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在る 覚める 死ぬ  作者: 水都
第二章
16/24

5

今もう7時か…、学校が終わって5時に公民館に集まって、6時には解散し、それから七瀬を追いかけるはめになり、結局戻ってきて、バタバタ時間が過ぎって言った。弓削はやられてしまったし、七瀬の安否は不明だし、ユレさんは怒っているだろうし、そして悪魔はいまどこにいるのか。

僕は満員電車に乗って、自宅に向かった。一駅分だけ我慢して、人に押しつぶされた後見知った駅内に着く。改札口を出るとちょうどユレさんから電話がかかってきた。

「黒場さん一体今どこにいるんですか!」

彼女は怒ってずいぶん興奮した様子だった。その興奮は僕に腹をたてている事だけが理由じゃないだろうが。

「今は、ちょうど駅につきました」

「それじゃあ駅にいてください。後20分ぐらいで私が駅につきますので、わかりましたね?」

「わかりました。それじゃ」

通話を切る。駅構内を見渡すと、多くの人が流れていくさまが見えた。生活への激しい情念、知識と労働が人々の日常を支え、そして人々の日常も一つにつながっていてた。

そんななか自分だけがつながりを持っていない。一体僕はどこにいるだろう。大勢の人間に囲まれながら僕は心細くなった。


どうしてこんな気持ちなるんだろう?

もしかしたら、これから死んでしまうから? それともまだ子供だからか?


僕はユレさんと合流する前に一度家に帰ることにした。


自宅

とりあえずコップを取って冷たい水をくみ、一気に飲み干した。すこしは目が覚めた。自分の部屋に行き、まずは荷物を置いて、それからスマホの充電器が必要だなと考えた。

電気の付いていない部屋は、物の輪郭があいまいになる程度に暗かった。僕は明かりをつけずに、机に鞄をおき、椅子に座り、目をつぶる。めまいがした。最近多かった。

「不用心だな」

横から声が聞こえた。僕はすっかり鈍った動きで声の方向に目を向ける。声の主はベッドに座っていた。

「疲れているのか?」

「ああ」

答えながらじっと目を凝らしてみると、長い黒い髪の女が部屋にいた。僕は机の上のカバンに突っ伏し、素朴な疑問を口にした。

「なあ、なんで僕を付け狙うんだ?」

「前回も今もただお話をしようと思っただけだ。前回あなたは気絶してしまったようだけど」

悪魔の声には何一つ恐ろしげなところはなく、僕は顔を上げた。

「あのとき死ぬほど怖かった」

「気の毒なことをしたな」

「話とは?」

「私の長かった生存かけた闘いも一段落しようとしている。それを含めて私のこと、あなたに聞いてもらおうと思って」

暗闇の中、彼女の瞳が僕を見て、唇が動いていた。

「よくわからないな。なんで僕なんだ、僕らってなんか縁でもあるのかな?」

「私たち双子の兄妹のようなものだし」

「僕に兄妹なんていないけど、死んだ妹も姉もいないはずだけど」

「そんな意味ではない。私が生まれたのは夜の国、最初は暗い情念の海にうかぶ海蛍のように無軌道に流され、ランダムの放電現象起こすだけだった。パッと光って、消える。そういった者たちが無数にいる海に、或る時、なにか一度、決然と動き出した。なにかといえば、状況の可能性が生まれた。それが私。環境のなかである一定の水準を超えた進化をとげて、その環境から引き離して自分を見ることのできる存在になった。そのとき私が生まれた。生まれてすぐに、栄養が足りないことに気付いた。自分のもつ性質や傾向性はこの土地に仇をなすことにむけられていて、それでしか栄養を得ることができなかった。そして、それを邪魔する天敵もいた。私はとにかく生きるために動き出した。」

「まさか、君はそこの公園で生まれたのか?」

「私がうまれてから、私はつねに一つのまなざしを向けられていた。私はそのまなざしの間に生きてきた。あなたもそうだ」

「私とあなたはお互いを鏡のようにして、お互いの形をつくってきた」

「僕は子供のころ、今よりもっと子供のころを思い出すと、今いるのと同じ部屋にいながら、まるでべつの風景が思い浮かぶ。だれもがそうなんだと、勝手に納得していた。だけど、いつからそういう見方をわすれてしまったのだろうか、いつ僕は目を入れ替えたのだろう」

「思い出した?」

「ああ、だけど話すのは初めてだね。君は……」



そのとき、スマホからラインの通知音が鳴った。舞台が一瞬で切り替わった。なじみ深いものたちがどっと視界に押し寄せた。

自分のスマホを確認しながら、悪魔が持つスマホも鳴っているのに気づく。

「矢橋が弓削の家に向かっているのか」

「うん、そうみたいね」

彼女は弓削のスマホをもっていた。暗い部屋でスマホの光が、画面を覗きこむ彼女の顔を照している、同い年の女の子で僕が一番なじみ深い顔をしていた。僕は奇妙にも納得した。

「僕はこれから、外に行かなきゃ」

「私も用ができた」

「矢橋を襲うつもりか?」

やめてくれ、とはもう言えなかった。彼女は生きるために闘っているだけだから。

「そうしなくっちゃ」

暗くてよくわからなかったが、両手をあげて、手のひらを上に向け、外人みたいなボディーランゲージをしてるようだった。

「僕はそうなってほしくない矢橋もユレさんもだ!だけど、君は自由にすべきだよ、言うまでもないけど、僕もそうする」

「ああ、ここ最近疲れることが多かったけど、最後の最後のオチがこれなのか」

僕はたまらなくなり、自分を哀れんで大きな声を出して言った。

「私だって、嫌な話だよ。内田が引っ越してきてから、ずっとあいつと闘ってきた、黒場は知らないだろうけど、あいつの霊力は量は尋常じゃなくて、闘いにも慣れていた、ともかく逃げて逃げて生きながらえてきた。そのあいだちゃくちゃくとあの兄妹はここらの治霊をすすめて、私の力を奪っていき、どんどん追い詰めれてきた。そこで、一世一代の賭けに出たんだよ」

「ああ、内田にどうにか勝ったんだな。まあ霊能バトルのほうは詳しくないけどさ」

「もう、こんなチャンス無いね。私は一気に勢力図をひっくり返すよ。最後の仕上げに妹ちゃんと矢橋さんも、退場してもらう」

悪魔は大はりきりだった。勢いをつけてベッドから立ち上がり、肩からそれまでそこになかったのに、黒い翼がバッっと大きな音を立て広がった。

「それじゃあ黒場」

僕も立ち上がる。いつのまにか窓を開けずに彼女は窓の向こう側のベランダにいた、月明りで全身がよく見えた。僕は窓を開ける。

「矢橋は君を逆に誘っているってわかってるのか?」

僕の心境は複雑そのもので、自分でも呼びとめようとしてるのか、警戒を促しているのよくわからなかった。

「私は生まれてから今一番力がみなぎっている、やるなら今しかないんだよ。矢橋さんは弓削さんよりずっと強敵だから、消されちゃうかもしれないけど、まあともかく黒場戦いの前に話せてよかった。じゃあね」

そういって突如僕の前に現れた悪魔はバサバサ飛んで行ってしまった。


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