表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロジ裏喫茶  作者: キルトリア
始まり始まり
3/3

招く


そこまで大きくない広告デザインの会社に勤めはじめて、早5年。友人や同僚は結婚、出産を経験し、「お母さん」をやっている者が多い。




会社の小ささに比べて、大きな企画だった。この企画が通れば、私の夢が実現できるチャンスだったのだ。その為だけに、この企画を受けた訳ではないのだが、それでも私にとっては大きな転機になりうるものだった。そうなるはずだった。


ぐるぐると同じ思考が頭を掻き回す。考えても考えても変わるわけではない。堂々巡り。



「やーめた。疲れるだけだわこれ。」


私は強く言葉を発して気持ちを整理する。考えても仕方ないことは考えない。これが一番だと思う。











「お腹すいたなぁ。明日お休みだし、何か食べて帰ろっと。」



コートの上からお腹に手をやる。ここの所まともに食事を摂っていなかったのもあって、お腹はぺこぺこだ。


(駅前のパスタが美味しいって聞いたなぁ。あぁでも、西公園前のカレーも久しぶりに食べたいな。)



どうせ家に帰っても、缶ビールと買い置きの惣菜が私を待っているだけだ。

ご飯のことを考えるだけで、こんなにもウキウキした気分になれるのだから、人間って単純。



そんなことを考えながら、コツリコツリとヒールを鳴らす。



ふと、歩みを止める。





「…こんなところに、招き猫?」






とても似つかわしくない光景だった。


薄汚れた自動販売機の横。

「種島酒店」と「八嶋文具」との間に割ってできたかのような細い路地。




その路地の入り口に、汚れ一つ無い真っ白な招き猫が鎮座していた。紫の座布団の上に乗って。


日曜夕方の落語家達よろしく、お澄まし顔で座っていた。


(…?、変なとこに招き猫置いてあるな。)



そうは思いながらもスマホを取り出し、招き猫に向ける。



ピロリロリーン。ピロリロリーン。




珍しい物を思わず写真に撮ってしまうのは、現代人の性であろう。後でSNSに上げなくては。




少しニヤつきながら、スマホをいじっていると、ふと、招き猫と目が合う。

何故か私は目を逸らすことが出来ない。そのまま招き猫の前で固まってしまった。



その目線は、誘導されるかのように招き猫の後ろの路地へと移動する。





官能的なピンクのネオン看板、薄黒く汚れた赤提灯。酔った人間の騒ぐ声や音、酒やけしたハスキーボイスの歌声。


その楽しさと騒がしさの間を綺麗に裂くように、伸びる路地の奥に、小さな木造の建物。



淡いオレンジの光りが揺らめく、温かい煌めき。

私はそのまま、光に誘われる虫のように、その建物に近付いて行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ