第3部?
ヒロイン?登場です
取れたアホ毛は頭に戻したらひとまず光が消えた。
いったん町の様子を見るために家を出るアート、そこで見たのは
「地上から10cmほど浮いている町内会長」
「箒を振り回しながら暴れている幼馴染」
「両足が岩石のように重く硬くなっているお隣さん」
「床ではなく天井に座っているお向かいさん」
というなんとも混沌とした光景だった。
アートはとりあえず暴れている幼馴染のイオカ・コンウォールを止めに入った。
彼女は教会で働いているシスターだが、町一番の乱暴者である。
「うがああああああああああああああ!!」
「おい! なにやってんだ落ち着け!」
格闘技を得意とする彼女は、過去に因縁をつけて自分に向かってきた余所の人間を一人残らず泣いて土下座させるまで痛めつけたほどの腕前だ。
そんな彼女が箒を長槍の様に振り回している。
――というかいくらなんでも風が強すぎじゃないか?
そう思うアートだったが、目の前の暴君と化した幼馴染を止める方が先決だった。
かといって一切近付くチャンスを見つけられない、このままでは埒があかないのでアートは意を決して彼女めがけて飛び込む。
しかし飛び込んだ彼の頭に箒が直撃し、一瞬で意識を暗闇へと沈める。
気がつくと幼馴染の顔が覗き込んでいた。
「お? 気が付いた」
「『お?』じゃねえよ……」
「なんだよこのくらいで、相変わらずなっさけないなぁ」
「そっちもいい加減に落ち着くということを覚えろよ」
「うっさい」
そんなやり取りを済ませ、彼女になぜ暴れていたのか理由を聞いてみる。
すると箒を握り締めながら鬼のような形相で
「掃除してこいって言われたから箒で掃いてやってんのにこいつが動くたびに散らかって散らかって一向に進みやしねえ!」
と怒鳴りだした。
「それってどういう……」
「ああああ!! 思い出したらまたイライラしてきた!!」
「!? 待て! いいから落ち着けって!」
慌ててまた暴れだしそうな彼女から箒を取り上げる。
そこでふと何かを思いついたアートは、その場でイオカが先程していたように箒を振り回してみる。
しかし先程とは何かが違う、同じくらいの勢いで振り回してもさっきの様な風が起こらないのだ。
「ねえイオカ、もう一度さっきみたいにこれを振ってみてくれない?」
「は? なんでよ」
「いいから、確かめたいことがあるんだよ」
「……まあいいけど」
アートの頼みを渋々と聞き入れたイオカは、また乱暴に箒を振り回し始めた。
すると、彼女の周囲に少し強めの風が吹き始める。
これでアートは確信した、彼女もなにか変な能力が目覚めている。
おそらく「箒を素早くふると風が起こる」というものだろう。
「――多分、こういうことだと思う」
彼女に事態の説明をすると、不機嫌そうな顔から絶望したような顔になり膝から崩れ落ちた。
「意味が分からない……なんでこんな……」
「なんでだろうね……」
二人同じタイミングでため息をつく。
教会の裏、二人の男女が俯き肩を落としている。
しばらくするとイオカが話し出す。
「あんたも、何か変なことになってたりするの?」
「うぇっ!? うんまあ……そうだけど……」
突然の問いに声が裏返ったが、答えるように自分の頭に手をかざす。
すると辺りに眩い光を放ち、それが収まるとアホ毛がアートの手に握られていた。
何が起きたのかわからない、というような表情でイオカが立ち尽くしている。
次第に理解し始めたのか、彼女の性格が滲み出てきたような笑顔を浮かべる。
「ギャッハハハハハハ! なあにそれ! 髪が取れた! 意味が分からなさすぎる!」
「っ! うううるさい! うるさい!」
その後ずっと彼女の笑い声が辺りに響いていた。