逆転する思考
アキバの小さな広場。ここはゲーム時代において運搬クエストの依頼個所として有名な物であった。
しかし、現在は運搬クエストはなりを潜め、別のクエストの依頼が大量に張られていた。
「こっちは金貨2000……4000もあるぜ。」
「ひゃっはー! これで俺達は大金持ちだー!」
「依頼を果たせたのならな。」
クレセントバーガーのレシピにつけられた、その高い金額に冒険者達は一喜一憂をしながら、その依頼を次々と受けていく。
「(まだ方法ではなくレシピを探している………という事はまだ時間的には余裕がある。)」
1人の小柄な女性が、そう思いながら次々と調べ物を行っていく。
「………なんじゃこりゃああああああっ!! 金貨4000って何だ?」
「こらこら大声出すなよ。」
その叫び声に反応して、周りの人間が振り返るが、あまりの金額の高さにびっくりしたのだろうと思い全員が興味を無くす。
「………こことここは知ってるけど……。ここの名前は聞いたことがないな……。
あっ、これはフレーバーテキストで見た事があるぞ……。」
「……たかや、たかや分析はあとで……。」
「ドラゴンナックル殿、久しぶりだ。」
そう言って小柄な女性がバタバタしていたメンバー達に声をかける。
「……えっと……。」
覚えがないといった雰囲気でドラゴンナックルが名前を見ると…。
「アカツキさん? どうしたの? その恰好???
クールなマスクとかはどうしたの?と言うか性別変わっているし!!」
「『外見再設定ポーション』か……。
と、アカツキさん、この姿では初めまして、サブキャラクターはかや……。こっちはメインでたかや。」
たかやがそう言って、外見を変更させることのできる唯一のアイテムを指し示す。
「うむ、その通りだ。しかしかや殿はサブキャラだったのか?」
「ああ、今回はちょっと初心に帰ろうと思ってこっち使ったんだけどね。」
「知り合いなのか?」
「ああ、昔色々と冒険した事があるんだけどな……こん時はこのキャラじゃなかったけど。」
たかやはそう言って首をすくめる。
「そうでござるか。」
「………でもさ『外見再設定ポーション』って結構な勢いで使われてるな。
やっぱり物がついていたりいなかったりで体の調子かわるのかなー。」
全員が冷たい目線でウェルカムを見る。
「……違う! 俺は純粋に生物学的に興味を持っているだけだ!!」
「………おかしいな……。」
やや流れを無視しながらとんすとん店主がそう言って、依頼書を覗き見る。
「……アカツキさんは今まで何処に?」
「うむ、少々ススキノまで行っていた……。」
「……ススキノだって?」
「ああ、そこでシロエ殿とにゃん太班長と出会って……。」
そう言って、少し話題をそらす。
「すまないが『ハーメルン』について、教えてくれないか?
アキバを離れているうちに急に大きくなったギルドについてだ。」
「ああ、俺も別件で調べているうちに、色々と話を聞いたんだが……。」
そう言いながらもたかやは、盗難事件を追うついでに、知った情報とかをアカツキに話す。
街の噂レベルだが、変な冒険者からアイテムを押し付けられたらひどい目にあったとか、呪われたアイテムをばらまいているとかそう言うレベルの話だ。
「……捜査情報を第3者に漏らしていいのか?」
「……俺達が警察なら懲戒処分物だな。」
たかやはそう言って、言葉を区切る。
「だけど今の俺達は只のおせっかい焼きさ。お互いに情報を出す事で有利になるならいくらでも話すさ。」
そう言ってたかやは、大きくため息をつく。
「でもやっぱり、クレセントバーガーばっかりだね。」
「そうでもないさ。」
そう言ってとんすとん店主が一枚の依頼書を見せる。
「……アキバを脱出したいって依頼もある。」
「……アキバを脱出?」
アカツキが聞き返す。
「NPCにとって、味のある料理はそれほど魅力的な物じゃないって事なんだろうな。」
「そんなことは無い!! クレセントバーガーを買っている大地人もいる!!」
アカツキはそう叫ぶ。
「……アカツキさん……。」
しまったという顔を浮かべるアカツキにたかやが真面目に話す。
「それは都市好感度が見せる幻です。」
「え??」
「おそらく、クレセントバーガーの謎は大昔のレシピ、あるいは何らかのイベントで発生したレシピと考えられます。」
「え? え??」
「おそらく、ずっと昔の都市好感度を変化させるレシピが残っているのだと思います。それをどうやってか探し出し、<三日月同盟>は売りに出したのでしょう。
今までそのレシピを公開しないのは、何らかの形で大金が必要である事と思われます。」
たかやが大真面目に解説を行う。
「NPCの反応も変わるのも、それならば納得がいきますし、矛盾も生じません。」
「じゃあさ、なんで<三日月同盟>はお金が必要なんだい?」
「味のする料理のレシピ。それを買う為でしょう。」
たかやはそう言って一息つこうとする。
「異議ありッ!」
えんたー☆ていなーがそう言って、タカヤの意見を止める。
「彼らは既に味のある料理のレシピを手にしているッ! さらにレシピを買い集める必要はないはずです……。
これは明らかにムジュンしています!」
「待った!」
とんすとん店主がさらに止める。
「今作れるものはほとんどが小麦を使った物だ……。新しい料理を作るのならば新しいレシピが必要だ。
米や麦で作れる料理もできるようになれば更なる飛躍が約束できるだろう。
そうならば……新しいレシピの為の資金も必要だろうな。」
アカツキが苦悶の表情を浮かべながらその様子を覗き見る。
「この世界のルールとして、ゲーム時代に存在しなかった物は一切作れないってのがあるみたいだな。
<遠見の鏡>みたいな例外はあるけど、あれも一応ゲーム時代は存在していたはずだし……。」
「<遠見の鏡>?? 何でござるか?それは?」
アカツキは聞いたことのないといった様子でウェルカムを見る。
「良かった……知らなかったのは俺達だけじゃないみたいだぞ。」
えんたー☆ていなーがそう言って安心したかのように言う。
「そうだよ……知っている方が変なんだ……良かった……本当に良かった……。」
ううっと涙を流しながらウェルカムが仕方ないといった雰囲気でなく。
「これで知ってて当然なんだと言われたら俺達立場がないぞ……。」
「……問題は『ルール』だ。その味のあるレシピをどうやって見分ける? どうやって味のあるなしを判別する?」
「……だからこそ、公開しないんでしょうね。公開すればすぐにでも見分けられる方法だと思うんです。」
「どこかに味の数字が書かれているのか、だとすると、マスクデータ(隠されたデータ)を見ることができるアイテムがあるという事か……嫌それともまとめ買いをして1個ずつ調べているのか……。」
たかやはそう言いながらブツブツと思考を巡らせる。
「たかやたかや、話ずれてる。」
「……なんで、ここまで依頼料が違うんだ?」
とんすとん店主の声に、一同が振り返る。
「……いやそりゃ、結構依頼人は違う人間でござるし価値の差異が……。」
「……俺達は今、<クレセントバーガー>のレシピを金貨20000枚以上で欲しいって人間の依頼を受けている。」
「20000枚?」
それはかなりとんでもない金額だ。
「だが、ここを見る限りそこまでの金を出そうって所はそんなにないんだ……。」
「だったら、何でここに来たんだ? 他の奴には教えるなって……」
ウェルカムがそう言ってたかやに聞く。
「良いか、持っている人間はこれに対して依頼をする必要がないって事だ。」
「つまりはここに依頼を出しているのは持っていない人間だという事だ。」
「つまり、先に持っていない候補を先に排除しておくって事か。」
「だが、ここの依頼を見る限り2000~4000って所だ。」
「不思議じゃないでしょ?」
ドラゴンナックルがそう言って反論を行う。
「かなり大きな商売人の家っぽいし、ヤマト全土で売りに出すんだったら何倍の利益も出せるから、利益を考えれば数倍は出せるはずよ。」
「………そうか。チェーン店みたいなものを作れば問題ないか。」
その反論に納得するとんすとん店主。
「噂聞く限り、ミナミでもまだ料理の秘密はわかっていないみたいだし。」
「……そこまで金貨を出すなどとはな。」
「確実に儲けられるなら、幾らでもバブルは膨れ上がるさ。
問題は、バルブがはじけた時に何が起こるかだな。」
とんすとん店主がそう言ってしみじみと何かを思い出したかのように言う。
「この世界じゃあ、レベルとレシピが足りていれば、なんでも作れてしまう。
個性なんか出す事は不可能だし、まちょこっと外見を変えるだけか。」
「レシピ無しで物が作れたらなー。」
そう、ドラゴンナックルが愚痴る。
「アンパン・カレーパン・焼売にサラダ……。」
「うどんにスパゲティ……いかん、悲しくなってきた……。」
「……作れない?」
アカツキが聞き返す。
「だってそうだろ? 味のするレシピは味のするレシピ分の物しか作れない。
<クレセントバーガー>がハンバーガーの味のするレシピなら、味のあるハンバーガーしか作れないんだし。」
「そうよねー。私も<裁縫師>だけど修理ぐらいにしか使ってないし。」
「レシピ無しにそんな物が作れたらゲームバランス崩壊だろ。
そもそも結論出てただろ……イベントで出てきたこと以外絶対無理だって。」
えんたー☆ていなーがそう言って、自分達の常識を言う。
「……イベントで出てきたこと以外絶対無理とは?」
「ああ、まだわかってなかったのか。」
えんたー☆ていなーがそう言って、たかやの受け売りをする。
「薪とかは普通に割れたよね。これは多分、北欧サーバのクエスト、『樵のジョン』のクエストの一環だと思う。」
「『樵のジョン』?」
「低レベルの木を売ってくれるイベント。その中で薪を割るシーンがあるんだ。
でもそれは『薪は割れる』シーンで『木を加工して玩具にする』ってシーンは描写されていない。
だから、俺達は『薪は割れる』けど『木を加工する』事ができないんだ。」
「………なっなるほど……。」
アカツキはまるで驚愕したようにえんたー☆ていなーの言葉に対して黙る。
「……しっかし、色々とゲーム時代に縛られてるなー。」
「ゲームの中の肉体持っているのに何を言っているんだ?」
「それもそうか。」
そう言ってわははとえんたー☆ていなーとウェルカムが笑う。
「………しかし、有名商店系は全滅か……となると相当に探す必要が出てきそうだ。」
「でも、ミズハラ家とかわからない家も出ているしな……。」
「そうだ、アカツキさんも一緒に調べない?」
ドラゴンナックルがそう言って、アカツキを誘う。
「拙者は、別の依頼を受けているので、今は受けられないのだ。」
「そうか、なら仕方ないか……。」
「また今度、子原さん達と一緒に冒険できたらいいんだろうけどね。」
「あの人は色々と忙しい人だからなー……多分ログインしてないんじゃないか?
ログインしていたとしても、アメリカサーバだろうし……。」
「そうか……。せめてもう一度冒険をしたかったのだが……。」
アカツキはそう言うと、たかやは大きく背伸びをする。
「……無理だろうな。この事件が終わったら<エルダー・テイル>は終わりさ……。
また新しいMMOで出会える可能性なんて毛ほども残っていないさ。」
たかやはそう言って大きくため息をつく。
「新しいMMOって……作られるのか?」
「へ???」
「こんだけの事件が原因不明で起きて、そしてさらに事件が起こる可能性があるのに、新しいMMOって作られると思うか?」
えんたー☆ていなーがそう言ってたかやの言葉を否定する。
「原因……か。」
たかやはそう言って、大きくため息をつく。
「わかったらわかったでなんか問題になりそうな気もするけどな。」
「たった20年で自由に世界を創造できるシステムを作り上げるなんて、それこそ世界をひっくり返す大発明だしね。」
「……だけど、結局は運営から与えられた物しか作れない世界なんだよ……。」
たかやはそう言って遠くを見つめる。
「……帰るための装置を運営が用意されていなければ、作ることはできない。
こんな事態を想定はしていないんだから、結局は帰れないんだろうがな……。」
「そんなことは無い!」
アカツキは大きく叫ぶ。
「そんなことは………そんなことは……。」
「『そんなことはない』……か。」
たかやはその言葉を反芻する。
「……根拠ねえ言葉だな。」
ウェルカムはそう言って、空を見上げる。
「だけどさ。NPCが子供作るのにコマンド使うのか●●●するのかさっぱりわからねえしさ。
わかるにはまだまだ駆け回るしかねえし……最後まで駆け回ってみようぜ。」
「そう…だな。やれるだけのことはやってみるか!!」
「それじゃあ、まずは料理の秘密だな!!」
そうとんすとん店主がしめた。
「それじゃあ、アカツキさん。また今度な。」
「ああ、また今度だ。」
そう言ってたかや達は依頼所から離れていった。
今回のプロット変更。
アカツキが料理の秘密を知っていると喋るシーンをカット。
話がGDGDになりそうなのと、その後の反応などを書くのがややこしくなりそうだったから。
今回たかや達が的外れな事ばっかり書いていますけど、これは『何故誰も料理の秘密に気づかなかったのか』の自分なりの答えです。