表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
公爵家の財務長官  作者: 多上 厚志
第二章
37/103

37

内容を理解しづらい箇所があるかも知れません。

すべて作者の筆力不足ですので、あまり堅く考えずに読み流してください。



 普段であれば、酒を提供する時間までデニスは店を開いているのだが、今夜はお客さんに頭を下げて、早じまいをした。

 フロアに揃ったのは、8人だ。

 春樹、デニス、カルロ、ニコ、売上げを担当していたレヴァンとエリック、それからゲオルグとイエナだ。

 デニスは、昼間からずっと不満そうで、今もまだ何が気にくわないのか、腕を胸の前で小刻みに体を揺らしている。カルロは、ぼんやりと天井を見上げており、ニコは床の一点をじっと見つめていた。レヴァンとエリックは、なぜ自分たちが呼ばれないといけないのか、というようにお互いにそっぽを向き合うようにして、並んで椅子に座っていた。

 イエナはというと、興味津々という体で、椅子から身を乗り出していた。

 ゲオルグは、誰が犯人なのかを見定めるように、集まった人間の動作や表情をじっくりと観察をしている。

 中央に置かれているのは、春樹が調べ上げたこの店の帳簿だった。

 その側に置かれた椅子に座っているのは、春樹だ。春樹は、その帳簿を開くでもなく、眺めている。

 フロアには、昼間の暑気を残した空気がどんよりと漂っている。

 湖が近くにあるためか、ビエントの街の空気は湿気を含んでいて、夜になってもなかなか熱が抜けきれなかった。

 誰かが、咳払いをした。

 それを皮切りにゲオルグが共用語で話し始めた。


『みな、集まった理由は分かっているな』


 ゲオルグは言葉を止めて、反応を待った。ゲオルグの声には、重みがあり自然と背筋が伸びるような威厳があった。エリックが何度か口を開きかけたが、実際に声が出されることはなかった。


『よろしい。では今日の事件から確認しよう。まずは、デニスからだ。見て、判断したことを話せ』

『はい。難しい話ではありません。私は、カルロが売上金をポケットに入れているのを発見したのです。そのため、現場を差し押さえました』

『それで、ポケットの中にお金はあったのか』


 ゲオルグは当然の質問を口にする。デニスは言葉に詰まった。


『いえ』

『そうか。だが、見たのだな』

『はい。取っていたのは間違いありません』


 ゲオルグの反応に力を得たように、デニスは頷いた。それに対して、カルロから反論があるかと思ったが、意外にもカルロは黙っていた。

 ただ、デニスに対して、睨むような視線を投げていた。


『では、今日の件に関しては後で話そう。まず、そもそもの話をしよう。私がデニスから、相談を受けたのは、二ヶ月ほど前のことだ』


 ゲオルグが語りだした。


『売上げが本来の金額より少ないような気がする、という内容の相談だ。この相談を受けた時に、私はどのように対処して良いか、悩んでしまった。売上げについて、正しいかどうかというのは、帳簿を見ても分からないからだ。加えていえば、売上げがどの程度あるかということは、帳簿をいくら調べても分からない。この帳簿の不便さを、私は痛感した。しかし、どのようにすれば良いのか、ということを何も思い浮かばなかったのだ。私にとって、いや我々にとって、帳簿というものはそういうもので、現金の動きを記録していく、或いは誰かに対する貸付金、借入金を記録していく、そういうものだった。だから、いくら私が頭をひねっても、どうやって売上げを把握し、その正誤を見定めたら良いのか答えが出なかった。これに対して回答をくれたのが、ハルキだ』


 ゲオルグはテーブルに近寄って、一枚の書類を手に取った。


『最初に説明を受けたときの衝撃は、忘れられない。ここに書いてあるのは、今年と、去年の売上げの比較だ』


 その意味を、はかりかねたように、カルロやレヴァン達が首を傾げた。


『そう、わからない、のだ。私もその説明を聞いたときに、やはり首をひねった。なにしろ、売上げだけを数字として把握する、ということを考えたことがなかったからだ』


 春樹もそのことに驚いた。

 毎月の売上げの集計をして、前年対比をしたものをゲオルグやデニスに説明したときに、二人ともはじめ春樹が言っていることを理解できなかったのだ。春樹は最初は言語的な、日本語や共用語のレベルでのすれ違いが起きていると考えたのだが、そうではなかった。

 この国の人達がいう、売上げとは、お金を伴った実際に手元にあったお金が、増える、という事実を指しているに過ぎなかったのだ。つまり、売上げが減っている、というのは、実際に手元に入ってくるお金が、減る、ということを指していたのだ。

 単純に言うと、お金の入金=売上げであって、売上げという考え方を、お金から切り離すことができなかったのだ。

 そのため、春樹にとっては当たり前である、売上げであるお金の入金だけを足し上げるという考えた方ができなかった。つまり、売上げという概念を現金入金から切り離すことができない、という状態だった。

 今、ゲオルグが手にしているのは、説明用に作成した前年の売上げと、当年の売上げを足し上げたものだ。


『食堂の売上げを、前年と今年を比較してみると、明らかに売上げが落ちていることがわかる。そして……』


 ゲオルグが少し大げさな動作で、帳簿の束から、一つの書面を取り出した。


『何より、すごいのはこの書面だ』


 ゲオルグが掲げたのは、日本では損益計算書と呼ばれる財務諸表だ。


『ハルキから、最初この帳簿を見せられたとき、私はこの数字の羅列が何を意味するのかさっぱり理解できなかった』


 食堂に集った人達の視線が、ゲオルグが持った損益計算書に注がれた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ