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在る 覚める 死ぬ  作者: 水都
第一章
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2

「あれ、このあたりにゲームセンターあったはずなのに」

「それなら、近くに移転しましたよ」


ユレさんと深夜の街を歩く。僕はさっきからどうでもいいことを言っている。それなのにユレさんはしっかりと言葉を受け止めて返してくれた。僕は明かなに余裕がない人の振る舞いをしていた。


「ユレさんは来たことあります。そのゲームセンター?」

「いいえ。黒場さんはよくいってたんですか?」

「ああ、うん。よくというほどでもなかったけど、最後いったのは夏あたりかな。」


街灯に照らされた無表情な建物たち。いつも視界にずうずうしく入ってくる看板も不思議とその機能が停止しているみたいだった。

スイッチが切れてるんだな。勝手にそう思った。


ふと、視線を感じて鋭く振り向いた。背後になにもいなかった。一人そんなことやっている僕に、ユレさんは労わるように声をかけてくれる。


「どんなゲームをやりにいくんですか?」

「ああ、STG」


ユレさんは怯えた子供の気を紛らわせるように優しく聞いた。なんとも無様に思ったが、どんどん緊張が高まってきて、動悸で息が乱れてきた。


「おもしろいですか?」

「人によるけど、それよりユレさん」

「はい」

「僕の部屋に結界を張ってくれたといいましたが、今の僕にはなにもないんですか」

「えっ」

「ほら、まじない的なもので、身を守るってくれる感じの。あるんじゃないんですか」

「ん、ああ。なるほど」


ユレさんは得心したようだった。それから頷きながら答えた。


「大丈夫。もうかけてありますから」

「それはよかった」


ふと、今度はビルの間の狭い横道から視線を感じたので、かるく飛びのいた。ユレさんは軽く目を向けてから何もいませんよ、と言う。僕は安心する。


「ユレさんそのまじない、どれくらいかかってるんですか?」

「ああ、もうカッチカチにかかってますよ」

「カッチカチですか」


それを聞いてついうれしくなって、僕は口元に緩んだ。その後すこしたってから冷静になって僕は言った。


「でも、嘘か本当か僕にわからないのだから、いくらでも適当なこと言えますよね」

「やれやれ」


D公園

隣町のD公園は外観からして見通しがよくて、公園の外から中の大部分が把握できた。入り口も広く開放的で、ひろい敷地にデザインのよい長椅子が十分な間をとって等間隔に配置されていた。その奥は石畳になっていて、噴水やらテーブルやらがあった。さらにその奥にいくとは道路にでないで、直接巨大ショッピングモールの正面入り口につながっていた。昼間だと、この公園を通ってショッピングモールに入る人でいつも人の流れが絶えなかった。


「椅子に座りましょう」

「ここは明るくていいですね」


明るいのは公園のとなりにある営業中のコンビニの光のおかげだった。


「落ち着いたんじゃないんですか」

「公園に人がいますよ。奥のほうでスケボーやってる奴らに、僕らからまれるかも…」

「悪魔よりはましでしょう」

「そうですね。でもこんな明るくて人もいるとこに、出てくるですか?」

「いえ。ちょっと休憩です」

「気を遣わなくてもいいです」

「そうですか?」

「もう、すっかり終わらせたいんですよ。僕はじりじりとした恐怖と緊張に耐えるのがうんざりしました。もう終わりにしたいですね」

「ふむ」

「つまり白黒つけたいんです。このバッドラックに」

「わかります?ユレさん」

「黒場さんは人並み以上には冷静な人ですけど」


と前置きでフォローを入れてから、ユレさんの説教が始まった。


「いまの黒場さんは危険な心理状態ですよ。一か八かと性急に物事を解決しようとしている。さっき店で話していた時みたいに冷静になってください」

「……」

「終わりにしたい、という気持ちは分かります。でもそれは理性的な判断からじゃなくて恐慌からなのです」


偉そうだな、と思ったが、なんか言われている通りな気がしてきた。


「その恐慌が自覚できないからには、いざというときに絶対に体は思うように動いてくれませんよ」

「…はい」

「いきなりパニック状態になって状況を悪くするだけです。いやそうなればはっきりいって絶望ですね」


友達の妹に完全に言葉でやり込められた苦い感情をかみしめながら、僕は謝った。


「ごめんなさい」

「わかってもらえれば大丈夫ですよ」


そういって彼女はにっこりした。なんとも満足そうだった。


「実は私自身、ことが始まってからついさっきまでとても冷静じゃなかったのです。それで、年上の黒場さん相手にこんなこというの失礼なのですが、黒場さんがナーバスになってるのを見て…」

「反面教師にした?」

「そうです」

「悪霊との戦いは、基本我慢比べです。兄さんがよく言ってました。悪霊との戦いは一番長く戦い続けることができる奴が勝つって、それが極意だって。今になってようやくその言葉が腑に落ちる思いです」

「なるほど、内田ってときどき不思議に意味を含んだ感じなこと言ってたな。今思えばリアルな経験からものを言ってたんだろうな…」


ユレさんは何か考えるようにじっとこっちを見ていた。


「あっ、内田ってのはお兄さんのことね」

「ええ。ではこれからA川に向かいます。ここからはマジで目標とのエンカウントがありえますから、そのつもりで」

「また緊張してきた。それで僕はどうすれば」

「もうわかってると思いますけど、黒場さんの役割は寄せ餌です」

「しってました……」


それ以外に僕に何の利用価値があるだろう。知ってたことでも表情が暗くなるのを抑えきれなかった。


「そして私は釣り師といったところです」

「釣れますかね?」

「いいルアーならばね」


そういってユレさんは軽く笑った。ふと緊張がとけて僕はすこし余裕を取り戻し、なにか言い返したくなった。


「それじゃあユレさんもし僕がいなかったら一人でどう釣るつもりだったんですか?」

「いろんな漁法があるんです。追い込み漁とか。網をつかったりね」


それじゃあなんでそれをしないのか…


「でも私は未熟者なので方法が限られてるんです」

「なるほど」

「でも、やっぱりさっき言った基本は変わりません」

「がまん比べでしたっけ」

「はい」

「ちょっと思いついたんですが、悪魔がこの地から逃げることはありえないですか」

「ほぼありえません」


言下ユレさんは否定した。


「悪霊のたぐいは、それのもつ霊的な傾向性に逆らうことがありませんから。そして霊的な環境がどのような霊を作るのかを規定するのです。生まれ出た霊的な環境が霊にとって世界のすべてです。」

「悪い霊的環境が悪霊をつくるでしたよね。ならいい環境にしたら、悪い霊は消える?」

「そうです。でも悪霊がいることでも霊場が悪くなるので、相補的な関係でもあります」

「どのような悪霊か見極めれば、勝ったも同然なのです。そのためには姿を見せてもらわなければならない」


僕とユレさんは公園をでて、ほぼまっすぐにA川に向かって歩いた。その間お互い黙っていた。ふしぎと平静と危険に入っていくことができた。

次の瞬間あの悪魔が出てくるかもな、と思うのだが。なぜか今はまだだろう、とも根拠なく思ったりもした。ようするに僕は冷静じゃないのだろう。

ユレさんは心底落ち着いてるように見えた。ハッタリかなとも思うのだが、頼もしかった。


行く手には街灯の明かりがほとんどとどかない闇のエリアがあった。あそこにはなんで街灯がないのか、そこを通るのが本当に嫌だと思った。

そんな思いもむなしくユレさんはやはりまっすぐ闇エリアに侵入した。

真っ暗闇の中でユレさんについていくことだけに専念した。それなのにいつのまにか闇にうかぶ景色を僕はみていた。ずっと道かと思っていた場所がいきなり用水路に見え始めた。近づくとまさに用水路だったので、僕は何んともはなはだ奇妙な感覚に満たされた。

ユレさんに視線を戻すと進路が左に逸れていた。僕もそれにならって何かをよけるように左にそれた。

そのまままっすぐ進むとようやく街灯の光を拝むことができる道にもどった。僕は息を大きくはき、髪をかきあげると、ユレさんは囁くように聞いた。


「あそこ段差があったのわかりましたか?」


僕にはまったくみえなかった。


A川にかかる橋についた。この付近は明るすぎるほどに照明が設置されていた。

大仰な話だが、物がよくみえること、暗くないこと、この恵みに僕は心打たれた。

ギラギラと強力な光をおしげもなく与えてくれるこの橋の上はまさに泉だと思えた。


「ここはとても明るいでしょう」

「こんな明るさを感じたことは初めてです」

「そうですか」

「有難いと思ったのもはじめてです。すごい光ですねナイター用の照明みたいだ」

「ここで少し待ってください」

「えっ」


するとユレさんは橋の向こう岸に小走りでいってしまった。


「まって!」


とっさに声をだしていた。彼女は振り向いて軽く手をふって、また小走りで闇に駆け出した。

胸がざわざわとしたが、ユレさんはすぐに戻ってきた。彼女は走ってかえってきた。両手に缶をもっていた。


「これどうぞ」

「ありがとうございます」


ホットコーヒーを受け取った。なにも言わずに缶を開けて口を付けた。彼女はココアを飲んでいた。

橋の中間から水面をみる、A川はひどく汚れた川だった。水が死にかけたような緩慢さと静かさで流れていた。


「おどろかせましたか?」

「まぁ」


引き留めようとして声を上げたことは、とても無様に思えたので、僕はついつい言い訳をした。


「いきなりでしたし」

「ちょっと、試してみようかと思いまして」


ユレさんはさらりとそんなこと言い出した。

僕は思わず恨みがましい顔でユレさんを見た。ユレさんはそれを笑顔で応じた。明るすぎる明るさの中で微細な表情や底にある感情をお互いに明白に感じ取れるようだった。


「黒場さん今日はここまでです」

「待ってください。僕は平気ですよ。そりゃさっきはビビってしまいましたが」

「いいえ、最初はこれくらいです。いったでしょ我慢比べだと」

「そうですか」


ユレさんは一体どのくらい闘い続けるつもりなのだろうか、しかもその間内田は眠り続ける。

ユレさんに課せられた使命の要求するところのとほうもないほどの労力がおぼろげに分かってきた。

僕は彼女に同情した。でも自分のことを考えてみると、同情ばかりしてられない、自分もうかうかできないのであった。


「ユレさん、僕がユレさんをしんじてないって話ですけど、今からユレさんを信じてやっていこうと思います。そしてそれが自分のためにもなると信じます」

「それはよかったです」


その夜分かれるとき彼女は言った。


「黒場さん、明るいうちや、人が多いところはふつうの悪霊はよってきません。それに、余所で悪霊につかれてない限りいつもいく場所も安全です。でも明るいところでもよく見ることです、なにか変な気がしたり不気味な感じを覚えたなら避けてください。いつもの景色でもよく見てみてください、よくみることがもしできたなら、いつも見えなかったものが見えてくるんですが、そういうところに霊は潜んでいるんです」



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