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魔眼の王 ~Tierra Azul~  作者: 紺野たくみ


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第7章 その8 古代の魔法使い


          8


 舞台はグーリア王国の片隅、裏通りの酒場に戻る。


 一見したところ、うらぶれた酒場のようだが、実はけっこうな広さのある地下があり、しかも地下には金属製の檻のある牢まであるのだとは、外の店構えからは、想像もつかないだろう。


 現在、そこには、グーリア王を母の仇と思い定めるジークリートと、グーリア王が派遣した奴隷狩り部隊に村を焼き討ちされ妹を含む村人を攫われた恨みを持つキールとが、共に王を倒そうと決意しているところである。


 他には、グーリア王国の強権支配に、小なりといえども歴史ある自国、キスピを滅ぼされた、かの国の『赤の巫女王』と、その私兵たち。


 エルレーン公国の『灰色の巡礼』ケイオン。彼はジークリートが母を殺されて一人になり、行き倒れていたところを助け、精霊や魔法について教えてくれた師匠である。


 そして今ひとつの勢力が加わっていた。

 エルレーン公国の『エレ・エルレーン(エルレーンの国母)』と尊称される清楚にして豪奢な美女『白銀の聖女』アイリスと、彼女を護衛する白銀の騎士たちの一団である。


 アイリスの言うところによればケイオンは国の諜報員として働く巡礼としての偽名で、本当の名前をエステリオ・アウルという。

 アイリスは一度、グーリア王の刺客に殺され、精霊セレナンの少女スゥエによって精霊火スーリーファで身体から流れ出た血を補うことで生き返り、長い時を生きてきたのだという。

「アウルに、もう一度だけでも会いたかったから」だというのだった。

 そこまで聞けば恋人だったのかと誰でも思うだろうが、なぜかケイオンとアイリスは、自分たちには強い絆はあるが恋人ではないと、きょとんとしているのだった。



「ところであなたたち。どういう計画で、黒曜宮に入り込むつもりなの」

 聖女に心酔する白銀の騎士たちをまわりに従えたアイリスが、ジークリートとキールを見やった。


「計画?」

 きょとんとして顔を見合わせた少年たちに、アイリスは、「まさかと思うけど」と、頭を押さえた。

「何の計画もなく、下調べもしないで正面から乗り込むつもりだった、なんてことは……ないでしょうね?」


「それ以外に何かあるのか」

「いや、おれはそこらへんをアイリスさんに聞こうと思ったんだが。城の内部に何があるかとか、もしわかったら助かるだろ?」

「面倒だ。邪魔なものは全部、破壊していけばいいだろう」


 いかにも策謀をこらしていそうに見えるジークリートは考えなしの正面突破で、脳筋に思われそうなキールは、下調べしようよ派だったことを、『赤の巫女王』チャスカは非常に面白がった。


「そうなんだよね。我が愛弟子ジギーちゃんは、もう思い込んだら目的しか目に入らなくて一筋で。人の言うこと聞かない、聞かない。よくぞこれまで生き延びてきたと思うよ。守護精霊がすごい強いのは幸いだったよなあ」

 愛弟子との日々を思い出すように、苦笑いをする灰色の巡礼ケイオンこと、エステリオ・アウルだった。


 アイリスは目を眇め、ジークリートを眺めやった。

「守護精霊。家系に憑いているのね。代々、受け継いできたというところかしら。性質は……炎。炎の精霊王? いいわね、わたしは炎だけは持ってないのよ」


「なんでそんなことが、わかる?」

 ジークリートはいぶかしむ。

「それとも情報を? 何か調べたのか?」


「いいえ。昔の魔法使いたちは、今の人より、魔法でいろんなことができたのよ。持っている魔力も多かったの。わたしはその生き残りだから。アウルもね」


師匠アウルは、魔法を使ったことはなかった」


「巡礼になると制限がかかるの。魔力の量は変わらなくても、魔法は使えないようにね。だからアウルはほとんど使わなかったはずよ」


 自分が話題に上ると、アウルはゴホゴホと咳き込んだ。

「それにしても相変わらずきみの『走査』はすごいな。血筋や過去を辿ることに冠しては、カルナック門下生で随一だった」

「お師匠さま直伝だもの。カルナック師は、なんでも神さまみたいにすごかったけど」


「まったく、お師匠がいてくれたら、世界の事情もずいぶん違っただろうな。言っても詮無いことだが」


精霊族セレナンの少女がサウダージ共和国で殺されたとき。世界が滅びた、あのときに、カルナック師は、人間に見切りをつけて、精霊の領域に行ってしまったわ。二度と人間に生まれたくないっていって」


 アイリスは、自身の身の回りに纏わせた精霊火に触れ、撫でる。

 彼女に言わせると精霊火は、実体のない炎でも光でもない、手で触ることもでき、匂いもある。生きているのだという。

「だから精霊火の中には、お師匠さまが、きっといるの」

 ふふふ、と、小さく笑う。

「わたしもそうしようとしたのよ。精霊になってしまいたくて」


「アイリス!? そんなことを言うな」

 アウルは彼女に近づき手を取ろうとするが、彼女は微笑みながら、身を翻して、するりと逃げた。


「聖女さまに近づくな!」

 白銀の騎士たちが、アイリスの前に立つ。


「我が国にとって何にも換えられぬ大切な御方だぞ」

「近寄れば斬るぞ!」

 最も熱心にケイオンを槍で突こうとしているのは、騎士団のとりまとめ役と目される、ハーリという、貴族だった。


「おやめなさいハーリ。皆も。赤の巫女王さまが呆れておられますよ」

「……はい、義母上」


 納得していない顔で、その場は、引く。


「ところで、赤の巫女王さま、あなたも……正面突破ですか?」


「まさか。わたしはまだグーリア軍に属していますから、生死不明だったがなんとか命拾いしたということにして、帰還の報告をしたいと王に相まみえるつもりでした」


「ダメじゃない! そんなことでグーリア王を騙せるわけがないわ」

「そうですかね?」

「バルケスは間違いなく、あなた方の行動を掌握しています。何もしないのは、おびき寄せたいから。そういうのを、灯火の中に飛び込む蛾だというのよ。王は退屈している。楽しませて欲しいんだわ」


 大きなため息をついて、アイリスはその場の一同を見渡した。

「仕方ないわね。ついていらっしゃい。こっちへ」


 アイリスが手招きするのに従っていけば、地下室の奥に扉があった。

 扉を開ければ、細長く暗い回廊が。


 入ってみるが、奥はうかがい知れない。

「城中へ続いているのか!?」

「残念ながら、そうではないわ。もっと進んで」


 しばらく進むと、ひらけたところに出た。

 上に明かり取りがあり、色ガラスの嵌まった窓があった。

 祭壇が設えられている。


「この街の多くの集会所では、このように、地下神殿に通じる道を作っていたのよ」

「地下神殿?」


「そうよ。地下にある、白き太陽神殿なの」


「道はないのか!」

 焦るジークリートに、アイリスは微笑む。


「直接つながる道はないわ。でも、ここには、王宮に繋がる『転移陣』がある。古代に造られたのでしょうね」


「ですが聖女様、古代の遺産は、我々には動かすことはかないません」


「だからいいんじゃない。グーリア王も少しは油断するかも。それに、古代の魔法使いが、今ここに二人いるのよ。転移陣くらい、動かせるわよ」


「古代の魔法使い?」


「そうよ。わたし、白銀の聖女と、灰色の巡礼でね」



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