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無敵

作者: 伊坂倉葉

Loading……

自己嫌悪という言葉を知っているだろうか。


僕は、正にそれだ。


僕は、自分自身を好きになれないのだ。

ついさっきだって、自殺を図った。けれど、失敗した。通算1863回目の失敗だ。


だって、

こんなに不細工でおっちょこちょいで馬鹿で阿呆で安本丹でおたんこなすでおたんちんですっとこどっこいでしかも唐変木で頓痴気で頓馬で篦棒で抜け作でさらに足が遅くて身長も体重も平均的でその癖に飯は人一倍食べて休みも人一倍とって学習能力を持たずに何度も同じような過ちを繰り返しこの広くて狭い社会において存在価値を全く持っていないどころか邪魔にしかならないような僕なんて生きている方がおかしい。さっさと死んでしまうべきだ。

けれどいくら自殺しようが、死ぬことができない。つまり、元々この地球という星に存在することが想定されていないんだ。


そう思わざるをえないほど、社会というものに僕は嫌われているんだ。


例えば、


近頃、不景気なのは僕のせい。

だって、僕が本気を出せば出すほど、社会は不景気になっていくのだ。

いや、社会じゃない。世界が不景気になってしまう。


近頃、東京湾で魚が取れなくなったのも僕のせい。

だって、僕が1日、東京湾で遊んだら、次の日に魚が全く取れなくなってしまったらしいから。


近頃、若手のクリエイターが作る音楽がみんな攻撃的なのも僕のせい。

僕が歌った時から、とある動画投稿サイトでは危険な音楽と映像しか流れなくなったそうだ。みんなの気が触れてしまったのだろうか。


それどころか、僕がとある街に対してプレゼントをしたら、次の日にその街が消え去ったというニュースが流れた。

おかしいな、あの白いストライプが入った鉛筆みたいな形の鉄の塊はプレゼントにならないのだろうか……?やたらでかかったけど、それが問題かな?

良かれと思ってしたことが、結果的に最悪の結果として現れてしまった。


ああそういえば、前にくしゃみをしたとき、目の前にいた人が急に倒れた……確か頭が無くなっていたんだけど、やっぱりあれも僕のせいなんだろうなぁ。はぁ。


そんな風に社会に迷惑ばっかりかけているのに、何故かみんなは遊んでくれる。


癇癪玉みたいに爆発する棒を僕にぶつけてみたり、光の筋を僕に当てたり。

ようし、戦争ゴッコだな。相手になるぞ。それっ!


そういえば、あの街にプレゼントしたのはその癇癪玉みたいな棒だ。

偶々僕に当たったけど爆発しなかったのを投げてみたんだ。

ん?……ということはそれはプレゼントじゃあないな。

そうか、だからあのとき、喜ばずに逃げたのか。僕の球は音速だからね、確かに当たったら危ない。


今日もみんなは遊んでくれる。

今だって、僕の周りに沢山の大砲を置いて戦争ゴッコを続けようとしている。


でも、それがみんなに迷惑をかけているであろうことは分かっている。


全ての事を合わせてみると、つまりは僕が存在している事がみんなに迷惑をかけることなんだ。

なんで僕はこんなに役立たずなんだ。教えてくれ。

僕は存在していてはいけないんだろう?分かっている。


それなのに……死ぬことも出来ないんだ。

毒を飲んでも効かない、首を吊っても絞まらない、包丁もどこに突き刺そうが刃が欠ける、どんな鈍器で自分を殴っても鈍器が壊れたりひしゃげる、車に跳ねられようとしても結果的に跳ねられるのは車、なら電車はというと同じこと。高層ビルから飛び降りたら、着地した瞬間地面にヒビが入る。

どうしても駄目なんだ。色んな方法を試した。どうやっても、どう頑張っても、死ねないんだ。


頼む。土下座でも何でもする。だから……

誰か、僕を────






殺してくれ。








………………


回送電車は、ごとりごとりと揺れながらゆっくり走っていた。

電車の中に忘れ去られた新聞。

無人の車内の、網棚の上で揺れていたのを、車掌が回収して、ごみ箱に放り込んだ。

暗いごみ箱の中でも鮮やかな、カラー印刷の一面。

『一年前、唐突に暴走し始めたロボットとの抗争は、今も続いています。ロボットには、核ミサイルも効かず、しかもロボットは汚染物質を垂れ流し続けています。圧倒的なロボットの火力に、未だロボットに対して有効なダメージを与えられていない軍は……』

華々しい一面に、カラーで彩られた記事は、果たして。


Fin.

九作目です。

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