第4部?
ひとしきり笑ってすっきりしたのか、呼吸を整えて立ち上がるイオカ。
それにつられて項垂れていたアートも顔を上げる。
「じゃあ、そろそろ帰ろうかな」
「え? 掃除は?」
「面倒だしいいじゃん? 別に」
「いやいやだめだろ、また怒られるぞ?」
「そんときゃそんときだ」
「まったく……」
伸びをしながら言う彼女に対して呆れた声を出す。
いつも通りだった、小さい頃から周りの人間に迷惑をかけて大きくなったイオカに安心を感じたアートはふっと笑いかける。
「ん? なに笑ってんだよ」
「いや、なんでもない」
「変なの」
イオカはそれだけ言いアートと帰路に就く、二人並んで歩きながら改めて街の様子を見る。
先ほどよりは少しだけ落ち着いてきたのだろうか、人の姿はあまり見受けられない。
彼女を先に家へと送りアートも帰宅する。
「ただいまぁってまだ服着てないのかよ……」
「あぁおかえり! このあまりの美しさ故にな!」
「いいからはやくなにか着ろよバカ親父」
帰って早々おバカな光景を見てしまったアートは今日何度目かのため息をつく。
家の裏口から再び外へ出るアート、その理由はアホ毛の使い道を見つけるため。
ひとまず頭から外してみる、すると光を放ちながらアートの両手に握られるアホ毛。
そしてそこから目の前の木へと勢いよく切りつける、しかしまったく切れていない。
不思議に感じたアートはもう一度力を込めて木に攻撃を加える、だが結果はさっきと同じで一切傷もついていない。
「あれ? やっぱり剣じゃないのかな?」
「聖剣は魔を切ることかできん」
「うわあ!? 後ろからいきなり話しかけんなよ親父!」
背後からの声に驚き、振り返りながら声をあげる
その声の主は父親だがまだ服を着ていない。
「そんなことより話を聞け、これは重要な話だ」
「そっちが聞けよ……」
もはや指摘するのも疲れたアートはそれをスルーし会話を続ける。
「なあ、これって本当に聖剣ってやつなのか?」
「あぁ! 間違いないさ!」
「で、その聖剣は魔を切ることしかできないと?」
「そうだ!」
「何の役に立つんだよ! そんなの!」
思わず声をあげる、そして父親はそれに動じることなく話を始める。
「いま起きているこの状況も自然の出来事だと思うのか?」
「え? どういう意味だよ」
「こんなことができるのはこの世界でただ一人、魔力を自在に操ることができる存在『魔王』だけだ!」
「魔王?」
アートは訝しげな顔をしたが、その言葉には聞き覚えがあった。
小さい頃からよく聞かされていたつくり話だ。
「そんなもんどこにいるってんだよ」
「お前……まさかまだ作り話だと思っているのか?」
「だって実際そうだろ?」
「はぁ……」
「なんだよ?」
「いや、いい加減にこの町以外の事も知ったほういいんじゃないかと思ってな」
「余計なお世話だ」
ため息混じりにそう言われて少しムッとするアート、しかし町の外に出たことがあまりないのも事実なので父親から目を逸らしながら言い返す。
「大体、その『魔王』ってのが実在してるからなんだってんだ? 俺たちがどうにかできることじゃ……あっ!」
言葉の途中であることに気付く
「フフフ、ようやく気づいたか自分の使命に」
そう言って笑う父親の顔は、かなり悪そうな表情をしていた。
「アート、お前はいつか旅に出る時がくるだろう、だから今のうちに準備をしておくといい」
「いやいやいや、そんなことあるわけないだろ」
笑いながら言ったものの、彼の胸中は相当焦っていた。
――おいおい嘘だろ!? 俺が!? 旅に!? 出るっていうのか!?
「焦る気持ちはわかるが覚悟は決めておいた方がいいだろう」
子供でも気付くほどわかりやすく顔に出ていた、父親はそれだけ言うと先に家の中に入っていった。
アートは光り輝くアホ毛を片手に1人その場に立ち尽くす、とりあえず気持ちを整理させるために昼ご飯を食べようと彼も家の中に入った。
そのあとはただ時間だけが過ぎ、すっかり暗くなってしまった。
明日の事は明日が今日なったら考えればいい、そう自分に言い聞かせたアートはその日いつもより早めに就寝した。