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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
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どこまでも蒼い藍色

作者: らん
掲載日:2016/08/03

blueシリーズ

 藍色の瞳を持つ一族の物語。長年、暖め続け、あまりにも暖め期間が長かった為に、初めの主人公から実に、七世代に渡る話となってしまいました。


藍の章

 1世代目の藍あいが主人公となる作品です。全部で7作あります。

 ・・・が、主人公はあくまでも藍なものの、その彼を別の人間を通して見た一人称となっています。

  毎回、その語り部は変わっていくので、一つ一つが全く違う話です。

 その為、短編扱いにさせて頂きました。


 編集等に慣れましたら、分かり易くまとめさせて頂きます。


 一応その要素が無きにしも非ず・・・なので、BL扱いにしてあります。

 ■ プロローグ ■


 ********************


『たか君と花のせい』


  あるところに、たか君という男の子がいました。

  たか君のおうちには、小さな温室があります。

  温室には、たくさんのお花が咲いていて、

  そのお花たちに水をあげるのが、たか君のしごとでした。

  ある日、たか君が水をあげていると、

  お花たちの中に、小さな男の子が眠っているのを見つけました。

  長い髪をみつあみにした、かわいらしい男の子です。

 「きみは、だぁれ?」

  たか君の声に、男の子はびっくりして起き上がると、

  じっとたか君を見つめました。

  その目は、とても悲しそうです。

 「みんなが、ボクをいじめるんだ。」

  そう言って、男の子は泣きます。

  どうやら、男の子は花のせいのようです。

  何の花なのかわからないので、

  仲間はずれにされてしまったのでした。


 ********************


「高哉さんっ!」

 やや、怒りのこもった声で呼ばれ、俺は目覚めた。

 どうやら、仕事の途中で、机に突っ伏してしまったらしい。

 顔を上げると、目の前に、可愛らしい藍の顔があった。

「これ・・・、ひょっとして、僕のことですか?」

 顔に、原稿用紙が突きつけられる。

 それは、昨夜、練りだした話の書き始めだった。

「ん・・・・・・ああ・・・。そ・・・だけど?」

 間違ってはいなかった。

 確かに、この話は藍がモデルだ。

 美杉藍・・・。小学六年生、11歳。

 髪を長くのばし、可憐な少女にしか見えないが、立派に男の子・・・と言う詐欺的行為を平然とやっている子である。

 この子は、昨年の十月、我が家の温室で傷だらけで寝ているのを、俺が見つけた。

 ソファーに運んで、手当しつつ待つこと二時間。

 目覚めた藍は泣き出した。

 藍は、親父さんの仕事の関係で、近くに越してきたばかりだった。

 当然のごとく、転校と言うことになったのだが、そのフェミニストと容姿のためか、女子に人気が出、男子の反感を買った。

 まったく・・・、最近のガキはマセている。

 それでもうまく嫌がらせをかわしていた藍だったが、放課後、弾みで付いた傷がまずかった。

 有るか無いかぐらいの傷は、藍をめいいっぱい怒らせた。

「僕の顔は母さんの形見なんです。・・・絶対に守る・・・と決めていたのに・・・。悔しい・・・守りきれなかった。」

 喧嘩をして、余計に傷を増やした顔を涙で濡らしつつ、藍は泣きじゃくった。

 しかし、今から思えば、この喧嘩が良かったらしい・・・・・・。

 これがきっかけで、藍は学校になじめたのだ。

 とどのつまり、今では笑い話であり、藍にとっては汚点となっている(らしい・・・・・・)。

「酷いですよ・・・。あの事は、もう忘れたいのに・・・。こんな形のあるモノにして・・・・・・。」

 原稿とにらめっこしつつ、藍は顔をゆがませた。

 どうやら既に諦めているらしい・・・・・・。

「藍。・・・その花の精、何の花がいい?お前の好きなの決めていいぜ・・・。」

 片手で頭を支えつつ、俺は、脇に立つ藍を見上げた。

 ちょっとしたご機嫌取りだ。

 決して、何の花にするか、決めかねているわけじゃない。

 そりゃ・・・昨夜はそれで悩んじゃいたが・・・。

「ひまわりっ!」

 しばらくして、元気良く藍が答えた。

「・・・ひまわり・・・か・・・・・・。」

「そう・・・。ひまわりがいいです。」

 ニッコリと満身の笑顔を見せる藍は、確かにひまわりだった。




 ■ どこまでも蒼い藍色 ■


 ********************


  花のせいの涙が、持っていた大きなふくろの上に落ちます。

  すると、ふしぎなことが起きました。

  ふくろに穴があき、そこから小さな芽が顔を出したのです。

  花のせいは、びっくりして泣きやみます。

 「ボクの花が育ち始めたんだ。」

  ふくろを抱えて、花のせいはつぶやきました。

  それを見て、たか君が思いついたように言います。

 「ぼくがきみの友だちになってあげるよ。お花も育ててあげる。」

  にっこり笑うたか君に、花のせいは初めて笑って見せたのでした。

  慰めて、手当までしてやったせいか、藍は俺になつき、毎日学校帰りに寄るようになった。

  一見大人しく・・・いや、大人びて見える藍だったが、中身はまさしく少年だった。

  明るく元気に笑い、普通の子と全く変わらない。

  いや、むしろ、それ以上に無邪気で、純粋すぎるほどだ。

  最初、鬱陶しく感じていた俺も、いつしか藍の訪れを待つようになっていた。

  その子供らしい・・・純粋な心に、強く・・・・・・惹かれていた。


 ********************


「藍・・・?どうした?・・・・・・忘れモンか?」

 五時に帰っていった藍が、七時半頃、再び訪ねてきた。

 真夏とは言え、七時半はだいぶ薄暗い。

 到底、子供が出歩いていい時間じゃないんだが・・・。

 藍は、無言のまま、下を向いている。

「麦茶でも入れてやる。応接で待ってな・・・。」

 俺の言葉に、藍はただ頷くと、応接に向かった。

 それは、いつもの藍らしかぬ姿・・・。

 元気が無いだけじゃない。

 無邪気さも、子供らしさも、どこか遠くへ忘れてきてしまったようだ。

 盆片手に部屋に入ると、先程までついていたテレビが消えていた。

 確か・・・元アイドルの俳優と、つい最近やっとぱっとしだした女優との、緊急婚約会見だかをやっていたはずだ。

「高哉さんも、ああいうのを見るんですね。」

 グラスを置く俺に、あの日と同じソファーに座っていた藍が、俯いたまま、静かにそう言った。

 その口調は冷たい。

 本当に・・・・・・どうしちまったんだろう・・・・・・。

「いや・・・。ただつけていただけだ。・・・全く、ああいうのは昼のワイドショーだけで十分なのにな・・・・・・。」

 気にしないよう・・・いつも通りの対応をし、俺は向かい側に座る。

 静かな沈黙が流れた。

 藍も、俺も、黙ったまま、麦茶だけを口にしている。

「今夜、泊まってもいいですか・・・?」

 グラスが空になった頃、藍はそう言って、顔を上げた。

 その瞳は藍色・・・・・・。

 藍の色・・・。

 しかし、それはいつもの瞳じゃなかった。

 強いて言うなら、雲の全くない真夏の空・・・。

 まさしく、『蒼』・・・・・・と、言われる色だった。



 ********************


  花いっぱいの温室には、たねをうえる場所はありません。

  たか君は、庭にたねをうえました。

  それから毎日、たか君は水をあげに来ては、

  花のせいと楽しくお話をします。

  芽はどんどん大きくなっていきました。

  それにあわせて、花のせいも大きくなっていきます。

  どんどん、どんどん、

  大きく、大きく。

  ある日、とうとう大きな花が咲きました。

  きいろい、太陽のような花です。

 「きみは、ひまわりだったんだね。」

  たか君は、もう自分よりも大きくなった花のせいを見上げて言いました。

  花のせいは、にっこりと笑います。

  そして、太陽を、まぶしそうに見上げるのでした。


 ********************


 ふと、温室に電気がついた。

 俺は書斎にいるのだから、藍・・・だ。

 書斎を出ると、温室に向かう。



 藍の作ってくれた夕飯は絶品だった。

 誰かに教わったのか・・・と聞くと、独学であると藍は言った。

 母親が、自分を産んですぐに亡くなってしまった為に、家事一般はいつの頃からか、自分仕事になっていた・・・と以前聞いた事がある。

 七歳の時、父親も事故でなくし、今の義父に引き取られた後も、それは続いているという。

「大好きな方々に、食事を作って差し上げるのが大好きなんです。」

 そう言っていた藍の事だから、それこそ必死で勉強したのだろう。

 今日だって、久しぶりに親父さんとの夕食だから・・・と、ご馳走を作るために、早めに帰ったんだ。

「電話があって・・・。・・・しばらく帰れなくなった・・・・・・って・・・。」

 食べる手を休めて、藍は悲しげにそう言った。

 ひょっとして、そのせいで?

 ・・・・・・とも思ったが、『予定はあくまで未定』の親父さん相手に“仕方がありません・・・。”の一言ですませる藍からは考えにくい。

 今の藍は、太陽を失ったひまわりだ。

 悲しげに、ひたすら俯いて、生気の全くないひまわり・・・。

 あいつの太陽は、何処にいっちまったんだろう・・・・・・。

 聞きたくても・・・・・・、

 俺は、その『太陽』を知らない・・・・・・・・・。



 藍は、温室内の長椅子に腰掛けていた。

 虚ろな表情で、ただまっすぐと正面を見つめている。

 その視線上にはラベンダー。

 今の藍の瞳と同じ・・・蒼色を、淡く花びらに持つ花・・・。

「・・・何も・・・聞かないんですね・・・・・・。」

 俺の存在に気付いたのか、藍が口だけを動かした。

 パジャマ用に・・・と貸したTシャツの袖を、肩まで捲っているその姿に、いつもの藍らしさは一欠片もなく・・・・・・、

 紛れもない『少年』だけがそこに存在していた。

 それは、とても・・・・・・不思議な光景で・・・・・・。

 不謹慎にも、俺は、それを綺麗だと感じてしまった。

 そっと近づき、俺は、藍の隣に、腰掛ける。

 藍の視線がゆっくりと動き、俺を捕らえるのが分かった。

「言いたくなったら・・・・・・、言えばいい・・・。」

 聞いても、無責任なことしか言えない・・・。

 聞かないんじゃなく・・・・・・、

 ・・・聞けなかった・・・・・・・・・。

「・・・俺は、・・・ここにいるから・・・・・・。」

 俺に言えるのは飾る言葉だけ・・・。

 見つめ返す俺の視界の中で、藍は、その瞳に涙をあふれさせた。

「・・・・・・好き・・・だったんです・・・。」

 頬に伝う涙を拭おうともせず、ひたすら目を見開く。

「・・・・・・僕は・・・ただ・・・・・・好きなだけ・・・だったんです・・・・・・。」

 静かに・・・それでいて、はっきりと、藍は言葉を綴った。

 小さな体を包み込むと、肩の震えがいやと言うほどわかり、思わず腕に力を込める。

 少しでも・・・ほんの僅かでもいいから・・・・・・、

 ・・・・・・その震えを止めたかった。

「・・・わかっていました・・・・・・。あの人にとって、僕は身代わりでしかない・・・って・・・。・・・それでも良かったんです・・・・・・。それでも・・・・・・あの人は、僕を受け入れてくれた・・・・・・から・・・。」

 俺の腕の中で、小さくなって震える藍は、紛れもなく子供だった。

 なのに、その口から綴られる言葉は、その姿にほど遠い・・・。

「バカですよね・・・。本物は、永遠に失われているのだから・・・・・・身代わりでも『永遠』になれる・・・って・・・・・・そう思っていたんです。」

 しがみつく藍の手が、震える。

「・・・・・・思い出でしかない本命は、いずれ消えるか、薄れるしかないと言うのに・・・・・・。」

 震えが止まらない・・・・・・。

 ひまわりは・・・・・・・・・、

 ひまわりは、太陽に恋をしていたんだ。

 明らかな片想い・・・・・・。

 太陽を失ったひまわりは、

 ・・・一体どうなるんだろう・・・・・・。

 どうなれって言うんだ?

「やめよう・・・藍!」

 気付いた時、俺は、そう口走っていた。

 腕の中の藍が、驚いたように視線を投げかけてくる。

「『ひまわり』やめよう・・・。お前は、ひまわりじゃない。ひまわりになんか、なっちゃいけないんだ!太陽を失っても、強く生きていける花にしよう・・・。自分自身の力で咲ける花にしよう・・・・・・。」

 藍の上に、滴が一つ落ちた。

 それで気付く。

 俺もまた、涙を流していたことに・・・・・・。

 泣くなんて、何年ぶりのことだろう・・・。

 片手で目を覆った俺を、藍はじっと見つめていた。

 全く情けない話だ・・・・・・。

「高哉さん・・・・・・。」

 声と共に、藍の手が頬に伸びてきた。

 指の隙間から、藍が穏やかに笑うのが見える。

「びっくりして、涙が止まってしまいました。」

 慰めるべき相手に慰められるのは、更に情けない。

 でも・・・・・・藍の笑顔が見れたから・・・。

 まあ・・・・・・いっか・・・。

 俺は、笑い返してみせると、藍を抱きしめた。



 暑い・・・。

 蝉の声が、更に暑く感じさせる。

 それでも、熱を追い出している温室は、外に比べ、幾分かマシだ。

 俺は、蛇口をひねると、ホースの先へと急いだ。

 あの夜から一週間。

 藍が来ない。

 夏休みが始まっているにも関わらず・・・だ。

 まだ・・・・・・何か、引きずっているんだろうか・・・。

 原稿は全て、ゴミ箱に放り込んだ。

 原稿用紙は、真っ白なまま、藍の訪れを待っている。

 準備万端なのに、藍だけがいなかった。

 こうなって、初めて気付く。

 俺は、藍のことを何も知らない。

 住んでいる所さえ、知らないんだ。

 笑い話にもなりゃしない。

 ふと、車の音がし、家の前で止まった。

 車で訪ねてくるのは、担当の岡田ぐらいだ。

 書斎に俺が居ない事が分かれば、いずれこっちに来るだろう。

 ・・・・・・・・・にしても、いつも〆切より早めに訪ねてくるが、今日とはまた早い。

 あと五日もあるぜ・・・・・・。

 そんな呑気なことを考えていた時だった。

 後方の入口付近から声がした。

「高哉さんっ!」

 その声は藍・・・・・・。

 元気いっぱいの藍の声・・・。

 振り返ると、そこには確かに藍が居た。

 可愛らしい服に包まれて、人形のように着飾った藍が・・・・・・。

「お・・・前・・・。何だ?その異常なまでに愛くるしい格好は・・・。」

 待ちわびた再会には似つかわしくない言葉だったが、俺が悪い訳じゃない。

 藍が悪いんだ。

「高哉さんもそう思います?僕も、これは『可愛い系』だと思うんですが・・・あまりにも、かあさんが綺麗だと着飾るモノで・・・・・・。」

 思い出した・・・。

 藍は、綺麗と言われると喜ぶんだ。

 ・・・っと、それはさておき・・・・・・。

「『かあさん』・・・・・・って?」

 蛇口をひねって、水を止めつつ、俺は訊ねた。

「実は・・・義父さんが、今度、結婚するんです。」

「なーる・・・。じゃ、その相手の・・・・・・。」

「いえっ!」

 藍は、強く首を横に振る。

「義父さんは、独身の身で僕を引き取って下さったんです。本当に、感謝しています。だから・・・・・・。だから、『コブ』にはなりたくないんです。・・・・・・丁度、前々から義父さんの兄夫婦の方々が、引き取りたいとおっしゃって頂いていたので・・・・・・。・・・僕は・・・良い機会だから・・・と・・・・・・。」

 声に、元気がなくなっていくのが分かった。

 人の為に、自分を押し殺してしまうのが藍・・・。

 それで、本当にいいのか・・・・・・?

 声とは裏腹に、藍は笑ってみせる。

「妹が出来たんです。・・・あと・・・年内にはもう一人・・・。・・・血も繋がっていないですし、籍も移してしまったので、正式にはイトコになるんですけど・・・。『お兄さん』になってくれっておっしゃって下さって・・・。夢みたいです。」

 その瞳にいつもの色はない。

 かと言って、あの夜の蒼でもなかった。

 強いて言うなら、どこまでも蒼い藍色。

 どこか・・・悲しみを秘めた色。

「藍ちゃん・・・。パパ達待ってるよぉー。」

 ふいに、可愛らしい女の子が顔を覗かせた。

 六歳ぐらいだろうか・・・・・・。

『妹』だ・・・・・・。

「瑠璃・・・。」

 藍は、女の子に近寄ると、ちょっとかがんでみせる。

「すみません・・・。少し、話し込んでしまったんです。すぐ行きますから、先に行って待っていて下さいませんか?」

「うん。はやくね。」

 女の子は、頬を赤らめ、元気良く駆け出して行った。

 どうやら、新しい『お兄ちゃん』が相当お気に入りらしい。

「高哉さん・・・。」

 妹の駆けていく姿を見ながら、藍は言う。

「僕、転校するんです・・・。」

 それは、別れの言葉だった。

 突然なはずなのに、何故かすんなりと、俺は受け止めていた。

 何故かは分からない・・・・・・。

 ただ、それは、これからも一生分からない・・・・・・。

 それだけが分かった。

「・・・・・・そっか・・・・・・。頑張れよ・・・。」

 それ以上、何を言えと言うのだろうか・・・。

 何を言えると言うんだろう・・・・・・。

 頭をぽんぽん・・・としてやると、藍は駆け出す。

 俺を見ることなく・・・・・・、

 藍は駆けていった。



 温室内へときびすを返した時、ふと、蒼が目に入る。

 ラベンダー・・・・・・。

 あの夜、藍が見ていた花・・・。

 瞬間、俺は植木鉢片手に、温室を飛び出した。

 まだ、間に合うはず・・・。

 案の定、俺は、藍に追いついた。

 しかし、それは、藍の乗った車を、俺とは別の人物が止めた為だった。

「藍ーっ!」

 車を降りて、その人物と向かい合っていた藍が、こちらを振り返る。

 それは、明らかに驚きの顔・・・。

「・・・・・・やる・・・・・・。」

 そばに駆け寄り、植木鉢を押しつけると、藍は更に驚いたようだった。

 まあ、当たり前と言えば、当たり前かも知れない。

「・・・ありがとう・・・・・・ございます・・・。」

 少し間をおき、藍は植木鉢を受け取った。

「・・・・・・この花は、母さんが一番好きだった花なんです・・・。」

 そう・・・言って、そっと植木鉢を抱きしめる。

 それこそ、一番の宝物のように・・・・・・。

 リボンでもかけてやれば良かったな・・・。

 そんな後悔がポツンと残る。

「・・・・・・僕は・・・。・・・母さんじゃない・・・。」

 花を見つめたまま、藍は言う。

「藍・・・?」

「だから・・・。だから、僕は・・・。」

 ゆっくりと、藍は顔を上げ、俺を見た。

「・・・・・・ひまわり・・・で・・・・・・いいです・・・。」

 ふんわりと・・・。

 本当に、ふんわりと、笑顔を紡ぎだしていくのが解る。

「僕は、・・・ひまわりが、大好きです。」

 それは・・・・・・、紛れもない、ひまわり・・・・・・。

 ・・・・・・そのものだった・・・・・・。



 ■ エピローグ ■


 ********************


  花のせいは、太陽を見つめたままでした。

  決して、たか君を見てくれません。

  たか君は、花のせいに会いに行くのをやめてしまいました。

  ひまわりに、水もあげないままです。

  ある日、たか君はしんぱいになって、

  花のせいを見に行きました。

  すると、どうでしょう。

  ひまわりは、下を向いたまま、元気がありません。

  花のせいはその下でうずくまっています。

 「ごめんね・・・。ぼくのせいだ・・・。

  ぼくのせいで元気がなくなっちゃったんだ。」

  あわてて水をあげますが、ひまわりは下を向いたままです。

 「ごめんね。ごめんね。」

  泣きじゃくるたか君に、花のせいは言います。

 「たか君は悪くないよ。

  もう・・・咲いていられる時間がなくなっちゃったんだ。」

 「かれちゃうの?」

 「うん・・・。でもね、もういいんだ。」

  花のせいは、かなしげに笑いました。

 「大好きだったんだ。

  ほんとうに、太陽さんが大好きだったんだ。

  でもね、太陽さんは、遠すぎてきづいてくれなかった。

  かなしかったけど、つらかったけど、こうかいしてないよ。

  ・・・ひまわりで良かった。太陽さんに会えた。

  ・・・たか君、ありがとう・・・・・・ごめんね・・・。」

  そう言って、花のせいは消えていきました。

  温室のお花たちに水をあげたあと、

  たか君は、庭に水をまきます。

  それが、たか君のおしごとです。

  今年も、たか君のおうちの庭には、

  ひまわりがいっぱい咲きました。


   おしまい

 

 ********************


 やぁ~っと終わった・・・。

 背もたれに、思いっきり体をあずける。

 机上には、半分がしわになった原稿用紙の束。

「『たか君と花のせい』か・・・。」

 どうも、しっくりこない・・・・・・。

 体を起こすと、その上に、×を書いた。



「本当に、ありがとうございます・・・。・・・あと、ごめんなさい・・・。」

 その言葉を最後に、藍は去っていった。

 後に残されたのは、俺と・・・・・・、

 追いついた時、藍を引き留めていた人物────藍の前の義父・・・。

 それは驚く事に、あの夜テレビに出ていた俳優・・・美杉雪彦だった。

 彼は、車を見送ったあと、今度は俺をまじまじと見つめた。

「あの・・・・・・何か・・・?」

「いや・・・。あの子が懐くはずだと思ってね・・・。」

 そう言って、彼はやんわりと笑ってみせる。

「君の声・・・。俺の親友だった男にそっくりだ。・・・高野僚 と言う名を知っているかい?」

 それは、五・六年前に事故死した俳優の名だった。

 頷く俺に、彼は更に驚くべき事を言った。

「それが、あの子・・・藍の父親だよ・・・・・・。」

 と・・・・・・。

 つまり、最後の『ごめんなさい』は、そう言うことだったんだ。

 藍もまた、俺に身代わりを求めていた。

『父親』と言う身代わりを・・・。

 しかし・・・・・・どうして俺なんだ?

 藍には、美杉雪彦がいるじゃないか・・・。

 そう・・・考えた時、藍のとった妙な行動を思い出した。

 テレビを消し、『義父の相手=義母』を強く否定した。

 “母さんじゃない”・・・・・・あれは、誰に対する言葉だったのか・・・。

 そして、藍は離れていく・・・・・・。

 一つ一つのピースがはまってゆく・・・。

 彼は、身代わりにならなかったんだ・・・・・・。

「最低だな・・・・・・あんた・・・。」

 瞬間・・・彼は、酷く驚いたように俺を見た。

 俺に言う権利が無いのはわかっている。

 しかし、俺が言わなかったら、誰が言う・・・・・・?

 目をそらし、彼は俺に背を向ける。

「そんな事・・・・・・わかっているさ・・・。」

 そう・・・言い残し、彼は去っていった。

 目をそらす瞬間、彼の瞳が蒼く見えたのは気のせいだ。

 だから・・・・・・、・・・後悔なんてしてやらない・・・・・・。

 ひまわりを大好きだと言った藍・・・。

 あの時、確かに瞳はどこまでも蒼い藍色だったのだから・・・・・・。



 ×の横に、大きめの字で書く。

『ひまわりの初恋』と・・・。

 ひまわりは嫌いだ。

 真夏の・・・真っ青な蒼色の空も大っ嫌いだ。

 でも・・・・・・、

 藍に免じて・・・。

 あの・・・俺が惹かれた満面の笑顔に免じて・・・・・・。

 好きになってやるよ・・・。

 ・・・・・・なってやろうじゃねえかっ!

 バカヤロウっっ!!



  ■ Fin ■

この作品は個人サイト「色々くれよん」にも掲載しています。

 ※ 諸事情の為、コチラに掲載するにあたり、タイトルと本文を一部変えさせて頂いてあります。


BL要素、気付いていただけたでしょうか・・・。

ちなみに、精神上のつながりだけです。さすがに犯罪はいけません。

言い訳するようですが、私は腐っておりません。

この要素を入れたのも、今後のストーリーの構成上、必要だったからであって、書くのもこれが最初で最後です。(たぶん)

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