第一話 ヨンドンという街
「あの、主人様。どうしてヨンドンに向かっているのですか?」
マリーは唐突に聞いた。トオルとしては歩くのに退屈になって何か聞いてくるだろうと予測はしていた。
「ある人物と一緒にここに来たのだけれど、途中ではぐれてしまって。それで探しているのさ」
トオルは麻でできたカバンをぐっと引く。
「僕たちは、ジャパンという遠い遠いところからやってきたんだ。もう多分二度と帰れないとは思うけど、彼女に会えば何か手がかりができるかもとも思ったんだ」
ヨンドンという街はマリーのいた村からあまり離れてはいなかった。農園を過ぎると海が見え、そしてレンガで造られた家が林立していた。
行き交う人は髪は金髪であったり、銀髪であったり、茶髪であったりするのだが、やはり赤髪の少女と黒髪の青年の組み合わせは異様だった。
「うっはぁ、これがヨンドンですかぁ」
喜びの声をあげるマリーは肌着のスカートを手で持ってレンガ家を見上げる。
レンガの一つ一つに粘土が重ね合っていって簡単には風が入らないようにしてある。隣のコーヒーショップには、高級な服装をした知識人が会議をし、反対側の商店には植民地から持ってきた貴重な品物が並んでいた。
「じゃあ、ここで別れよう。200ポンド渡すから、宿でもとって働き口を探しておくれよ」
トオルは笑顔満開の少女にお金を渡すと、海側の町並みへと向かった。後ろに少女を連れて。
軍港に停めてある船を見た後、カフェに入った。少女を連れて。
「おいっ!さっき別れたじゃん。なんでいるのさ」
「はいっ、働き口はもう主人様の手伝いと決めておりますので!あと私の体も主人様の物なので!」
トオルは先ほどの笑顔満開は別れることにではなく、お金を貰ったことに多分喜んでいたのではないかと思った。トオルとしては、ガキンチョを連れて行くと、いい女に出会っても断られる可能性が高いことと、面倒くさいことに巻き込まれそうで嫌に思っていた。
「ノーだ。どこかに行きたまえ。君のペチャパイぐらいノーだ」
「これから大きくなるんですよ。だから待っててくださいね」