紅い月に吠える夜
しかし、料理が原因なら他の客もたくさんの人が苦しんだはずだ。なぜ美月とあの男だけ…?
陽助はレストランに辿り着いた。
「なあ、店長さんに会いたいんですけど」
陽助はレストランのウェイターに、店長を連れてくるよう頼んだ。
「な、なんですか?お客様」
「いいから店長を…!」
すると奥から、店長らしき男が現れた。
「困りますよお客様。今はもう営業時間外でしてね。で、私に何かご用ですかな?」
「あんた、料理に何か妙なものを仕込んだだろ?」
「はて?なんのことですか?」
陽助は店長の胸ぐらを掴んだ。
「とぼけるな!美月はこの店を出てから苦しみだした!街で暴れた化け物も!ここに来ていた客が化けたものだった!どういうことだ!」
すると、追ってきた魔物が店のドアを破って入ってきた。
「くそっ!」
すると店にいたウェイターや他の店員も、次々と魔物へ変化していく。
「な、なんなんだよこれ…」
魔物は陽助を殴り、壁へ吹っ飛ばした。
「料理に仕込んだわけじゃありませんよ?もっとも、テーブルに置いてある、悪魔の血のスパイスを口にすると、悪魔になりますけどね。ふふふ」
店長の姿は次第に、人間から魔物へと変化した。
「てめえ…化け物だったのか?人間を化け物にして、いったい何が目的だ!」
「紅い満月が見えるようになったのは、いつからか御存じですか?」
「なんだと?」
「我々悪魔は、魔界に住んでましてね。魔界にも月があるのですよ。あのように、紅い月がね」
「何の話だ?」
「魔界に太陽はありません。魔界を照らすのはあの紅い月のみ。我々悪魔は、太陽を浴びると死んでしまうのです。そこで考えたのが、太陽の克服方法。人間を悪魔化することで、太陽があるうちは人間として生き、紅い満月の夜は悪魔として生きる。そうすれば死ぬことはない。我々は探しているんですよ。人間界に、太陽を克服できる悪魔になれる素質がある人間を!」