入学式 上
光海高校は山の奥に建っている。
つまり交通が不便である。
さすがに麓の街との移動のためにバスがあるがそれも1時間にたったの2本。
だがさすがに入学式、乗る人も父兄を合わせると十台出しても足らないだろう。
やはり今日だけはバスの本数と台車を多くしているみたいだ。
ちなみに車では学校にいけない。
車で行こうとしてもカーナビが使えないとか道が狭く、慣れてないと危ないなどの理由からいかせないそうだ。
なので遅刻したら下手をすると入学式に出れないのである。
しかし俺は親友にして幼なじみの小田原玲と一緒に来たので普通にセーフだった。
たぶん俺ひとりだったら危なかっだろうなと思いながらバスの中の横の席に座っている玲に話しかけた。
「いやーすまんな玲、ここのところ毎日起こしてもらってさー」
「いやいや、別にいいよー?僕だっておかげで早く起きることが出来るようになったし」
玲は俺の家の合鍵を持っている。
何故かというと俺の両親は今、日本にいない。
なので家が近い玲に起しに来てもらっている訳だ。
両親は俺が中学卒業した後、突然会社の転勤が決まり、今はロサンゼルスにいる。
ちなみに俺の家族構成は父、母、俺、双子の妹だ。
双子の妹たちは親父達とロサンゼルスに行ってしまったので本当に家では俺一人だった。
「しかもおばさんからも直接頼まれてるしね。僕が貢をお世話してあげないと!」
お世話って…………
何やら俺の知らないところで母さんが玲とその家族に俺の事をお願いしていったらしい。
玲の家族とうちの家族は昔から仲がいいので玲の家族も快く受けてくれた。本当にありがたい。
「しかしなぁ…………まさか朝の四時に起こさなくても」
「いいの!早起きは健康にいいんだから」
「まあ、お前のおかげで遅刻せずにいるんだから感謝はしておくよ」
「そう?えへへ」
「こらこらそんなに頬を赤らめて照れるんじゃない。また変な噂がたつだろうが」
「うー、大丈夫だよ!というか僕は別に………」
ぶつぶつ玲が何か言っているがこれ以上のことをすると周りの女子から入学そうそうホモの認定を受けてしまうかもしれない。
ちなみに中学の時にもそういう噂はあった。
しかし、仲が良すぎるだけだと必死に話して半年かけて疑惑を消したのだ。
また、噂が流れると面倒くさすぎる。
それに玲が傷つくのはもう勘弁だからな。
しかし、玲はたまにぶつぶつ何か言うんだよなー。
嫌なことでもあるんだろうか?
あとこの時の玲から発せられる負のオーラみたいなものが漂い、後々怖くなるのですぐにフォローすることにしている。
「し、しっかし玲の髪は綺麗だよなぁ。あれ?髪留め変えたか?」
「えへへー分かる?玲に買ってもらった奴だよー!」
「まだ綺麗なところを見ると大事にしてくれてるみたいだな」
「当たり前だよー玲から貰った物なんだから大事してるよ」
玲は俺が贈った物(機嫌が悪くなった時の切り札とも言える)を凄く大事にしているらしい。
まあ贈った側からしてみるとこれだけ大切にしてもらえると贈った者の冥利に尽きる。
玲と話していると話が聞こえていたのか、反対側の座席のマダム達が
「若いっていいわねえ、あんなに熱々のカップルだなんてー羨ましいわー」
なんて談笑していた。
いやーここには男しかいないんですけどー
まあこういう反応はいつものこと。
何故なら玲は美少女だからだ。
いや、誤解がないようにいうと外見がそこらの女どもよりも可愛い男の子だ。
私服でカフェなんかに入ると大抵間違われて俺とカップル席に案内される。最初のころは「こいつは男ですよ?」と説明していたが、数を重ねる毎に慣れてきてもはや間違いを指摘しないようになった。
そこまで間違われてる程、女の子にしか見えないのだ。
もっとも外見だけでなく、声も高く、仕草や趣味も男らしいとは一概には言えないので仕方ない。
髪留めや小物も好きなので余計に女の子に見える。
そんな奴が
「えへへーカップルかぁ~♪」
なんて言いながら頬赤らめてるのだ。
そりゃ噂が流れるのは仕方ないだろう。
まあ、性別を知ったら大抵納得するんだが、たまに納得出来ず、ホモ関連の噂を流す輩も出てくる。
そうすると手に負えないのだ………
俺はあの時から玲のことは守ると誓ったからな。
まあ中学の事件から一年の年月を経て、勘違いしてるやつにはさせておけばいいと言う考えに至った貢だったのだが未だに玲には過保護なのであった。
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1時間経過…………
そうこうしてるうちにバスが学校までついたようだ。
一時間にしてはすごく濃密な時間だったように感じた。
玲 side
「えへへーカップルかぁ~♪」
さっき反対側の席のお母さんたちの言葉が聞こえた。
貢と僕がカップルに見えるみたいだ。
(僕も男子の制服きてるんだけど)
僕は外見も性格も女の子みたいだから勘違いされるみたいなんだけど、それは嫌じゃないんだ。
貢は内心僕が嫌がってると思ってるみたいなんだけど、そんな訳が無い。むしろ嬉しいくらいだから。
だってお似合いだと思われるなら貢と、いつも一緒にいてもおかしくないんだから!
僕が貢をこんな風に思っているのには訳がある。
「お前ら男同士で付き合ってんの?」
僕達が親友になって間もない頃、僕と貢が付き合ってる噂が流れたんだ。
その頃から女の子みたいな男子だったから誤解してもおかしくなかったのかもしれないけど、その時僕は結構傷ついたんだ。
何に傷ついたかというと男の子達からの悪口で
「お前は女みたいでカッコ悪いな」
とか
「男が好きなのかよ」
とか
「やーい、女男」
とかかな、そんなことを言われ続けた。
先生や女の子たちは、味方してくれるけど男の子たちは中々止めない。だって彼らは止める気がその時は無かったから。
男子から見れば女の子達から応援してもらってる僕らを羨んでいたのかとしれないけど結局変わらなかった。
「うぇぇぇん、僕は女の子じゃないよぅぅ!女男なんかじゃないよぅぅ」
だから泣きながら言うけど噂は止まらない。
今にして思えば噂なんかすぐに消えてしまうからほうっておけば良かったんだけどその頃の僕は本当に嫌だったんだ。
僕はもう少しで登校拒否するところだった。
少し精神的に追いやられたせいで体調を崩していたこともあって休み明けの登校日はあまり行きたくなかった。
ここで僕はもし悪口を言われていたらほんとに引きこもっていたかも知れないね。
でも学校に行ったら悪口も噂もなくなってたんだ。
その当時、傷ついていた僕のために貢はみんなに話して噂を消えるように言ってくれて、男子にも中傷をやめろといっていたらしい。
そんなことをいっても普通はやめない。
まして貢は僕との噂があった。僕より酷いことをたくさん言われたみたいで、でも貢はめげなかった。
必死でお願いして、馬鹿にされて。
それでも必死にお願いして。
そして貢の必死さに男子たちが参って噂も中傷も止めてくれた。
今後、こういうことを言わないと誓ってくれた。
そしてそれは必死に噂と中傷を消そうと動いてくれた貢のおかげだったんだ。
それを聞いたとき、僕は泣いてしまったよ。
馬鹿にされなくなったことも確かにあるんだけど、
一番は貢の言った言葉だったんだ。
「これでもう安心だ。お前は我慢しなくていいんだ。」
もうこれを聞いたときは感情が爆発しそうで、胸がいっぱいで、なのに胸が締めつけられる感じがして切なくてね。
たくさんの思いや感情が渦巻いている中、
こう思ったんだ。
「自分の外見を馬鹿にされてもいいからこの人のそばにいたい」
ってね。
そして今に至る訳。
果たしてこの気持ちに果たして貢が気づいてくれるか分からない。
気づいてくれても意味が無いかもしれない。
一生気がつかないかもしれない。
でも僕は誓ったんだ。
だから、
「僕は君を支え続けるよ!貢!」