1
ふと、昔よくやってたゲームを思い出した。長い間やってなかったが、唐突にやりたくなり、それを目当てにゲームセンターに行くことにした。
幸い、筐体はまだ稼働していたが意外にも先客がいた。しかもなかなかにうまく、後ろで覗いて10分たっても終わる気配がない。それだけで僕はここにいるのに嫌気がさし、帰りたくなった。
ゲームの難所にさしかかったが、その人はあっさりとこなしてしまったのを見て、思う、かえろう。
もう5時ぐらいだろうか、日は落ちてぬるい風が吹いてきた。家にまっすぐ帰るのもなんだと思ったので、遠回りして書店によろうと考えた。道を歩きながら、なぜこんなにへとへとになっているのか、自分でも不思議に思う。ふいに、姿勢を正して大股で歩いてみる。なんとなくだ。
書店につく。いつも通りだった。多くの背表紙のタイトルや雑誌の見出しの文章も何一つ興味をひかなかった。たちどまらず店内を一周する。おかしなとこは何もない、変わった人もいない。涼しい店内を見渡す。なんの思いもない。楽しくも悲しくもない。見えない流れに押されるように歩き続け、そのまま僕は店をでた。今度こそ帰ろうと思った。
なじみの道を下を向いて歩いていた。ふと、前に自転車が横切った。
あ、七瀬だ。
長い黒い髪が風に吹かれてわずらわしそうだった。彼女は目を細めてちらっとこちらを確かめる、そしてそのまま、さーっと行ってしまう。
なぜここにいたのだろう?いや、どこにいてもおかしくないか。
それでも、自分の家の近くであったのは初めてだな。
七瀬の家はまったくこの辺とは遠いはずだけど……
なにか急いでたようにも見えたな。表情もいつもの緩んだ感じではなかったな、あれは。
なぜか意外な場所にいたクラスメイトの事がとても気になってしまい、考えに耽っていたら、家の前までついていた。
翌日
教室についたら思い鞄を机に置き、椅子に腰をおろし一息つく。そして教室を眺めると、七瀬と目が合った。ちょっと話したいことがあったけど、椅子から立って近づくのが億劫だったので、来てくれることを願った。七瀬は席を立って近づいてきた。
「やぁおはよう」
「おはよう」
「昨日さ、蟹レストランの近くの道にいたよね」
「え、何のこと?」
僕はとぼけてみた。理由はない、なんとなく。
「えっ、たしかに黒場だったとおもったんだけど」
「それって5,6時ぐらい」
「そうだよ。なんだやっぱり見てたんじゃん。わたし自転車に乗ってたよ」
「ああ、あれ七瀬だったの」
「そうだよ 黒場の家はあの周辺なんだよね」
「そうだね」
彼女はふーん、と言ってそこでこの話は途切れた。
ホームルーム
担任教師からクラスへ重大な伝達があった。
クラスメイトの内田が長期入院することになり、今日から長い間学校にはこれないという話であった。先生は時折視線を床に落とし無表情で粛々とクラスに報告した。
休み時間
内田の話のせいか、休み時間が始まって最初の内はいつもより静かであった。それも最初だけで、徐々にいつもと変わらない騒がしさを取り戻した。
僕はクラスから視線を感じた。それにどう応じようか、と考える。わずらわしく思う。なぜ僕の様子をうかがっているかは、わかりやすい理由があった。というのも内田とは恐らく自分が一番親しかったからだ。そして内田は自分以外とはあまり親しそうには表向き見えなかった。
本当のところいうと僕自身内田についてあまり知らなかった。一言でいうとミステリアスなやつだった。そしてそのミステリアスなさまを保ったまま親交があったのだ。さらに言えば、不健康そうに全く見えなかったのに長期入院だなんてやっぱりミステリアスなやつだなぁ、と僕は思ってるところだ。
席を立たずに誰とも話さず静かにぼーっとしていた。そんな態度が適切な気がしたし、自分の心にもかなった。
「なぁ内田から何か予め聞いてた?」
話しかけてきたやつは、クラスで一番健康そうな男で名前は弓削という。
「全く聞いてない。驚いたよ。」
ちょっとクラスが静かになった気がした。
「おかしくない?」
と言ったのは矢橋という女子。あまり話したことはない。ちなみにこの人もミステリアスな雰囲気がある。
「そう言われても。ぜんぜん自分のこと話さない奴なんだよ内田は。」
「じゃあ持病でも隠してたってことかしら?」
「それか突発的に何かに発病して入院したのかもね。」
ふと、思いついたことを口にした。
「なんで黒場はそう思うんだ?」
弓削が鋭く問いかけてきた。
「えっ?だってそういう可能性もありうるから。それだけだけど…」
「黒場くんと内田君はけっこう仲良しでしょ。一緒に遊んだりしてるんじゃないの?」
「そんなには内田のこと知らない。家は近いけどお邪魔したことないし…」
「昨日は学校は一緒に帰ってたんだよな?」
「帰ってたけど」
「じゃあ帰り道別れたのが黒場が最後にみた内田だよな。」
弓削がなぜこんなこと聞くのか不思議だった。
「ああ。そうだ。」
「ちなみに、黒場くんは家帰ってから外出した?」
つぎは矢橋さんが意図不明な質問をしてきた。
「……」
この二人は僕に何を期待しているのだろうか…、気づいたら僕は黙って不審なまなざしを二人に向けていた。
「ごめんね。実は私ね」
といって矢橋さんが顔を近づけてきた。そして声を潜めて言った
「昨日私下校した後に内田君をたまたま見たんだよ」
「えっ、それ何時の話」
今度はこっちが鋭く問いかけていた。
「5時ぐらいに、内田君と黒場君の家に近いE公園で」
E公園と言えばほんとに家に近かった。自室の部屋の窓からぼーっと眺めることも多い。いつも影が差していて、暗く。木々に囲まれていて、外から隠されている感じさえある。そして中に入ると意外なほど広く、さびれた遊具が無造作に設置されている。公園の中の北側にある草むらは丈が高くずっと奥まで続いていて、先が見通せないので、公園の端どうなっているのか、いまだによくわからなかった。
「なるほどね」
いくらか納得がいった僕は内田の事を考えながらそう答えた。
放課後
弓削と矢橋さんは朝の話の後、何も言ってこないかった。僕はなぜ内田がE公園にいたのかがどうしても気になってずっとそればっか考えていた。最終的に、内田に直接お見舞いという名目で会いに行くことに決めた。不自然なことではないだろう。
お見舞いぐらいするさ。
そう思ったら、自分以外も今日お見舞いにいく人間がいても不自然じゃないことに気付いた。できれば一人で会いたいのに困ったな、と考えていたら、七瀬がやってきた。
「内田君のお見舞いのこととか考えてる?」
「なんで?」
「しないの?」
「するよ」
「じゃあ。教えてあげるけどお見舞いできないんだよ。」
「なんで!!」
驚いた。
「私は先生から聞いたから、黒場も先生から事情聞いた方がいいよ。お見舞い行こうと思ってるから、病院教えてって先生にいってきなよ。そうしたら、できない理由聞かされると思うよ。まぁ今聞かなくても、近いうちにクラス全員にちゃんと伝達される事だと思うけど。」
それを聞いて初めて内田の病気の事に、不安に感じた。早足に職員室に向かった。
先生が教えてくれた内容は断定を避けつつあいまいながらも、おおよその内田の状態を推測できるものだった。曰く、内田は応答できる状態ではないという事。生命の危機はないという事。いつまでも入院するかわからないという事。そして、病気についてはっきりとしたことはまだ分からない事。つまり持病などではなく突然のでき事でそれも、不可解な、どうとりあっていいかわからいことであるといこと。
職員室を出て茫然と、階段を下り靴をはきかえ、校門を抜ける。
「黒場聞いた」
後ろから七瀬の張った声が耳に届いた。
暗い気分を押しのけて、僕も声を上げて答える。
「ああ。聞いたよ。ありがとう。」
「元気出して、気を付けてね。」
僕は軽く手を挙げて答えた
自室
家に帰って、1時間ぐらい何もする気になれず、ずっと椅子にすわったまま動かなかった。ふと、E公園を窓から覗き見る。すっかり暗くなった風景のなかで一段と暗い公園が見えた。そのまま、眺めていると自分と同い年ぐらいの女子が公園に入っていくのが見えた。それは毎日公園を見ている自分だから察知できる、とてもおかしな光景だった。なぜって聞かれると、説明に困るが、ただ百人いれば百人うす気味悪いと感じるだろう場所に一人少女が入っていく危うげな場面であると自分は思えてならない。内田についても同じことが言えた。なんであんなとこにいたのだろう。あんなとこに…。
少女は公園の奥に進んでいって、窓から見えなくなってしまった。
E公園
公園に入るのは本当に久しぶりだった。中に入ると当然のように誰もいないかった。この公園には僕の部屋から見渡せる側の入り口とその逆の方向にもう一つ入り口があった。あの少女はむこうを抜けたのかもしれない。
奥に進んでみると、トイレと汚い木のテーブルとイスが見える。さらに奥にひときわ大きい木が見えた。その木の下に少女がたたずんでいる。
さて、どうしようかな、と思った矢先、相手はこっちを見つけたみたいだった。
これはお互いに怪しい人だな。よし、このまま歩いて向こうの入り口を何事もないように抜けてしまおう。
という考えで相手に近づくことになった。相手は完全に向き直ってこちらを見つめていた。僕は向こうの入り口に向かって歩みを進め、相手に近づく。相手の表情もわかるぐらい近づく。番犬がよそものに吠え掛かる寸前みたいな警戒に満ちた顔をしていたので、こっちも内心動揺する。しかし、そのまま向こうの入り口にまっすぐ向かった。ただ公園を横切るだけだと相手に納得してもらいたかった。極力相手の方を気にしないようにして、謎の少女を横切り公園の出口に向かう。後ろから視線を感じながら歩く。やっぱり無駄に広い公園だと思った。
あの女の子は公園にいた僕をとても不審に思っていたようだが、それは僕も同じ考えだ。やはりおかしいこんな場所しかも日が暮れてからなんで居るのだろうか?
入り口はどこだったかと目をやると、小さな道のさきに連なった木々の開きが目の前に見えた。しかしそこは黒い柵の間にさびた緑色の鉄の戸が閉まっていた。
こんなの初めて見た。というよりこちら側はあんまり知らなかった。これは開けてしまってもいいのかな。
戸をつかんで押してみる、しかしよく見ると地面の穴に鉄棒がしっかり挟まって、その棒を引き上げようとも南京錠がかかっていて、それ外さないと持ちあがらないようになっていた。
後ろを振り向くと、やはり女の子はさきほどの位置から動かずこちらを見ていた。
道を戻るしかなかった。
あー 知らなかったな。戸が閉まってるなんて。昔は開いてたんだけどなー 昔はなー
小さな声で一人ぼやきながら、来た道を早足で引き返した。視線が痛かったので下向いたまま通り過ぎることにする。恥をかいた。さっさと部屋にもどって別の事をしよう。そうこう考えるうちにそろそろ彼女のいた大樹あたりを通り過ぎるころだと思った。
「ちょっと」
「えっはい 何?」
驚いて顔をあげたら謎の少女が目の前にいた。明らかに挑みかかるかのような態度で僕を睨んでいた子は、近くで見る自分より年下のようだった。
「……」
「黙ってじっと見つめられる。」
不意にここは自分の方から切り出そうと思った。
「君はここで一人で何をしてるの?」
「…」
「こんな暗くなってから、いつも誰もいない公園になんでいるのかな?」
「それはそっちもですが。」
「僕はいつもこんなところ来ない、ちょっと理由があっている。」
「理由なら私にもある。」
そりゃそうだ。物事には理由があるんだもの。
「うーん。ともかく僕たちが二人してここにいるのはただの偶然じゃないかな?」
「どうだかね」
と言って彼女はにやっとした。
ちょっとまいったぞと思った。明らかにこれは何か誤解されている感じだった。
さてどうしよう行ってしまおうか?そう思って少し体を入口の方へ向けた。
「動くな」
彼女が鋭く言い放った。音量はたいしたことなかったのに不思議な迫力を帯びた声だった。
これには僕も驚き、なんか面倒事に発展するんじゃないかと怖くなった。
「動くな」
今度は静かに言いわれた。はっきり言って、ビビってしまった。彼女はやはりじっとこちらを観察していた。
場の緊張をほどこうと、僕は最大限考えて話を切り出した。
「なんだ、いったい何を誤解してるんだ?いきなり声をあげて…」
僕はまごついたように、焦ってる人がよくやるように手を無意味に動かしながら言った。
「誤解?確証はないけど怪しすぎんのよ」
「君はなにしにこの公園きたんだ?ここに何かあるの?なんか知り合いもここに来てたらしいんだが、その後そいつがちょっといろいろあって、なんか僕来てみたくなったんだよ。それだけだ。そしたら君がいて、怪しいなと思って、それだけだよ。」
「あなたとここに来てた知り合いとはどういう関係?」
「クラスメイト」
「あなたの名前は」
「黒場。って調べる気?」
「黒場か…、証明できる?」
はっきり言っていきなり一方的に質問されて、不快だけど、それでことがが済むなら携帯の画面を見せてもいいか。いや、財布に学生証あったかな?
「やっぱりいいです。信じます。へんなこと言ってごめんなさい。」
と、彼女は態度を軟化させた。こっちも一安心だ。
それでもじっと警戒するようにこっちを見ていたが。
「ここに来た知り合いの名前を一応確認したいんだけど?内田鉄雄であってる?」
「そうです。となると同じ理由でここにいたんですね。」
「いや違います」
少し考えるそぶりをしてから彼女は言った。
「私の名前は内田ユレです。黒場さん。」
自室
公園で会った少女は内田の妹だった。僕は内田の入院の事を聞きたかったし、ユレさんは公園の事を僕に聞きたかったらしく、なんか大胆なこととも思われたが、すぐそばの自分の家に誘って。落ち着いて話し合おうと提案した。彼女は気にするようでもなく受け入れて、今二人で自室にいた。近くで見ると声も顔も幼く感じた。背も自分よりだいぶ低い。
まず彼女はお兄さんの話を始めた。彼女は座ろうとせず窓そばにたって時折下を向きながら無表情に話した。
「兄さんは今昏睡状態でいる。昨夜にここの近くの道端に倒れていたのを、発見されて病院に担ぎ込まれた。いつまで寝たきりなのかは、わからないみたい」
僕はなにもいえなかった。鉛のような重い灰色のものが心に広がっていった。
「クラスメイトの一人がさ、内田が、お兄さん昨日5時ぐらいにE公園にいたのをみたって、今日教室で聞いたもんだから、いつも絶対来ないけど、ひさしぶりに来てみたわけだよ」
「嘘です」
「えっ」
「あなたはこの窓から私が公園に入るところ見てた」
「ああ、そうだった。公園に行ったのはそれもある。あんまり人が入るところなんてみないから、ますます行ってみたくなったんだ」
「誰かに見られてたの気づいてた」
「それはすごいなぁ」
正直眉唾だと思ったが、適当に答えた。
「そのE公園にいたと教えたクラスメイトの名前は?」
「矢橋っていうんだけど」
「ああ…」
「矢橋さんのこと知ってるんだ。」
「話したことはない。だけどあっちも動かざる得ないだろうからね」
なんのことだろう?
「黒場さんは毎日あの公園を見るでしょ。どう思う?」
「不気味」
「正解。この地の邪気の中心があそこ」
邪気?
ユレさんは、そういうと窓の向こうの公園に目を向けた。
「もしかしてお兄さんは公園でなにかトラブルがあったんじゃないのかな?」
「そりゃそうでしょう」
「そりゃそうって、もしそうなら大変なことだ。」
「外傷はないから、表向きそういう取扱いにはならない。道をあるいてたら突然倒れたことになっている」
「私たちの住んでる地域って、すごく何十年も前から霊の流れが不良でかなり汚れた地なのよ。こういうどうしようもない地域には、霊能者が移り住んで、その地の霊害に対処するのが一般的なわけ」
「えっ」
当然僕は何を言っているのかわからなかった。
ユレさんは真面目な顔ではっきりとそんなことをいったので、僕は困った。
「兄さんと私はそういう事情でここに住み着いた霊能者なの」
「霊能者、ですか…」
目の前の彼女を遠く感じ始めた。しかも口元が緩んできそうだった。
内田の家の事情なんて聞いたことなかった。妹がいるのは、そういえばそんなこと言ってた覚えがあった。
「でもお兄さんはまったく霊がどうこうって言ったことなかったですけど」
「吹聴することじゃないからでしょう」
「あなたは、お兄さんが倒れた理由は霊的ななにかだと思ってるんですか?」
「それ以外ないです」
彼女はマジでそう確信しているように見えた。
「あの、おうちの方は神社とかお寺とかの関係者なんですか」
「まぁそうですよ。寺に住んでるわけじゃないけど」
なるほど。そういう仕事の家の子どもなら、こういう不可解な事が起こったら、霊とか縁起のせいにしてしまうのだろう。彼女の心境を考えるとそれはショッキングな出来事だろうし、無理もないのかもしれない。でも内田の家がそういう系だったとは、知らなかった。たぶん知られたくないから隠してたんだろうなぁ。あっ、それで家にも呼ばなかったというわけか。
「霊か…」
「何年かまえから、この地には人の形をした強い悪魔が住み着いている。」
「悪魔か…」
「近づくとすぐに逃げ出す臆病な悪魔。そいつを昨日兄さんは追いかけてあの公園に行った。そこまでは分かっている。たぶんそいつにやられたんですね。いつもは近づくだけですぐ消える奴なのに」
ユレさんはの顔を覗き見ると、むしろこっちの反応を試しているかのようで、平然としていた。
なんてリアクションしていいかわからなかったけど。とりあえず悪魔について聞いてみた。
「悪さするんですかその悪魔」
「しますよ。というかいるだけで、霊場の流れが乱れるのです。まぁそもそも乱れた地だからああいうのが生まれるんですが」
「霊が乱れたらなにがどうなるんですか」
「すべての禍の元だよ。人が不幸になる」
「このあたりって住まないほうがいい土地なんですか」
「不浄この上ないよ。選べるなら避けるべき。」
「そんなの一切感じたことない!」
生まれ育った土地だからか、反発して言い返したのは自分でも意外だった。
「あなたも気づいたら不幸になってるかもね」
彼女の冷ややかな視線を受けながら、僕は考えた。
たしかに内田の事はユレさんにとって不幸だろう。でも霊の流れが悪いからだ、なんておかしすぎる。そんなもののせいにしても前に進めない。もっと不幸になる。
「ユレさん、禍福糾える縄の如しですよ。」
「そう」
「お兄さんをお大事に、きっとよくなると思います。」
僕の思いつく最大限の好意の言葉もむなしく彼女は静かに言った。
「悪魔を倒さない限り二度と起きないよ」
彼女は悪魔を倒そうとしているらしかった。それいがいに内田を救う方法がないと思いこんでるみたいだった。
彼女はこの後帰る前に、公園に近づく奴を見つけたら教えてほしいと僕に頼んで、僕はそれを引き受けた。
本当は迷信から目を覚ましてほしいかった。それに協力して彼女が無意味なことに打ち込むことに加担するのも嫌だったが。彼女にそれをはっきりいう事がどうしてもできなかった。とても悲しいことだと思った。
自室 0時
寝るつもりで電気を消しベッドに入って1時間ばかし、ずっと内田とその妹との会話について考えていた。
内田はそのうち目が覚めるだろう、いきなり倒れてずっと目が覚めないなんてそんな話きいたことがない。今日か明日でも起きるに決まってる。そしたら見舞いにいって、退院して元通り。おかしなことはない。オカルト好きな妹さんも、いつかは目を覚まして、恥ずかしいこと言ってたなだなんて思い出す日が来る。
そうかんがえるたいしたことないような気がして、眠たくなってきた。寝る前に水を飲もうと思ってベッドから起き机の上のコップをとる。なにげなくカーテンをめくり窓の外に目を向けた。
窓の外にありえない物をみた。
そこには公園の入り口でこちらを見ている人がいた。全身に震えがはしった。こっちをじっと見ている。どういうことだ。衝撃で少しの間なにも考えられない。
ユレさんが悪魔だとか変なことを言うからだ…が、しかしこれはおかしい。なんだあいつは。
いまだに黒い人影と僕はお互いを見ていた。時間の流れがゆっくりになったような感じがした。
人影が形をかえた。僕の認識は追いつかない。黒いのが大きくなる。広がる。近づいてる?
「うわぁぁぁああ」
声にならない悲鳴が漏れる。自室の窓の前、目の前に人がいた。それは飛んできた。
僕は恐ろしさのあまり卒倒した。
長い黒い髪と女の顔をみた。肩からはみでた大きなシルエットは羽だったのだろうか。
学校
ユレさんは、僕の1学年下で同じ学校の生徒だった。妹がいたことは知ってたが同じ学校に通っていたとは、すこし驚いた。内田はやっぱり家の事は隠したかったのだろう。夜の出来事から目覚めてから、僕は彼女に会う事しか考えなかった。わらにもすがる気持ちで昼休み会う約束をとりつけた。
彼女に指定された第二校舎の裏、使われない理科室に面した屋外で待っていた。あたりを見回すと、すぐに柵があってその向こうはドラッグストアやガソリンスタンドなど店が立ち並び、道路は車がひっきりなしに行き来していた。なんだが学校なかにいながら、学校の外にいるような気分になる不思議な場所だった。
「黒場さん」
彼女が現れた。理科室の窓からの登場は意外だった。
「あっどうも」
そういいなが、すばやく窓に近づいた。彼女の顔をみたら不思議なほど安心した。彼女に話したいこと、聞きたいことがたくさんあった。
「会ってくれてありがとう。」
自然とそんな言葉が口から飛び出た。
「おおげさだなぁ」
「いや、そんなことない。ほんとうに感謝してる」
「なんでも聞いてください」
僕は深夜の出来事を話した。
「怖かったでしょう」
心配そうな目でみてくる。本当はとても優しい子なんだな、と感じた。
「今は、大丈夫です」
少し強がってみた。
「僕はなぜ助かったのでしょうか」
「昨日部屋に上がらせてもらったとき一応結界をはっておいたから、それかもしれません」
「結界!!!」
僕はほとんど感動した。憧れのまなざしでユレさんを見つめた。
「ありがとうございます。」
「えっ、まぁ運がよかったですね」
ユレさんはすこし照れたようだった。
「それで、今後僕はどうしたらいいんでしょうか、また現れたりするんじゃないでしょうか」
僕が一番気になってしょうがないことだ。
「私は会ってふっとばしたいんだけどね。黒場さんは狙われてると思った方がいい。とにかく逃げることを考えて」
うすうす感ずいていたことだが、ユレさんにそれを言われるとぞっとした。
「逃げるって、あいては悪魔ですよ。飛んで追いかけてきますよ」
「飛ぶだけじゃないけどね」
ユレさんは淡々と言う。僕は軽く絶望した。どうしようもないじゃないか…
「僕、まったく無防備な餌なんですね…、一方的に狩られる獲物なんですね…」
「私できる限りの範囲で、黒場さんを守るつもりです」
そういう彼女の言葉や態度はどこか、事務的に感じたが、今の僕を感激させるのに十分だった。
「ほんとうにありがとうございます」
内田ユレさん。まちがいなく僕の生涯で一番の恩人になるだろう。
「僕もなにかお手伝いさせてください。」
教室 放課後
「黒場」
七瀬が話しかけてきた。
「昼休みどこに行ったの?」
「別に」
答えながら鞄に教科書を詰め込んで、立ち上がる。今はおしゃべりする気分でもない。
「帰るの?なんかようでも?急いでるみたいだけど」
「あるよ。最近忙しくなったんだよ」
「へー。そういえば帰りは一人になったわけか。気を付けて」
校門をでると、大勢と同級生たちの姿が見えた。みんな何事もない、いつもの帰り道を往く。みんなは大きな流れの中で一緒に進んでいる。僕もその中にいたはずなのに、ふとしたことから今は落ちこぼれてしまった。僕は急に心細い気分になった。
内田はどうだったんだろう?どう思ってたんだろう?
気づいたら、周りは自分一人になっていた。迷子の子供ような気持ちを抑えて家まで走った。
家について一息いれる。窓のカーテンをしめたままだった。開けようとはとても思わない。服を着替え、かるく櫛を入れて、顔を洗って、またすぐに家をでた。
A駅前
駅前にはすでにユレさんが制服姿でたたずんでいた。
「今日はよろしくお願いしますユレさん」
「はい」
「なんでも言ってください。僕もできることは」
ユレさんとの今日の予定は一つ隣の駅の霊場の乱れを調査しにいく、という内容だった。正直僕にできることはほぼないとのことだったが、何もしないで怯えて日常過ごすことはとてもできなかった。
ユレさんと並んで歩くと、やはり周りにどう映っているかが気になった。誰かに見られると、噂されるのだろうな… 、と考えていたら広場前のスーパーから出てきた七瀬が僕らを見ていた。驚いているのが遠くからでも分かった。こちらに近づいてくる。
「誰?」
「あいつ、僕と同じクラスの七瀬夕です」
それにしてもふつうこっちに駆け寄ろうとおもうかな?いや勝手に誤解してどっか行くよりましか。ちゃんと説明しなくては。
ん、待てなんて説明したらいい?
七瀬はニコニコして声をかけてきた。
「どうも黒場。それと内田君の妹さんでしょ」
「はい。あなたは兄の友達ですか」
「まぁ友達だよ。そっちの黒場ほど親しいわけじゃないけど」
「へぇ」
「二人は今からどこに行くの」
「…」
ユレさんは黙った。ここは僕が機転を利かしてうまく通り抜けよう。
「僕とユレさんは内田のお見舞いにいくんだよ。ねぇユレさん」
これしかないだろう。
「……」
なんでかユレさんに返事してもらえなかった。
「ああ。なるほどなるほど。黒場も思いやりある奴だね」
「まあね。ちょっとあいつの顔みてくるよ」
「見直したわ」
「私先に駅に行ってますので」
ユレさんは早足で行ってしまった。
「あっ。ユレさんすいません、待ってください僕も行きますから」
「なんというか、年下相手に腰が低いね」
呆れたように七瀬が言った。
「年下の子にどういう感じで相手したらいいか、わからないんだよ」
これは本音だった。
「もっとため口でいいんじゃない。硬い感じだと相手も疲れると思う」
「そうかい、ともかくもう行くから」
そういってユレさんを追いかけて駅に向かった。
追いついた時には、もうユレさんは電車に乗り込むところだった。一応電車に乗る前にこっちをチラッと見て、僕が追いついたことを確認していた。
ユレさんはドアの近くの座席に座った。僕はその座席の隣のドアの前に立った。
「すいません」
「見舞いになんて行きませんよ」
「はい」
B駅前
B駅をでてすぐに、ユレさんは言った。
「思ってたより酷い霊の乱れ方をしている」
「悪魔はこの辺にいるんじゃないんですか?」
「この辺にいて霊道を乱してたのは確実だけど。同じとこにじっとしない傾向があるから、今はもう移動してるとおもう。」
「なんか、クマ狩りみたいですね」
「…」
僕はユレさんの後についていき、二人で黙々歩き回った。ユレさんは色々な場所に行き、そのたびに何かを確認してるようだった。彼女は時折空に文字を書くような不思議なしぐさをしたり、小声でつぶやいたり、何もないところを睨んだりしていた。
あれは、きっと霊能力を使っているんだな、と思った。
一時間ぐらいで、一通り見て回ったらしく、僕らは駅前にもどってきた。
「終わりですか?」
「…はい」
「何かわかりましたか?」
ユレさんは一瞬心底辛そうな表情をしていた。それから顔をあげて毅然と答えた。
「特には」
「まったくですか」
「いや、ちょっとは」
「そうですか」
彼女は無表情で遠くを見ていた。
「追いかけても、すぐに逃げるんです」
「それじゃ、もしかしてこっちから見つけて追い詰めるのは難しい?」
「…はい」
長い沈黙の後、彼女は不思議な事を言いだした。
「黒場さんすいません」
「えっなにで?」
「こんなの、期待はずれでしょ?」
「いえ」
「でもあいつは私が必ず倒しますから」
そう言う彼女は苦しそうにみえた。悪魔とたたかうって一体どういうものなのだろうか?兄がいきなり倒れて目が覚めないとはどんな気持ちだろうか…、しかも僕を気遣ってくれているのだから、僕は情けなくて笑てくる。
「ちょっと待ってて」
ふと、ナイスな気遣いを思いつき、自販機に向かって駆け出す。もどってきて買ってきたお茶をユレさんに渡す、彼女は小声でお礼を言ってそれに口を付ける。
僕は自分の分のお茶を呑みながら呑気を装いって喋る。
「それでは今このあたりにいないというわけですね」
「痕跡を探ってるんです、それにエンカウントするとしたら夜ですし」
「そうなんですか」
「平気そうですね、怖くないんですか?」
ユレさんは意外そうに聞いてきた。
「怖いから、ユレさんを全力でお手伝いしてるんです。おかしいですか?」
「だけど、普通の人の力じゃなんの手伝いにもならないんですが…」
「えっ…僕邪魔ですか?」
「…邪魔ではないですけど」
まいったな。本音言うと部屋にひきこもっているより、彼女のそばにひっついていたほうが守ってもらえそうで、ずっと心休って安心できる。あの部屋にひとりいるのは怖かった。
「黒場さん。すいませんけど、ちょっとここにいてください。」
「えっなんで」
「あっ、駄目だ。まいったな」
誰かこちらに歩いてきた。僕はとっさにユレさんとちょっと距離をとって、携帯をいじるふりをした。
「こんばんは」
「ユレ、何やってんの」
子供の声だった。ちらっと盗み見たら。同級生のお友達のようだった。
「別に」
「別にって」
ユレさんは露骨にめんどくさそうだった。
「その、元気出してね。大変だろうけど」
「大丈夫。ありがとう」
「ん、それで何してたの」
「別に」
「…」
不幸そうな人がよくやるような、伏せ目で疲れたような声で応じてユレさんは相手を黙らせた。
「それじゃまた明日ね」
「うん」
相手は本気で同情してるようだったし、ユレさんも本当に疲れているようだった。
その後、お友達が完全立ち去ってからようやく彼女に近づく。
「黒場さん、もしかして二人でいるところ見られたかもしれません」
「そうですか。そんな風に見えませんでしたが」
「私にはそんなふうに見えました。どこか探ってくるような感じがしましたね」
「え、お友達じゃないんですか」
「いえ友達ですよ」
「黒場さん、私は夜にもう一度このあたりを回るつもりですけど…」
「僕も行きますよ」
僕は急いでそう言った。
「そうですか。無理に私を手伝わなくてもいいんですよ」
「一人で部屋にいる方が恐怖ですから…」
「そうですね。たしかに」
僕は、今夜ですべての決着がつくように祈った。というかそうならなかったら今後どうなるのだろう?僕の未来は暗黒じゃないか。
夜11時
彼女が待ち合わせに指定した時間は今日が終わった後、明日の0時だった。さすがにもっと浅い時間だと予想してたので、驚いた。僕は無様にも悪魔に襲われる恐怖心からその時間まで一緒にいたいとユレさんに懇願した。すると彼女はやや考えてから、自分の準備が済み次第連絡してできる限り僕と一緒にいる、という段取りになった。11時ごろ連絡が来て、部屋を飛び出した。
約束の場所に向かう。家の前から明るい大通りにでるまでの、わずかな暗い道に恐怖する。
ほんとに、なんてことになったんだ。
僕にできることはなんだろう。内田の妹を元気づけることか?彼女は明らかに辛そうだった。
僕らはまだ出会ったばかしだし、まだまだ打ち解けてないんだよな…
気軽に声をかければいいのだろうか。親しみのもてるお兄さんの友達の黒場さんだな。
「こんばんはユレさん」「こんばんは」
彼女が初めてに言ったことは、以外にも朗報と言えた。
「やっぱりこの近くにいると感じました。」
それを聞いて少し緊張し、ごくっと唾を呑む。ユレさんは深夜の街並みに目を向ける。表情が昼間より真剣になっていた。
「それでは、もうすこし暗くなってから探しに行きましょう」
もう十分暗いと思ったが、それは言わなかった。
「それじゃ、落ち着ける場所でお茶でものもうか」
僕は笑顔を作ってそう言った。僕には、もうすこし仲良くなったほうが彼女の負担が減るだろうという思いがあった。
「いや、別に気をつかわないでください」
ユレさんは悩む様子を一切みせず、さっと断りを入れてきた。
「いや、そういわず。ファミレスでも入りましょうよ」
僕はなぜかむきになった。
「いいですって」
まったく、こっちの方をみないで彼女は言った。
「なんでも奢るよ。ジュースのみたくない?」
彼女はすばやく振り返って彼女は鋭く僕を睨む、僕は笑顔がひきつった。なにか癇に障ったようだった。
「そこまでいうのなら、良いでしょう店に入って、なにか飲みましょう」
テーブル越しに向かい合って、改めて内田の妹をみる。
彼女はくっきりとした輪郭をもった都会的な顔をしていた。雑多な刺激に対する徹底した無感情、冷淡さが示されているような、表情一つを引き出すのにも手ごわそうなそんな印象を受けた。
彼女は明らかに僕と話をしたくなさそうだった。
僕もなにか話す気がなくなってしまい。茫然と今の自分の状況を考えていた。
最悪死ぬのかもしれない、生きる残るためにどのような努力をするべきかがはっきりとしない、目の前の人次第な自分の人生、ガラス越しにみえる真っ暗な町がやたら不思議なものにみえた。
よく考えたら、いつでも死ぬことなんてありえたし、これからもそうだ。みえない何かが人を襲う。見えない以上対抗しようがなく、そういうのに対して怯えるなんておかしいことじゃないのか。
そんなことを思いながらほっとコーヒーをすする。
ユレさんのことを完全にわすれていたが、逆に気をひいたらしい。
「落ち着いていますね」
「あ、まあ」
「よかったです」
そういえば、ユレさんと打ち解けて仲良くなって元気づける、とか考えていたことを思い出した。さっきまで考えていたことの影響か、もうそんなつもりがなくなった。むしろ素直な自分の想いをぶつけてみたいと思った。
「僕が死ぬ場合、不審死になりますか?」
「いきなりどうしましたか?」
ちょっと笑って彼女は言った
「私がしっかり守ります」
「ユレさんが守れなくて僕が攻撃をうけたら、その霊的な攻撃ですけど、その場合どうなるんです」
彼女は無表情になった。少し間をあけて答えた
「霊の攻撃による損傷にも段階があって、いきなり死ぬわけでもないですよ」
「最悪死ぬわけですね。それはどのくらい起こるんですか?」
「滅多に。だけど、起こらないなんていいませんけどね。それと死ぬ以上に性質の悪い攻撃もあります」
「厄介なんですね」
「はい、とこで黒場さんは私を信じてくれてないんですか?」
「正直に言うと、自分が仮に死んでしまっても、自分には見えないものによって死ぬのだったら、そう怖がることじゃない気がする」
「いや、違うな。怖いんだけど、自分にとってどうしようもないことだから…、ただ受け入れるべき、というか…」
「黒場さんは霊的なものに対して完全に無防備で、どうすることもできません。素質がまったくないのです」
「でも一つだけできることがあります」
「それって僕があなたを信じることだろ」
彼女はこの答えを挑発と受け取ったみたいだった。ふー、と息を小さくはいてから彼女は言い出した。
「そっちが協力したいと無理にいってきたのに」
「もちろん僕はあなたに協力しますよ。しないよりしてみるほうがいいと思うから」
「なるほど、いまのところは信じてやってみようという、感じですか」
僕はほっとコーヒーに口を付けた
「なんか今ようやく悪魔に襲われてから、はじめて冷静に考えることができました」
「よく落ち着いていられるますね」
「まぁ僕自身はなにもできないってわかりきってるもの。その点ユレさんは大変そうだって思うよ」
「それでも気遣いは無用ですよ」
「もうよけいなことは言わないよ」
その後はお互い無言で、窓の外をみたり、飲み物のんだりして時間を流した。
「これから出発しますが、私の協力をするか、私の話を聞いた後でもう一度考えてみてください」
「わかった」
「まず、黒場さんはこれから私がいいと言うまで私の指示に必ず従ってください」
「いいよ」
「いや、最後まで聞いてください。私の指示には黒場さんの安全を第一に考えていないものがあることもありえるのです」
「えっ」
「私たちの目標は悪魔をやっつけることですからね。そのために黒場さんがいくらか危険な目にあうわけです。これは覚悟していたことでしょう。で、黒場さんはどの程度までの危険を甘受してもらえるのでしょうか?」
僕はすぐに最適な答えが思いついた
「それは、君の危険と同程度だ」
「わかりました。それじゃその条件で指示をだすので黒場さん私に協力してください」
彼女は強い力のこもった目でじっと僕をみた。
「ユレさんと僕の霊に対する強さの違いを考慮に入れた上で同じ程度ってことだよ?」
「もちろん」
「それならばOK」
僕らはファミレスをでた。町に見られる人も車も入店前より明らかに減っていた。
僕は気づくとなんだかナーバスな気分になっていた。それを見たユレさんがさっきの話にすこし付け加えて言った。
「と言っても理性的な黒場さんは、本当にその条件どうりかは私以外わからないのだから、この交渉には大して意味がないと思ってるのでしょうけど」
「いや、君は内田の妹だからそこまで疑ってないよ」
本当はそんなこと少しもなかった。すると彼女は即座に答えた。
「それは嘘でしょう」
なかなか鋭いやつだな、と思った。




