あざとい少女
「私は知ってる。女王陛下はきっと救ってくださる」
マリーは、消えそうな声で言った。意識を上に向けると、蜘蛛の巣が暗い天井裏にびっちり張り巡らされているのだけれども、多分蜘蛛も食べ物がなくなっていなくなっているんだろうと考えた。
一瞬頭を上げようとしたが、あまりにも空腹でその行動を取ることができない。いつから食べてないのだろうと推察してみるが、そんなことを思うと死が近づいていることが分かりそうで嫌だった。
家は家というより掘っ立て小屋に近い。すきま風は吹き荒れ、ネズミは動き回り、寝ることでさえも砂の冷たさを感じた。ドアは藁で巻き上げる物だ。
決して上がることのない藁が上がった。見ると黒い髪に、黒い瞳、茶色のマントを来た青年が立っていた。青年は明らかにこの国の人間ではなかった。アングロサクソン系の金や銀の髪をするのでもなく、植民地から来た熱帯の国の出身の肌でもなかったからだ。
「誰かいないかい?ヨンドンまでの道を聞きたいのだけれども」
「すみません、何か食べ物を恵んで貰えませんか?数日何も食べていなくて」
青年はカバンから小麦パンを取り出すと、マリーに渡した。パンは日保ちするようにしたものなので、おそらくこの人は大陸から来た旅人なのだろうとマリーは想像した。
一瞬にしてパンがなくなると、青年は口を開いた。
「で、農奴のお嬢ちゃん、ヨンドンまでの道のりは分かるかい?」
予期せぬ発言にマリーはひっくり返りそうになった。
「どうして私が農奴だと分かったんですか?」
「村の人はみんな餓死していた。この国と大陸のボルスク大公国との戦争で領主がいなくなったために、食料が尽きたんだろう。それにお嬢ちゃんには、むちでてきる傷が治療されずにたくさんあるからね」
青年はまたカバンからパンを取り出し、マリーに渡す。ポカーンとしている彼女にとって目の前の貴重な食べ物が目に入らなかった。
すると、マリーはアドレナリンが吹き出したように目を見開いて、
「お願いします、私をここから連れ出してください。こんな可愛い子が死ぬのはもったいないでしょう?私をあげますから」
「確かに君はキュートだが、15、6ぐらいの小娘に興味はないね」
青年は鼻で笑うように答えた。
「じゃあ、ここで死にます」