逃げるための一手
「いや、気のせいだよね。で、さっき私が話していたのは、一学年で三位を取った人。アルス・ザクセス君だよ。コンコルディア・ルーナ寮で、月みたいな人だったなあ」
私のことは太陽みたいだって言ってた、そう付け加えて。ああ、びっくりしたな。久しぶり、というか、珍しく、というか。ロイスが怒ったから。何に対して怒っているのかは全く見当もつかないけど。
「早く食堂に行かないと、朝食抜きになるわよ」
アリア姉さん! そういえばまだ朝ご飯を食べていなかったのだった。すっかり忘れていた。
「リリー、どこでダンスパーティーのことを知ったのかな?」
あ、ロイス戻った。
「アルス君にダンスパーティーのペアになってくれないかって言われて。ダンスパーティーのことも知らなかったし、アルス君とも親しくないから、考えておく、としか言わなかったんだけど」
まだよく知らない人と踊るのはきが引ける。けれども、ロイス以外に親しい男子もいない。でも、もしも全員強制参加じゃなかったら。
「ねぇ、ルック。ペアで踊るのは強制なの?」
そうでなかったら、壁の花を決め込めばいい。しかし、ルックはため息をついた。嫌な予感しかしない。
「そう、それこそがこの学校のめんどくさいところなのよ。この学校はお嬢様、おぼっちゃま向けとして創設されたから、マナーを学ぶ場というのが多いのよね」
と、いうことは。
「勿論、全員参加よ」
うわあ。詰んだ。完全に詰んだ。
「だから、この二ヶ月皆ペアを作るのに必死。この学年は人数が奇数だけど、全校は偶数だからね。このためだけに、必ず、偶数になるように人数を合わせるのよ。アホらしいったらありゃしないわ」
面倒だなあ、そういうの。この一ヶ月間、テストにむけての勉強で、忙しくて全然ブルーストーン探しもできなかったし。あれ? そういえば。
「話は変わるけどアリアたちいつ出発するの?」
「五日後よ」
五日後……。すぐじゃん!
「じゃ、今日は授業が全部終わったらお祝いしよう! はい、決定!」
あの部屋で一人になるのが寂しいから行かないで、なんて口がさけても言える訳がない。




