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町内勇者の変説  作者: 颯輝
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第5部?

翌朝、町内会長が地面から10cm浮いた状態で家に来た、どうやって移動してきたのだろうそんなことを思いながら話を聞くとそれは彼にとっては最も恐れていたことだった。


「この町唯一の鍛冶屋、その1人息子のアートよ、お前に勇者として魔王が引き起こしたと思われるこの現状を打破してもらうため、魔王のもとまで行ってもらう」

「…………」

嫌な予感が現実となりアートは言葉を失う、そんなのお構いなしといった風に町内会長は話を続ける。

「そしてその旅に同行する仲間として、あのぼっ……もとい元気いっぱいのイオカ・コンウォールを任命する」

「えっ!?」

アイツが一緒に来てくれるはずがないだろう、そう思ったアートは町内会長に質問をするが

「あのっちょっといいですか?」

「却下」

即答されてしまった。


「なお、彼女への通達は君からやっておいてくれ」

「えぇ……」

――この人、ただ彼女に関わりたくないだけだ。

町内会長の気持ちをなんとなく察したアートはそれ以上何も言わなかったが、彼もまだ旅に出るとは言っていない。

「えっと、その」

「却下」

「まだなに――」

「却下」


町内会長は有無を言わさないつもりらしい、アートはやりきれない気持ちでいっぱいだったが肩を落とし諦めた、これは頼み事などではなく決定事項なのだと。

連絡を終えた町内会長は、浮いた状態のまま息子さんに押されながら帰っていった。


「どうすっかなぁ」

旅に出なくてはいけないこともそうだが、このことをイオカに伝えなくてはいけないという壁に早速ぶつかっていた。

頭を抱えていると父親がいきなり大声で

「やはりな!」

と言ってアートに近づいていく。

「こんな時のために準備はできているぞ!」

「…………」

「む? どうしたアート、元気がないぞ!」

「うっさいなぁ、今考え事してんだよ」

頭の中がいろんなことでいっぱいになっていたからか、少しイラついた声を出す。

「そんなことでは立派な勇者になれんぞ!」

色々な思考が頭の中で竜巻のようにぐるぐる回っている、そんな彼にも少し限界が来たらしく。

「……そうだな、その通りだな! 親父!」

もはや半ばヤケクソで元気を出すアート、

――考えるのは後にして今は彼女にどうやってこれを伝えるかだ

そう思っていると玄関先に最大の難関が自らやってきた。

「アート? いるの~?」

「っ!?」

声をきいた途端に思わず近くにあった大きめの棚の中に隠れてしまう。


「あれ? 居ない……」

何故だか父親まで一緒に隠れている、いくら棚が大きいとはいえ狭い。

しかし数秒経たずに棚の扉が開けられた、眉間にしわを寄せたイオカと目が合う。


「なにしてんの? こんなところで」

「いやっその……ねっ?」

「いいから出てきなよ、親父さんまで一緒になってまったく」

「はい」

サラッと流され棚から引きずり出されるアート、父親は自分でさっさと出てきて音も立てずどこかに行ってしまった。

「で? なにしてたん?」

「へっ? いやだからその……」

言葉に詰まっていると彼女がジトーッとした視線を向けてくる。

「ねぇ、アタシ隠し事されんのが嫌いなの知ってるよね?」

「はっはい……存じております」

「じゃあ、何があったの? とっとと話す!」

「あぁ、実は――」

彼女の凄まじい気迫に負け、理由を話し出す。


「ああああああんだってえええええ!?」

一通り事情をきいた彼女は案の定、怒り始め町内会長が住んでいる家に走り出した。

アートも少し遅れて後を追う、彼が家についた時にはイオカは町内会長の胸ぐらをつかんで凄んでいた。


「どういうこと? 他人に内緒でこんなことを決めるだなんて、常識がなってないんじゃないの?」

「んへぇ~」

彼女の勢いに情けない声を出す町内会長、すかさず止めに入るアートだったが。

「おいおい、さすがにやりすぎだろ!」

「うるさい! 引っ込んでろ!」

「はい、すみません」

無駄だった、今の彼女には何を言っても効果はないだろう。

「じっ……条件があるっそれを聞いてからでもいいだろう?」

「え? 条件?」


町内会長のその言葉にひとまず手を放すイオカ、落ち着きを取り戻しながらはなし始める。

「コホン、君が今までに引き起こしてきた暴力事件をすべてなかったことにしてあげよう」

「!? それはっ!」

条件の内容はそういったものだった、アートは呆れたがイオカは違ったようだ。


「……わかったよ、やってやるよ!」

その返事を聞きほっと胸をなでおろす町内会長とアート、ひとまずの危機は去った。

「じゃ、あとはよろしく頼む」

「どうも迷惑をかけました」


アートは町内会長に謝罪の礼をしイオカはというと、

「ぅおっしゃああああぃ!」

女の子とは思えない雄叫びをあげていた。


イオカと自分の家に戻ってきたアート、今後の事を彼女と話し合う予定だったが旅立つ準備はできているし、彼女はやる気に満ちているし、ほかに何が必要だろうか。

そのことを彼女に尋ねてみたが、かえってきた答えは

「全部アタシに任せろ!」

だった。


「いやいや、さすがにそういうわけにはいかんだろ」

「あん? アタシのことが信じられねえってのか?」

「そういうわけでもなく……」

「じゃあ、どういう事なんだよ?」

「一応、2人で行くように言われてるから単独での行動をせめて少なめに――」

「もしかしてあんた、怖いの?」

「!? そそそそそんなことナイヨ?」

図星をつかれ額に汗が滲む、慌てて否定したが逆効果だった。

「プッアッハハハハハハ!」

「笑うな!」

「ごめんごめん、だってその歳にもなって町の外に出るのが怖いって ンギャハハハハハ!」

また笑い始めるイオカ、さすがに傷ついたのかアートが少し拗ねてしまう。

「あーそうですよー自分は怖がっていますよー」

「ヒヒヒッごめんてば、もう笑わないから縮こまないの」

「どうせー自分は一度だってこの町の外に出たことなんてありませんよー」

「悪かったってばぁ」

そんなやり取りを見ていたのか、父親が話に入ってくる。

「おっ? どうしたんだコイツは?」

「なんかいじけちゃったみたいで」

「まったく、しょうがない奴だ!」

呆れながら父親がとんでもないことを言う。


「明日から旅立つというのに、そんな情けないことではダメだ!」

「……へっ? 今なんて?」

「む? だから明日から旅立つという――」

「明日ぁ!?」

「だから何度もそう言っているだろう」

サラッという父親の顔は困った奴を見る顔をしていた。


「あしっ明日なんて無理だ……」

「ずいぶんと急ね、アタシまだ何にも準備してないんだけど?」

「そっそうだまだイオカの準備が――」

「それなら俺が済ませておいた!」

「この野郎が!」

みるみるうちに逃げ道をふさがれたアートはその場に項垂れてしまう、イオカに背中をたたかれもう諦めろと言われている気がしたので彼は乾いた笑い声を出す。

「ハハ……ハハハハ」

ひとまず明日から彼らの旅が始まる、今日はそんな感じに終わりを告げた。

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