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在る 覚める 死ぬ  作者: 水都
第二章
13/24

2

昼休み、ユレさんといつもの理科室で待ち合わせる。昨日はうかつにも教室で話し合って、先生に見つかり、めんどうが起きたので、ちゃんと校舎裏側の窓のちかくで僕は待った。

僕は今朝の弓削の疲弊しきった態度をみてから、不安から身体がこわばって緊張状態がつづいていた。

ユレさんにまず何から説明しようか…、そのとき背後から、人を驚かそうとするときの、わるふざけ的な調子の大声が聞こえた。

「わああー」

僕は黙って振り向いた。声の主はユレさんだった。

「ああ、ユレさん弓削からは連絡が来ましたか?」

「えっ、あっ、はい。連絡受けてます。……あれ」

ユレさんはなにか期待外れといった面持ちだったが、僕は構わず話を進めた。

「弓削のしりあいが2人もやられたそうですよ。悪魔は逃げ回るのをやめて、自分の邪魔になるやつを消していってるようですよ……」

僕は恐ろしさに、おもわず声を潜めた話し方をしていた。

「ええ、きっと私も狙われているのでしょう」

「それに弓削はさらに重大なことが起きたって言ってました。それは放課後の集会時に言うらしいですが…」

「なんでしょうね。ろくなことじゃないんでしょうけど」

さっきから僕が恐ろしげで、深刻なムードで話しても、ユレさんはそれをさらっと流してしまう、なんだが大して不安に感じてないようだった。彼女は軽く伸びをしたり、首を曲げてたり、ぴょんぴょんと跳ねたりして落ち着かない様子でいた。なんだろう、と思って怪訝な顔をしていたら、ユレさんは恥ずかしそうに顔をそらし、学校の外の通りのほうに顔を向けた。

それから、僕の方に振り向き、にっこり笑った。

「そういえば、今日はなんで外からなんですか?」

「黒場さんを驚かそうと思いまして。でも失敗しました」

「ああ、さっきの「わああ」ってやつか。」

「そうです、すぐびっくりすると思ったのに」

「今日はそんな場合じゃなかったからね」

彼女は残念、と言って顔を下げた後、すぐにまた僕の方に顔を向ける。

なんだか不思議だった。僕は心のなかのアラートが鳴り響いているのに、彼女はすっかり上機嫌なのだから。

「悪魔がきたってへっちゃらです」

「そうなんですか?矢橋も弓削も神経をとがらせていますよ」

「できれば、確実に仕留められ戦いに持ち込みたかったですが、あっちからやってきてくれるならそれはそれで望むところです」

「ユレさんは相手の悪魔の事をねちっこく、用心深いって言ってました。あっちから仕掛けてくるということは、相当自分が有利だと考えてるってことになりませんか?」

「そうです。でも実践ではなにがあるかわかりませんよ。勝負は結局ここぞ、ってときに適切な行動をとれるかどうかです。それには、そうですね、冷静な思考力もそうですが、結局は勇気の問題ですね」

「力は?霊能パワーはどうなんですか?」

「うーん、どうでしょう。こんなこと黒場さんを怯えさせてしまうかと思って、黙っていましたが、実は私兄さんの半分の力もありません」

「ええ!?」

僕は驚いて思わず無様な声を漏らしてしまった。

「やっと、黒場さんを驚かせることができました。でも、今の話は本当ですけどね。それと、私が兄さん半分といいましたが、兄さんがすごい力のある霊能力者だってことを、付け加えておきます」

それを聞いても、やはり僕は心にうかんだ疑惑を口にする必要があった。

「だけど、そのユレさんのお兄さんも悪魔にやられてしまった……」

「兄さんはスキを突かれたんだと思ってます。あの二人はどう思ってるか知りませんが……、やっぱり兄さんと真っ向から対決して勝ったとは私には思えないんです。あの悪魔と真っ向からやろうしたら、敵の術中に落ちる、そんな気がします」

「ユレさんは気合十分ですね。僕も元気をとりもどしました」

「そうですか、でも私も今ちょっと緊張してるんですよ」

へー、と思い。僕はユレさんをじっと観察した。ユレさんはすぐ顔を横に向けた。それから、すぐに照れたように顔を正面に戻して、笑った。

すごい上機嫌だなぁ、と僕は思い。ちょっと調子に乗る。

「今日のユレさんはさ、ユレちゃんだよね」

「えっ!」

ちょっと体を引いて、目を丸くして、ユレちゃんは驚く。彼女はすぐに、表情を変えて抗議する。

「だめです。ユレさんって今までどうり呼んでくれなきゃ」

厳しく、咎めるように言う。なんとなくいつもより迫力がないきがする。

なんとなく、もうひと押ししてみようかな、と思ったが気の毒にも、思ったので言われた通りにした。

「わかりましたよ。ユレさん」

「次言ったらおこりますから」


放課後

弓削が話し合いの場に選んだのは、学校のすぐ横の公民館だった。僕はほとんど入ったことないので、指定された部屋をさがすために、案内板や部屋プレートに何度も目線を往復させて、おそらくここだろう、という部屋のドアノブに手をかける。

中に入ると弓削と矢橋がすでにいた。お互いちょいっと手を挙げて静かに挨拶して、長テーブルに荷物を置く。弓削は今朝からだいぶ調子を取り戻したようで安心した。

「ここ、ちょっとわかりにくかったぞ。ここって貸切ってるのか?」

「ああ悪い。それとここは借りてる、誰にも邪魔はされないで話せる。ユレさんはまだか、様子はどうだった?」

ああ、といって、今日の昼休みの事を思い出す。

「彼女ちょいとナーバスになってたとおもう。なんかいつもより舞い上がってた」

「それって、悪魔との決戦がとうとう間近ということで、軽い躁状態になったんじゃないのか」

「どうだかな」

「私から見ると、あなたたちは鬱にみえるけどね」

と、矢橋が言う。彼女はいつもどおりに見える。すくなくとも、僕らの中で一番動揺が表に現れてなかった。

時計を見ると5時手前だった。予定では5時から話し合いが始まる。ホワイトボードにこの辺の土地の地図が貼り付けてある。何かの説明に使うようだった。


5時少し前に、ユレさんが最後に入ってきた。彼女はちょっと不機嫌そうにいった。

「ここでいいんでしょうか?ちょっと場所の説明が足りてませんでしたよ」

弓削は苦笑いをしながら答える。

「わるい。黒場にも言われたよ。今はここを遊戯室って言わないんだなあ。それじゃあ、適当にその辺に座って、始めよう」


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