺激に対して、異常に鈍感になれる場所で、それには不思議な快感すらあった。


やや緊張しながら、筐体がならぶ一角に進み、一通りタイトルを確認する。


「あった」


すぐに、50円玉を大量につくってきて、目当てのゲームの椅子に座る、この瞬間はいつも心が安らぐ。クレジットを入れて、1pのスタートボタンを押すと、いつもの音楽と映像が迎える、気分が上がってきた。


2時間ぐらいやり続けた。ふと、集中が切れてきたのを自覚する、気づくと後ろに人が立っていたので、ちょうどいいから、いまやってるのをALLして今日は帰ろう、と考える。5分後ラスボスのライフを削りきったのを確認して、さっと席を立った。なんとなく、ちらっと後ろの奴の顔を見る。


「やあ、黒場」

「内田!」


僕の前にいる内田は妙に落ち着いていて、気の抜けた奴とも見えたが、それはなんの違和感もない、僕が毎日会って、話していた、いつもの内田だった。


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