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在る 覚める 死ぬ  作者: 水都
第二章
14/24

3

まず、弓削は霊能力者が襲われた事件について、詳細を話した。詳細と言ってもあまりはっきりしない点が多かった。二人別の場所にいた人間が同じ日にすこし、時間を空けて続けざまに倒れているところを発見されたらしい。

「たぶん、襲撃されたんだと思う」

そう、弓削は推測した。

「まちがいないんじゃないの、内田さんと黒場君にはすでに話したことだけど、その悪魔は昨日夕暮れ時に私のいつもの行動範囲にポツンといかにも誘うように突っ立ていた。受けて立とうとも思ったけど、ちょうど弓削君からのメールを受け取って、そっちの用を済ませようと思ってやめた」

「なんだって!というと、その日に矢橋も始末しようとしていたってことだ!警戒がまだ甘いうちに、一気にこちらの戦力を削ぐ、そういう考えだったんだ」

それを聞いて、ユレさんが重々しい調子で語りだす。

「自分の邪魔する奴、又はできる力がある奴を殲滅するつもりらしいですね。それからこの地に君臨して、思うままにふるまうつもりでしょう。この地は徹底した悪意と精神汚濁の溜池と化しますよ」

僕は唖然とした。何それ?それって悪魔じゃん。背筋が寒くなる。

「あいつの存在目的はこの地に対する、底なしの悪意の発散だからな。みんなも分かってるだろうけど、今あの悪魔は今まで一番勢力をもっている。この地の霊の力を一番利用できている。そういう霊場になってしまっている」

そういって、弓削は強く握りしめた両手を机に押し付ける。

「それも長期的な観点から、より多くの量の不幸をまき散らそうとしている。あいつはまったく衝動的だったり感情的に行動をしない。暗く根深い憎悪に支えられた、恐ろしいほどの努力と粘り強さと入念さで、この地に徹底した報復をしようとしている」

そう矢橋が言うのを聞いて、僕はちょっと気になった。

「なんで?」

「なにが?」

「なんで?その悪魔はこの地に復讐したいんだろう?地っていわばただの土地とそこに住む人でしょ。住人は結構流動的で入れ替わるじゃないか?「この土地」ってそうとうあいまいな観念じゃないのかな?せいぜい、行政的な区分でしかない。そんなものを恨んだりするのかがわからない」

何か説明しがたいことがあるのか、言ってることがもっともだと思ったのかわからないが、一瞬皆黙り、その後弓削が返事をした。

「それは、この地にかけれた呪いのせいだよ黒場。昔この地は余所の邪悪のスケープゴートになったんだ」

「いや、呪いだけじゃ説明がつかない。たしかに黒場君の言うとおりその悪魔の不気味なところだと思う」

矢橋がポツリと言った。それにユレさんが答える。

「そうでしょうか矢橋さん。悪霊に供された土地であるから、憎しみがこの地に向くのは普通じゃ」

矢橋は考えるように目をつむった。


「でも、今言ったこと以上に現在この土地で重大なことが起きている。それは今も着々と進んでいる。隣町の駅前の大型ショッピングモール周辺にさまざまな種類の悪霊が集結している、そして雪だるま式に今も膨れ上がっている。今日か明日にでも大事故が起きる気配がある」

さも深刻なことのように弓削は言うが、僕にはいまいちどの程度の危機かわからなかったので、周りを見渡したが、矢橋もユレさんも無表情で黙っていた。僕は黙っていられず弾けるように立ち上がって問いただす。

「おい、それって、どうなるんだよ。やばいんじゃあないの!」

「死人がでるくらいには」

ユレさんが沈んだ声で答える。

「もっと詳しく!何人くらい死ぬんですか、どうすればいいんですか」

「そこまでわからないわよ黒場君。それに、それは見え透いた罠でしょ。自分の有利なフィールドにつっこませようとしてる。そうじゃなきゃ、目立つような大事件を起こす必要は悪魔にはないからね、ねっちこくこの土地の人の流れ全体に出来るだけ長い間負担をかけるってのがあいつのやり方なはず。あいつは逆向きの功利主義だからね。全体の不幸の量が多くなるやり方を選ぶ。」

「なんで悪霊を集めて大事故をおこすほうが、それをしない方より不幸の量が少ないことになるのかがわからない」

「私たちが前提にする価値観を逆立ちさせてみれば、あいつのしてることがよくわかる。霊害がよく起きるような霊の秩序がある。その秩序を乱すような霊害を起こすことになるから、それは悪の霊の秩序にとってよくない。これでどう?」

「ああ、なるほどそれ昨日僕らがした話と同じなのか」

「大きな霊害が起こった後は、情念はいくらか静まり穏やかになる、そしてその場から新しい霊の流れがうまれることもあるし、霊の流れの秩序を作る起点とできる」


「ここでポイントになるのはその悪霊の渦を悪魔の罠と知りながらも除霊しに行くか、行かないか、だと思う」

弓削は見ていてつらくなほど張りつめた顔で本題を切り出した。

「厳しい選択ですね」

とユレさんが言った。

「私のとっては全然。二人はどうすかしらないけど、私は行かない」

「矢橋、ここはどっちにするにしても、足並みそろえて行かないと」

と僕が言うと、すぐに。

「いや、二人が行くつもりでも私は行かない」

「でも、それじゃあ、悪魔と一人で戦うことになるぞ、そっちのほうが不利な選択じゃないのか」

「黒場君は勘違いしている。私は二人がそのショッピングモールに行かなくとも、二人と協力して悪魔を迎撃するつもりもない」

「えっ」

「ああ、黒場それは仕方ない、前にも少しいったが、霊能力者の戦闘は霊力が反発し合って、お互い邪魔になるだけだからな。だから、最初から協力と言っても情報交換に限るべきと考えているよ。おれも」

「でも、単純な除霊作業の場合はべつです。そのショッピングモールの除霊はみんなでやると早く済ませられると思います」

「私は単純な除霊作業でも、人と協力してやったことないから自信がないけど」

「必要があれば教えますよ。矢橋さんならだいじょうぶだと思いますよ」

「ああそう」


「俺は罠と分かっても行く必要があると思う」

「それは弓削君だけよ。私にはない。内田さんは?」

ユレさんは意外にも既に腹を決めてるようで、自分の決断をはっきりと述べた。

「この土地に住む人の事を、考えれば、そんな無謀なことをするほうが、よけい悪い結果になると思いますね。私たちが全滅したら悪魔の天下ですから、私はここは堪えるべきだと思います」

それを聞く弓削は不愉快そうな表情を隠せてなかった。弓削は冷たく返す。

「必要な犠牲ってことか?」

この質問になぜか、矢橋が割り込んで答えた。

「犠牲も何も、人はいつだって死んでるでしょう。この場合ショッピングモールでなにか惨事が起きたとしても、いつもニュースで見る惨事と何も変わらない」

「いや、どうにかできた可能性があったのだから、ニュースで見る惨事とは完全に違うだろ」

「どうにかできた可能性があった?ならこの世界の今まで死んでいったすべての犠牲者も同じじゃない」

「えっ?」

弓削もユレさんもよくわからない、といった顔をしていた。それを見た矢橋は一瞬だけ苦痛そうに顔をゆがめた。そしてまた無表情になり黙った。

「矢橋はそもそもどうすべきかとかの規範は無視して考えても、この場合悪魔の罠に乗る気になれないんだろう?」

僕は気づいたらこんなこと言っていた。自分でも適切かどうかわからぬまま、口から言葉が漏れていた。

「そうだよ。よけいなこと言ってしまったけど、ただそれだけだよ。私の言いたいことは」

「今のって規範の話だったんですか?」

と、ユレさんが言う。

「いや、俺はべつにそうすべきだから、みんなもそうしろって言うつもりはなかったんだけどな。そう聞こえたなら謝るよ」

僕にはなんか、みんながすこしづつ真意を取り間違えていると感じた。なにか大事なことが、ちらっとだけ、現れて、また消えた、そんなような。

そこで、みんな一息つく。二、三分ぐらい沈黙が続いた。部屋には重苦しい顔しかなかった。

「とりあえず、伝えたいことは伝えたから。お開きにしよう。みんなは思いのままに動いてくれ、ただ連絡だけは絶対に忘れずにすること、それだけだ」

「まった。悪魔が俺たちを狙ってくるのはそのショッピングモールの件からして今日か明日ってことだよな」

「そうだよ」

三人とも今までの話をちゃんと聞いていたのか?って感じに不安そうに僕を見た。

「いやちょっと、最後に確認したかったもんだから。やれやれ、長期戦になるって思ってたのに、まさかこんな展開になるとは思いませんでしたねユレさん」

「ええ、一本取られた思いです。いや、兄さんがやられた時点ですでにそうか……」

「お兄さんはあいつに関してなにかいってなかったのかな?」

そうなことを、荷物をまとめながら弓削が聞いた。

「いいえ特には。あいつは近づくとすぐに逃げていました。こんな大胆で凶悪な野心をもっていた奴だなんて思いもよりませんでしたよ。たぶん、それは兄さんも同じです」

そうか、と弓削は言って手提げかばんを肩にかけて、まっさきに部屋をでようとする。ユレさんが尋ねる。

「弓削さん、ショッピングモールにいくつもりですか?」

「……まだ分からない、でも、今はとにかく家に帰って準備する必要があるから。それじゃ、みんな気を付けて。またすぐに連絡する」



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