表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
在る 覚める 死ぬ  作者: 水都
第一章
11/24

11

不愉快な空気の中暗い道を二人で進む。景色のなかに学校があるせいか、知らない道を通る不安はなかった。

ユレさんをみると相変わらず、機嫌がわるそうに歩いている、どこか余裕のない様子もみてとれた。額に汗をかいていた。

ふと、ユレさんがこちらを見て和やかな調子を装って言う。

「せっかく人が楽しい気持ちでいたというのに、台無しですね」

「楽しかったんですか?」

「そこそこです」

そういって笑う。なにか無理に余裕を気取ってるかのようだった。

「向こうも、ユレさんがいることが分かって、こっちに歩いて来てるんですよね」

「そうです」

気づいたら人影が見えた。きっと矢橋だろう。

「あいつが変なことユレさんにいったら、ガツンと僕がやり返します」

ユレさんはふふっと笑って、聞き返す。

「黒場さんは、矢橋さんと親しいのですか」

「いや別にそんなことはないけど」

矢橋とはまだ少ししか話をしたことがないが、なんとなくあいつの考え方、物のみかたは自分と近い気がしてた。


「こんばんは、内田ユレさん」

「こんばんは」

「あれ、そっちは私の助手のアリス君じゃない」

僕は余裕をもって構えていたが、この一言でカチンときた。

「名前で呼ぶのはやめてくれ」

「なんで?アリスクーパーみたいでかっこいいじゃん。でもあなたがそういうのなら」

そこで、いったんみんな黙った。しかし、ユレさんと矢橋はお互いなにか言いたいことがあるようで、タイミングを計ってるようだった。

「あなたのお兄さんが悪魔にやられてから、この土地もすっかり混沌としてきたわ。いつもの道を通っても、変わりぶりにすこし困惑するぐらいにね」

「私も日々恐ろしいと感じてます」

「このままにしておくと、どうなるかな」

「さあ。でもいままでの最低限の秩序を取り戻すつもりならば、その目標のために矢橋さんはまったく役に立たない、それどころか邪魔です!」

ユレさんが思った通り、ヒートアップしてきた。

「それはそのとおり。でも仮にあなたの邪魔をしないよう、私がふるまっても結局どうにもならないでと思う」

「何が言いたいのですか?」

「悪魔を倒すのが喫緊の課題かと」

「そこは私も同じ見解です」

「それはよかった」

ここで、僕はようやく一息つけた。まったく、見てるだけでハラハラする。

「この土地が混沌としてきたって?ここらに住む人はどうなるんだ」

「べつに、不幸なことが今まで以上に起こるだけ。霊能力者が霊害を予測し難くなるから、予め被害に具えることもできなくなる、その点でも不幸が生まれる」

「よくないな、それ」

「それが自然だけどね」

するとユレさんがそれに突っかかるように言う。

「自然のままにしておくのは、必ずしもいいことではない」

矢橋はなにか言い出しそうだったが結局何も言わず黙っていた。

「10年前の霊がいまさら怨念をかき集めて、学校に害をなすことに成功したのも、それが予測できなかったことも、その秩序が崩れたせいです」

「ああ、そうだ。その悪魔をさっき見つけたよ」

えっ、と僕とユレさんは目を見張って矢橋の方を向く。どこで!とユレさんが鋭く問う。

「環状道路と国道×号線の交差点の歩道橋の上に、夕暮れ時」

「飛び掛かってもよかったんだけど、まあいろいろとね」

「そんな浅い時間に…」

「私も驚いた。なんか警戒しちゃうでしょ」

ユレさんは重々しく口を開き、真剣そのものといった態度で語りだした。

「その悪魔は非常に特別で危険な奴です。わたしはもっと情報をつかんでから叩くべきだと思ってます。それで、キーとなるのはやっぱり黒場さんなんじゃないかと思うんです」

「えっ、僕」

「黒場さんは家にいてあいつは黒場さんに襲いかかった。あいつのことは昔から兄さんと一緒に捜査をしてたんで、なんとなく分かるんですけど、恐ろしく用心深くて、ねちっこい性分の奴です。そいつがいきなり黒場さんを襲いかかるなんて、どうも変です。それをしなくてはいけなかった理由が悪魔について重大なヒントになる、そう私は思っています」

「黒場君心当たりは?」

「ない。その夜窓を見たら公園前に人影がいたんだよ、それから、その影がこっちに来て…」

「ふーん、いま思いつく限りの作戦は、黒場君を寄せ餌にして、いそうな場所をうろつてみて反応をうかがう、とかかな」

「それはもうやってます」

どん、とユレさんは言う。

「あ、そうなんだ」

矢橋は半笑いで僕を見ながら答えた。

「じゃあ、今後なにかあったら教え合う、それでいい?内田さん」

「はい、よろしくお願いします」


「そういえば黒場、悪霊の残りカスのほうは消しておいたから安心していいよ」

矢橋がこともなげにそう僕に言った。僕はあっと驚いた。

「墓にいたんですね」

ユレさんが聞いた。

「そうだよ。彼女はぼんやりとたたずんでいたな」

そうか…、もういないのか…。

僕は茫然と考えた。ユレさんが僕のほうをうかがうように顔を見た。僕はそれでもぼー、としていた。

いや、僕は考えていた。ユレさんが矢橋を責めるように言う。

「彼女は無害な霊になったのに、消す必要はなかったはずですよ」

「それは分からないわよ。さっき話通り、ここは今混沌とした霊場で、これからさらに混迷をきわめてゆく、ああいう若干の不安因子も消しておくべきじゃない?」

二人が僕の方を見た気がした。そこでシャキッと答えた。

「それならそれでいい。ただ供えようとした、菓子が無駄になったな」

「はぁ」

クソバカにしたような、矢橋の声が響いた。僕はイラつきをおさえずに言った。

「なんだ!」

「なんで、墓参りをやめることになるのよ」

「なんでって、矢橋が消してしまったじゃないか!」

僕は憤然と言い放った。

「バカなの?幽霊に会うためにみんな墓にいくのか?」

「それは…」

考えが足りてなかった、たしかにそうだ。

僕がその子の死を悼んでいる、そういうのが、彼女に伝わればいいと思った。なにか慰めになるかもしれないと思った。彼女の霊がそこにいるならそれが当たり前に伝わる…、いないのなら?僕はすがるように矢橋に聞いた。

「でもさ、伝わるのか?もうこの世にいない人に…、墓の前で手を合わせただけで…」

「それは、とんでもない愚問だな」


僕は墓にいくきになった。みんな話すこともなくなったタイミングで僕は切り出した。

「ぼくはこれからお墓に行くけど、ユレさんどうしますか?」

「もちろん私も行きますよ」

「さっき線香買ったんだけど使わなかったしあげるわ」

「ありがとう」「700円だから」「……明日で」

「それじゃあ、内田さんさようなら。黒場君も明日学校でね」


ユレさんはお辞儀した。僕は軽く手を振る。二人になったあと寺に向かう途中ユレさんが言う。

「黒場さんが怒ってましたから、私びっくりしました」

「ああ、名前を呼ばれると昔からどうもね」

「いや、そっちじゃなくて…、まあいいや、なんで名前を呼ぶとダメなんです?」

「女の子っぽいからね、馬鹿にして言うやつが多くてさ、そのせいなのか知らないけど、他意が無いと分かっていても、どうも落ち着かなく感じるようになってしまったみたいだ」

「よほどの信用が相手にないと、名前で呼ぶのは許さないわけですね」

「まあそうだ」

「黒場さんは自分の名前を人より大事にしていますね」

「そうなるのかな」

「たぶん、黒場さんの名前に対する畏れがあの霊と感応をより深いものにしたんだと思います。あの、兄さんはどう呼んでたんですか?」

「お兄さんは黒場っていってたよ」

「そういえば、理科室で先生に見つかったとき、あの時先生は名前で呼んでましたね」

「嫌だった。でも先生は名前でどうしても呼びたかったようだ。先生は同じクラスの間で名前で呼ばれるのを嫌がるようなそういう距離感を、まったく必要のない、打ち壊して、突破してしまえば、いいものとみなしていた。なにか解消すべき病気のようにみていた。たぶん、名前に対する畏れだなんて、まったく認めないだろう。僕はそのうち、あきらめて受け入れてた。すると、先生に倣うように僕を名前で呼ぶ奴がでてきた。後から気づいたけどあの先生は女子は苗字で呼び捨てで、男子は名前を呼び捨てで呼ぶって一律に決めてるようだった」

「あの先生はいい先生だと思います」

ユレさんは遠慮がちに言った。

「それはそうだよ。疑いようがなくいい先生だよ。誰だってもあの人を悪いだなんて言わないさ」


寺の門をくぐり、霊園のなかの墓を一通りめぐり、目当ての名前を見つけた。僕らは手早く供養をすませた。菓子を墓前におき、線香に火をつけ、手を合わせる。

これがなんで弔うということになるのだろう?僕は矢橋は愚問と言った意味が分からなかった。


その後、菓子を持ち帰り、僕らはすばやく寺から撤収した。


第一章終了です


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ