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公爵家の財務長官  作者: 多上 厚志
第四章
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 ダニエルゼは、なる気マンマンだった。


 何になる気かって、それはもちろん、次期ソル家の当主。つまりソル公爵だ。


 少し前まで、そんなつもりは全くなかった。

 だが、桜園の誓いを経て、本当に公爵領の未来の憂えるのならば、自分が公爵にならなければならない、そう思ったのだ。


 ハルキは、別に公爵になる必要はない、と言う。次期公爵側に付くことができればいい、というのだ。


(何、ぬるいこと言ってんだ)


 公爵にならないのであれば、公都に行く意味などない。

 時間の無駄ってものだ。

 自分の権力と、財力を膨らませることしか考えないような、貴族どもがいるところに戻ろうってんだから、覚悟を決め、そしてやるべきことは妥協しない。


 太陽は真っ青な空に、真っ直ぐにのぼっていく。

 時間は、朝の六時を回ったところだ。


 光の聖霊(ソーラ)の教会を出たところで、ダニエルゼはすうっと空気を吸い込む。

 朝のくっきりとした空気が、胸に満ちる。

 いつ見ても教会を出たさきにある橋は、とても威厳がある。そして、朝はその中でも一番、神秘的な時間だ。

 この時間帯に橋を渡るのが、ダニエルゼはとても好きだ。

 橋の真ん中に立つと、太陽に向かって手を合わせると目を閉じた。光の聖霊(ソーラ)への祈りの儀式だ。

 瞼の上からでも、太陽の光を感じる。体中に力がみなぎってくる。

 しばらくして、ダニエルゼは瞼を上げた。

 そして吠えた。


『よっし、やってんやんぞー』


 両手を太陽に向かって、突き上げた。

 そこに横やりが入った。


『なにをやるっていうんだ』


 苦笑交じりの声が、側で聞こえたかと思うと、後頭部に衝撃が走った。


『いったぁ』


 ぼやいて振り返ると、ハルキがダニエルゼの頭の上に手刀を降ろしていた。


『朝から、一人で阿呆やるな』

『阿呆はどっちや、本気で痛かったやないか。少しは加減しぃな』


 ダニエルゼは後頭部をさする。


『悪い、あまりにも突っ込みどころが満載だったから』


 ハルキが悪びれもせず、そう返すものだから、ダニエルゼはツンと唇を尖らせた。


『私の神聖な宣誓にケチを付けるとは、何様のつもりや』

『はいはい』


 ハルキがひらひらと手を振って見せた。その態度に、頭に血が上る。


『あ、ハルキ、分かってんだろうな。私がいるから、お前の誓いも近道になってんやからな』

『それも、イエナが公都でうまく立ち回ったらの話だろ』


 ふふん、とダニエルゼは鼻を鳴らした。


『まぁ、まかせときぃな。二ヶ月後には、公爵になってるから』


 この言葉に、黒髪を揺らしながらハルキが心底呆れたように、ため息をついた。


『お前なぁ、自分の爵位継承順位わかってるのか』

『おう、分からん』

『十五番だよ』


 ハルキが平然と言い放った。

 ダニエルゼは体をのけぞらせた。


『嘘だっ。いくらなんでも、そんなに低くはないだろ』

『アバーテ伯爵の説明をイエナは全く聞いてなかったのか』

『説明なんて受けてないやろ』


 ハルキがあからさまに呆れた体で、首を振って見せた。

 この人を小馬鹿にした仕草が許せん。


『わかった。お前が人の話をまったく聞いていないのは、よくわかった』

『ああ、そうだな。悪かったよ。んで、どうして私が十五番目になるんだよ』

『ソル公爵家の爵位は、男子が優先的に継ぐことぐらいは知っているんだろうな』

『それぐらいは、知ってるぞ。それでも、十五番ってことはないだろ』


 ハルキが面倒そうに説明を口にした。


『いいか。……まず、兄であるルーク、ベルマン。次に、現公爵であるクリスト公爵の兄であるルスト。弟であるエーゴット、トラリッツがいる。これだけで、すでに五人だ。そうして、イエナの伯父達の子供も男子である場合は、イエナよりも上位となる。それらが、四人いる。そうして、ルストの子供達には、すでに男子の孫がいるために、更にイエナの上位となる。それが四人だ』


 並べ立てられて、一瞬イエナは理解できなかった。

 しかし冷静になって、指を折って考えてみると、ハルキは十三人しか数え上げていないではないか。


『だったら、十四番目だろ』

『姉のアグネリアがいるだろ』

『そういや、いたなそんな奴が』


 そうだ。そんな名前だった。いけ好かない、鼻に掛かったしゃべり方をする女だった。

 まっすぐな金色の髪と、生まれの良さだけを生きがいにしているような女だ。


『なんだ、アグネリアと昔に何かあったのか』


 よっぽど嫌そうな顔でもしていたのか、ハルキが心配そうに覗き込んでくる。


『いんや、よく知らない女さ』


 ダニエルゼは、頭の中に残っていた映像を意識の外に蹴飛ばした。


『んじゃまぁ、さっさと公都へと向かいますか』


 そう今日は、公都に向けて出発する日なのだ。



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