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在る 覚める 死ぬ  作者: 水都
第一章
10/24

10

日が暮れてから少々ばかし時間がたっていた。矢橋は大きな国道と国道が十字に交差する点の傍の歩道に立って、辺りを見回していた。片方の国道は高速道路に並行した環状道路でこの時間では圧倒的で目も眩むような力の流れが感じられた。

この交差点には道路の交通量の多さのため横断歩道がなく長細く、心細げな歩道橋と、高速道路に並行する国道を横切るために地下横断歩道があった。

歩道橋の橋の上からは、交差点をほぼ真上から見下ろせることができた。

今そこに誰かがいた。

まったく動かずに、動く気配もなく。何かをまっているのだろうか、それはただそこにいた。


まさか、こんな簡単に出くわすとわね。 さて、どうしようか


矢橋はスカートのポケットに手を入れ、なかにあるものを確かめる。場が張りつめてきた。今まさに決断をする、そんな時、矢橋のスマホが震えだす。おもわず矢橋はきょとん、とした表情の後、息を吐いてもどかしそうにスマホを取り出す。

「やれやれ、弓削君からか」


アリスについて新しくわかったことがあるので、黒場さん、矢橋さん、内田さんに報告します。

あ、アリスってのは悪霊の方のね

本名 ××アリス 両親 …… 当時の住所 …… 

死亡事故の詳細は調べればネットに出てくるので省きます

以下は、当時の同級生から聞いた話のまとめ かなりあいまいなので注意

死亡事故当時から自殺じゃないかという噂があった

学校でいじめられていた、という話を事故以前に聞いたことがあった

両親が特に何かに思い悩んでいた様子はなかった、という証言をしたらしい

一番仲が良かった子は事件後すぐに引越しした…

両親は再婚であった、らしい………

……………

……


適当に流し読みをした後、矢橋は歩道橋に目を戻すと、そこにいた人影は矢橋のほうに向き直っていた。

しばらく、お互い向かい合ったのちに

「まあ、いいや」

そういって、矢橋はその場を離れた。


僕は弓削のメールを受け取ってから、ユレさんと連絡を取り待ち合わせて、アリスの霊の捜索を始めた。

「とりあえず、住んでいたマンションに行きますか?遺族は事件後この地を去ったとメールに書いてありましたから、まったく関係ない人が住んでいるのでしょうけど」

「お墓の方も気になりますね。それにしても、この学校の近くの墓に入ったのか…」

「それが何か?先祖代々のお墓がそこにあるんじゃないんですか」

「もっと学校から遠ければ、心穏やかに眠れたかもしれないでしょうに」

「H寺ってどこのことだろう?学校の近くに墓がありましたっけ?ユレさん知ってますか?」

「黒場さんは校門の反対の側の裏の門から出入りしないんですか」

「えっ、しません。遠回りですし」

「そこから、登下校してる人は毎日H寺の塀の隣を歩いくのですが、その堀の向こうにお墓があるのはみんな知らないみたいですね。まあその寺のお墓の区画は外からじゃほぼ見えませんから、知らないのも無理ないですが」

初耳だった。とりあえず学校に近いなら、そっちを先に回した方が道順に無駄がないなと思った。

「墓見た後にマンションのほうに行きましょう」


「黒場さん幽霊にあってどうするんですか?さっき公園にいた感じではいつ消えてもおかしくないような、浮遊霊でしたよ。ほっておいても大丈夫ですよ」

じゃあ、ユレさんはなんで僕に付き合ってくれてるんだろう、と思ったが、僕自身もなんでアリスをほっておかないかよくわからなかった。

「まあ、墓の前にいるのをみたらそれで満足しますよ」

「そうですか。でもこの地の霊のことに詳しくなるのはいいことですよ。ある霊がいつもとちがう動きすることから、私たちは霊害を予測できるんですよ。天気予報みたいにね」

「へえー」

まだ完全に暗くはない道をユレさんとならんで歩く。ユレさんがふと、思いついたように言った

「矢橋さんと鉢合わせになるかもしれませんね」

「どうだろう。あのメールは矢橋にも同じのがいってるみたいだったから、あるかも」

「黒場さん私あの人と会いたくありませんよ」

僕は彼女の方を見る、ユレさんはつまらなそうに顔で、めずらしくのろのろとした歩き方をした。

「だいじょうぶじゃないかな」

僕はどう答えいいのかわからなかったので、適当に答えた。


「それじゃあ、こっちだよね」

「ええ」

僕ははじめて学校の裏門側の道に入った。意外とそんなに遠回りにならなそうだった。気が向いたらこっちで登下校するのもいいかもな、と思いながら歩く。

交差点を横切った後で、いきなり袖が引っ張られた。

「コンビニよっていいですか?」

と、ユレさんが僕の袖をつかみながら、ちょっと前に通りすぎた交差点のほうを指さして言った。

「いいよ。すきなものおごるよ」

店内に入って、なにか供養のために買っておいた方がいいものがあるかもな、と思い。きょろきょろ見回る。

「ユレさん、何買うの?」

お菓子を買うようだった。僕も適当に飲み物とお菓子でも買っておくことにした。


「黒場さんありがとうございます」

「いいよ。それより今気づいたけどさ、そこのお墓っていつまで開いているの?もう7時になりそうだけど……」

「あそこの霊園は24時間入れます。本堂はとじますけどね」

「それは助かった」

「最近行ってないから、わかりませんよ。それより線香はどうするんですか」

僕はすこしビビって、声をひそめて聞く。

「えっ。線香代っていくら払うんだっけ」

「あそこはたしか700円だったような。たぶん今の時間からじゃ売ってくれませんよ」

「どうしよう」

「黒場さんビビりすぎです。H寺のお坊さんとは知り合いですから、私がどうにか線香だけでも、もらうことができるかもしれません」

「本当にユレさんがいてくれて助かるよ」

「そうですか、そういわれると気分いいですね」

彼女は素直にうれしそうだった。ばっと前に飛び出してから、振り向いて僕を見る、僕も彼女をみる、もう真っ暗だった。あまり相手の表情が分からなかった。


学校がすこし見えてきた。いつもとは違う角度からみる校舎は新鮮だった。

「やっぱりいますね矢橋さん」

彼女はそういうと、止まって袋からポッキーを取り出して、バリバリ開けだした。

「そうか。弓削のメールをみて、僕らと同じように…」

僕はユレさんを見た、彼女は完全にたちどまって不機嫌そうにポッキーを食べだした。僕はなんと言っていいかわからず、しかたないので一緒に立ち止まる。

道の奥をじっと目を凝らしてみても人影らしきもの見えない、時折車が通りぬけていくだけだった。

ちっ と舌打ちが聞こえた。舌打ちはユレさんのものだった。彼女は腹ただしさで、口元に怒りのしわがよっていた。最悪な空気なる。僕は不快さを感じた。

「私は用がないのに、相手は私に用があるみたいですね。彼女こっちに歩いてきます」

「ユレさんの自由にしていいよ、帰るのも、待ち受けるのも。僕の用事は今日じゃなくてもいいし」

「多分黒場さんの用事はもう永遠にできませんよ」

「えっ」

「いいです。前に進みましょう」



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